成長率6.6%は正常な流れ

2019-03-01 08:28:51

 

学習院大学経済学部教授 渡邉真理子(談)

121日、中国国家統計局は2018年経済データで、18年の中国のGDPは前年比.6%増と発表した。経済規模が初めて90兆元を突破し、第135カ年計画で定められた6.5%の目標値を達成したことで、中国経済は世界第2位の座を堅守した。そして、3月に開催される全国人民代表大会と政治協商会議で発表される中国経済の「数字」に、世界は大きく注目している。

しかし一連の数字は、日本に「不安」ももたらした。財務省が1月23日に発表した貿易統計速報(通関ベース)によると、1812月の対中輸出額は前年同期比7%減、18年の貿易収支全体としては3年ぶりの赤字となった。この発表を受けた主要メディアは、中国経済の減速の主な原因は米中貿易摩擦で、日本がすでにその影響を受け始めていると一斉に報じた。

現状の複雑で厳しい国際情勢が、中国経済の下押し圧力をもたらし、日本に影響を与えていることは間違いない。しかし、中国経済は本当に心配な状況なのだろうか。そして、中日両国はこの状況下で何をすべきなのか。学習院大学経済学部の渡邉真理子教授に聞いた。

成長鈍化は発展段階に起こりうる

今、中国経済の状況は明るくはない。米中経済摩擦などのいろいろな事件も起こっているし、加えて大きな構造の問題もあり、中国の景気が全体的に悪いのだろうなということは感じられる。

ただ、これが不正常なことかというと、そうではないと私は考えている。中国の高度経済成長はかなり長く続いているので、そろそろ中成長期に入ってもおかしくない。18年のGDP目標値は65%と発表されていたが、この数値は第13次5カ年計画の目標値だったはずで、そう考えれば悪い数字ではないはずだ。

中国の統計はまだ完璧ではないので、データ自体に問題がある可能性は否定できない。隠蔽ではないかと言う人もいるが、今の中国政府が隠蔽をする意味はなく、それはないと私は考えている。景気は確かに良くはないが、正常な経済の循環だと私は捉えている。

この30年間、中国は高度成長しか経験していないから、成長率の低下は予定外の出来事なのだ。だから成長率が少々落ちるだけでパニックが起こる。今後は経済成長の発展段階として現状を受け止め、下ぶれに合わせた施策が必要になっていくだろう。成長の鈍化は決して不健全なことではない。来るべきものが来ているだけの話なのだ。ただし、長期的なトレンドで言うと、中国の1人当たりのGDPは、まだ先進国の水準には達していない。ここで「中所得国のわな」もしくは「移行経済のわな」に陥るリスクはある。

エクセレントカンパニーの誕生

発展にはイノベーションがつきものだ。アジアの中でも日本や韓国などの数カ国は、第2次世界大戦後の復興と高度経済成長を経験している。日本には1945年の敗戦から30年後の75年には、ソニーや松下などといった日本タイプのエクセレントカンパニーがすでに存在した。韓国も80年代にはサムスンが現在の形をつくっていた。

中国では78年に高度成長に相当する改革開放が始まり、その30年後が北京オリンピックの2008年だが、当時の中国には、フォーチュングローバル500にランクインするような石油や銀行などの大きな国有企業があるものの、新しいイノベーションを行うようなエクセレントカンパニーはなかった。先行するアジア諸国のサイクルから見ても、エクセレントカンパニーが生まれるのに時間がかかっていた。しかしそれから10年が過ぎ、中国もかなりイノベーティブになってきた。これは民営のインターネット関係企業の力が非常に強く発揮されるようになってきたからであり、華為技術(ファーウェイ)や阿里巴巴集団(アリババ)、騰訊(テンセント)のような会社のテクノロジーの実力が高まってきたからだ。19年が幕を開けた今、それらの企業はすでにエクセレントカンパニーと呼ばれるにふさわしい力を持っていることは間違いないだろう。

しかし中国の現実は非常に厳しい。例えば今騒がれているファーウェイ問題などはその好例だ。

私は毎年学生を連れて中国各地を回るが、おととしは深圳でファーウェイを訪問し、最新の5G技術を見学したり丁寧に企業戦略を説明してもらったりと、非常に勉強になった。実際に訪問することで、間違いなく実力がある会社だということを実感できた。だが、同社は今、さまざまな問題の矢面に立っている。これは、中国と世界のいびつな関係がいまだ解決できていないからであり、中国の体制に対する世界の不信感の犠牲になっているという面も否定できない。今まで綿密に戦略を練ってここまで発展してきた会社がこのような状況になっていることを、大変気の毒に思う。

世界に利する経済構造の構築を

中国は、世界各国と経済の仕組みを話し合って構築する作業を、我慢強く行う必要があると私は思う。そして日本は、米中どちらの国の味方をするかを考えるのではなく、より良い世界のための制度をつくるやり方はどちらなのか、より世界のためになれる方法はどれなのか、を考えてコミットすべきだ。例えば、中国の「自由貿易を守る」との発言を尊重し、協力の枠組みを日本が提案して話し合っていくなどといった形が望ましいだろう。中国を十分に信じることはできないが、中国が自分の主張を履行するように促すことは必要だと思う。特定の国の利益を考えるナショナリスト的発想ではなく、日本も中国も、世界全体がメリットを受ける仕組みをつくる作業に積極的に関わることが望ましい。そして中国には、国家体制の違いから世界が中国に対して抱く恐怖感に対し、どのように説明をしたら信用してもらえるようになるのかを考えてほしい。

日本と中国の具体的な経済協力の方法だが、これはもはや、日中の間だけの話ではなく、世界規模の協力体制を考えるべきだと私は思う。その仕組みをつくるために、中国と日本、そして欧米が、過去の制度をつくってきた経験などを基に話し合い、より良い世界をつくるための責任を誰が担うかで競争をするのが望ましい。

現在、多くの中国人が起業などで日本の経済活動に関わっているが、今後もどんどん進めるべきだ。日本にも中国にも、起業家の面白いチャレンジをより一層歓迎する仕組みをつくってほしい。日本国内における日中協力については、能力があり税金を納めてくれる中国企業が日本に積極的に来て投資や起業をし、日本人の雇用や日本企業との競争が可能になるような方策を考えてもらいたい。一方中国には、昔のように世界中からさまざまな人が集まって多様な経済活動ができ、誰もが気軽に出入りできるような国になってもらいたいと願っている。

 

人民中国インターネット版 201931

 

 

 

1991年アジア経済研究所入所、9799年香港大学訪問学者。200609年北京大学光華管理学院訪問学者。13年より現職。経済学(博士)。

(写真于文/人民中国)

 

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