新時代の日中経済交流

2019-03-01 09:41:20

(財)国際貿易投資研究所チーフエコノミスト 江原規由=文

日中平和友好条約締結40周年に当たる昨年、日中関係は大きく前進した。そのことを象徴するのが、李克強総理の来日と安倍晋三首相の訪中だった。

1972年の国交正常化以降の日中関係は、熱烈歓迎、冷静実務の時代から、90年代の「政冷経熱(政治関係は冷めているが、経済貿易関係が活発な状況)」の時代を経た。今年は、新中国が成立70周年を、日本が平成の時世から新元号の時代を迎えるなど、日中両国はそれぞれ大きな節目の年を迎えたと言える。今後、日中関係はどんな時代を迎えようとしているのだろうか。

改革開放と隅田川の中国語

昨年12月に開催された改革開放40周年記念大会で、改革開放の推進に貢献したとして10人の外国人が表彰され、大平正芳元首相と松下電器産業(現パナソニック)創業者の松下幸之助氏の両氏(いずれも故人)が選ばれた。大平氏は「日中国交正常化を進め、改革開放を支持した政治家」として、松下氏は「国際企業として中国の改革開放に参画した先駆者」として評価されている。大平氏は、日本が米国に先駆けて中国と国交を正常化した立役者であり、松下氏は、鄧小平氏が日中平和友好条約締結のため来日した際に約束した、中国進出(87年の北京ブラウン管合弁工場建設)を実現している。その後の日中関係は紆余曲折があったものの、多くのウインウイン関係を構築してきた。大平、松下両氏はその礎を築いた偉人と言えるだろう。

今や、日中両国は世界第3位と第2位の経済大国として世界経済の発展を担う立場になった。李総理と安倍首相の相互訪問、その後の日中関係改善のムードの高まりは、大平、松下両氏の頃の日中関係をほうふつとさせる。

それを物語るかのように、東京での昼休みに、春の花見や夏の花火で有名な隅田川の土手や、テラスの水辺空間を歩いていると、中国語を話すビジネスマンに最近よく出会うようになった。近くにある銀座や築地でショッピングや物見遊山にいそしむ中国人観光客の話す中国語を耳にするのは、すっかり日常化しているが、隅田川のテラスで中国人の話す中国語に出会うのは、新鮮な感じがする。彼ら彼女らが勤めているのが在日中国企業なのか、それとも日本企業なのかは分からないが、「隅田川の中国語」は、日中経済貿易関係が緊密化し深化しつつあることを雄弁に語っているように思える。

改革開放下の経済交流の軌跡

昨年は、中国に国内総生産(GDP)年平均成長率95%という驚異的な高成長をもたらし、日中経済貿易関係の発展にも大きく貢献した改革開放40周年でもあった。この40年間の日中経済貿易関係を概観すると、垂直貿易から日本企業の対中投資の時代へ、そして現在、日中双方向投資と水平貿易の時代を迎えている。具体的に言うと、改革開放当初は電機、鉄鋼、繊維製品が日本の対中主要輸出品で、長期貿易協定による原材料(石油石炭など)や食品など、第1次産業製品が対中主要輸入品だった。1990年代に入ると92年の鄧小平氏の南巡講話を契機に、対中投資(電気、電子、機械関連業界が中心)が急速に進み、2001年の世界貿易機関(WTO)加盟で対中投資にさらに拍車がかかった。

投資先としての中国の魅力は、豊富な労働力の存在、部材調達拠点、そして膨大な国内市場の存在、対外開放にあったと集約できるが、近年における日本の対中投資は、サービス分野への進出が目立っている。今後は人材確保や、中国企業と連携して第三国市場で事業展開する機会創出のための対中進出が増えてくるのではないだろうか。

ちなみに17年の日本の対中投資は日中関係改善ムードを先取りした形で、前年比51%増と、前年までの4年連続減少から増加に転じ、中国の対日投資も前年比プラスに転じたほか、対日投資総額に占める割合を増やしている。日中貿易(18年上半期、ジェトロ発表)では、日本の主要輸出品が半導体や集積回路など、同輸入品では携帯電話端末自動データ処理器などと、機械機器類を中心に水平貿易が進んでいることが認められる。今後の日中経済交流の発展には、対日進出する中国企業が大きく関係してくることになるだろう。

「三種の神器」で見る経済交流

では、日中経済交流の発展の推移を中国人の視点(需要サイド)からみたらどうだろうか。中国人の憧れの対象となった「三種の神器」の変遷からひもといてみよう。

中国人にとっての「三種の神器」とは、1960年代が腕時計、自転車、ラジオ。70年代が洗濯機、ミシン、カメラ。80年代が冷蔵庫、カラーテレビ、ビデオカメラ。90年代が携帯電話、エアコン、オーディオ。そして現在はマイカー、マイホーム、パソコンとされている。70年代の「三種の神器」はほぼ全てが中国製で、80年代から90年代は多くが対中進出した外資企業(中外合弁企業輸入品を含む)の製品によって構成され、今世紀に入ると、中国企業(同)の製品が増えてきている。以前の中国の「三種の神器」には「メードインジャパン」のプレゼンスが高かったと言えるが、近年は海外進出した中国企業が生産した製品が、国内外市場でプレゼンスを高めつつあり、日中両国の消費者が「三種の神器」を共有する時代が到来するかもしれない。

モノからサービスへ

中国企業にとって日本は、今や主要な輸出先国、ビジネス連携先(日本企業のM&A、研究開発拠点など)として重要度を増しつつあり、かつての日本からの輸入品が日本への輸出品となっているケースも珍しくない。今後は日本市場でプレゼンスを高める中国企業が確実に増えてくるだろう。すでに中国を代表する通信機器メーカーである華為(ファーウェイ)が、11年に中国企業のトップを切って日本経済団体連合会に加入しており、日本での人材確保や研究開発を積極化しつつある。最近、日本のテレビに、中国企業がスポンサーのコマーシャルが登場するようになったのも、前述の「隅田川の中国語」にもこうした現実が反映されているわけだ。日中経済交流は日々深化発展しつつあり、新たな連携の時と機会に向き合っていると言える。

ところで、現在の中国の「三種の神器」だが、中国経済の国際化や暮らしの向上を背景に特定できないほど個性化多様化してきている。注目すべきは、企業の作る「モノ」に限らず、観光、教育、医療、健康、養老、介護などのサービスも「三種の神器」の有力候補や予備軍になりつつあるということだ。20年、中国は「小康社会(ややゆとりのある社会)」を実現する。そして中国人の消費パターンは衣、食、住から行(観光など)、用(消費など)、そして、網(インターネット関連)に重点が移りつつある。今後の日中経済交流の発展には、こうした時代の変化をしっかり踏まえた対応が求められていると言えるのではないだろうか。

経済協力の深化発展に向けて

さて、日中平和友好条約締結40年、改革開放40年を経た現在、日本にとって中国は最大の貿易パートナーであり、中国にとって日本は世界第6番目の投資相手国となっている。17年の日中貿易は改革開放当初(1978年)の60倍以上で、日本の対中投資残高はほぼ900億と、米国の約650億を上回って余りあるものがある。日中経済交流は今や、相互補完相互依存関係を深め、協力ウインウイン関係を構築発展させ、その質を高めつつあると言える。

この点で今後の日中経済交流の発展に大きく影響すると考えられるのは何といっても、グローバリズム、多国間貿易体制の行方だ。現在、世界には保護貿易主義、反グローバリズムが台頭しつつあり、中国が国際経済ガバナンスの改革を提唱しているほどだ。グローバリズム、多国間貿易体制の維持に関しては、日本をはじめ世界の多くの国が立場を同じくしている。経済規模で世界第3位の日本、第2位で世界最大の貿易生産大国の中国は、今後の国際経済ガバナンスの形成で世界をリードする位置にあると言えるのではないだろうか。国連関連機関やWTOなどの場で、日中両国が共同歩調を取る機会を増やすことが理想だが、現状では両国が経済交流の強化発展をまず優先し、その経験を各国と共有しつつ、中国の提起する公正かつ客観的な国際経済ガバナンス形成で、世界的コンセンサスの構築を目指すのが現実的かつ効果的と考えられる。

そこで、現状で考えうる日中両国による協力の可能性を2点指摘したい。第1は世界約100カ国と地域が参加支持する「一帯一路」における第三国市場協力の推進、第2は第4次産業革命関連での連携強化だ。

昨年10月、安倍首相の訪中時、習近平主席は安倍首相と会談し、「『一帯一路』の共同建設は、日中のウインウイン協力に新たなプラットフォームとテストケースを提供している」と提起した。対して安倍首相は、「『一帯一路』は可能性ある構想で、日本として中国側と第三国市場協力を含め、広範な分野で協力を強化する」と応じたと報じられている(人民日報海外版 1027日)。事実、安倍首相の訪中時に第1回日中第三国市場協力フォーラムが開催され、日中企業家1000人余りが参加、50余りの具体的支持プロジェクトに関する覚書が交わされている。今後は対中進出している日本企業が中国企業と連携し、さらに将来的には、対日進出した中国企業が日本企業と連携して第三国に進出するケースが増えてくるのではないだろうか。安倍首相が習主席に言及したとされる「競争から協調へ」の新時代がまさに始まったと言えるだろう。

第4次産業革命での連携強化の要点は、中国のイノベーションと日本の技術(例 : 匠の技中小企業の技術など)のコラボレーションだ。第4次産業革命は、生産、販売、消費といった経済活動に加え、健康、医療、公共サービスなどの幅広い分野に及び、人々のライフスタイルにも影響を与えるとされるなど、人類の未来に大きく関わっている。日中両国が第4次産業革命の主役であるAI、IoT、ビッグデータ、ロボット、シェアリングエコノミーの発展をリードし、超スマート生産、超スマート社会の実現に貢献することは、日中両国共同の世紀のプロジェクトと言えるのではないだろうか。第4次産業革命における日中協力は、企業秘密、知的財産権、国情、標準化の問題などもあり、「言うはやすく、行うは難し」(2)だが、一歩一歩の積み重ねと信頼関係の構築があれば、前途は開けると期待できる。

改革開放40周年記念大会での重要講話で、習主席はこんな一節を引用している。「魯迅氏は次のように言っている。『道とは何かと問われれば、道なきところは踏みつけられて、とげしかないところは切り開かれてできたものだ』」。第4次産業革命の道を世界と共に踏んで切り開くのも良し、日中両国が先に踏み、切り開いたその道を世界と分かつのも良し。日中経済協力の持つ可能性は、限りなく大きい。

各時代の「三種の神器」については諸説あるが、いずれも生活必需品から生活に潤いを与えるものへと変化した。現在のマイホームは、家が国家から分配されていた頃には思いもよらない選択肢だった

 

人民中国インターネット版 201931

 

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