IoT時代の中日企業協力

2019-03-01 10:04:18

日本企業(中国)研究院執行院長  陳言=文

数年前に日立製作所を取材した際、中西宏明社長(当時)は熱意を持って中国企業との「きょうそう」について話してくれた。筆者はそれを「競争」と理解し、中国との「競争」にこれほど熱心な日本企業とはすごいものだと感心したが、スクリーンに映し出された「協創」の2文字を見て、顔が赤くなるのを感じた。中国語で「協創」という言葉はあまり使わないが、字面で意味は分かる。日本の企業家が提唱するこの素晴らしい概念は、もっと広めるべきものだろう。

昨年、パナソニックは創業100周年を迎えた。津賀一宏社長が語る中国企業との「きょうそう」にもう驚くことはなかったが、スクリーンの「共創」の文字を見て、日本語の語彙の豊富さに改めて感じ入るとともに、日本語や日本企業に対する理解を新たにした。

 

IT業界における中国の飛躍

以前は日本に取材に行くと、「技術移転」という言葉を非常によく聞いた。古くは40年前の新日鉄から宝山製鉄所への技術移転、30年前の日立から福建福日電視機有限公司への技術移転などで、冷蔵庫や洗濯機の技術移転に関する論文や報告書はそれこそ膨大な量に及んでいる。技術移転と聞くと対等な関係性に思えるが、実際は技術を持った先進企業がその技術を先進的ではない国に渡す、もしくは日本企業が外国企業に何らかの技術を移転するといった、高所から低所への移転であるという特徴を持っている。

しかし協創にせよ共創にせよ、両国の技術協力にはすでに大きな変化が起きていて、そこには真の意味での優位性の相互補完がある。ではここ数年、中国企業はどのような優位点を持つようになったのだろうか。

まず、ITの優勢が見て取れる。日本はコンピューター生産大国で、ソフトの研究開発では他国に引けを取らないが、ここ数年の日本企業から、マイクロソフト、グーグル、フェイスブック、ツイッター、LINEのような、世界に影響を与えるSNSアプリなどが出ていないのは確かだ。中国は米国よりやや遅れているものの、百度(バイドゥ)、阿里巴巴(アリババ)、騰訊(テンセント)、京東(JDドットコム)など、ITを駆使した新たな企業が生まれた。

中国市場の発展は非常に早く、規模もとりわけ大きい。BAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)に代表される中国のIT企業はあっという間に巨大な国内市場を席巻した。その地位はいまだ揺るがず、米国企業は競争相手にもならず、日本企業もシェアの巻き返しは難しい。よって、中国企業にとって優位なのは、その巨大な市場だと言える。

また、IT分野で飛躍したことで、中国ではITを融合したイノベーション型企業が大量に出現し始めている。強力なITは、中国企業の優位性をより高めている。

ITと製造技術の中日融合

過去数十年間における中日両国の技術協力が主に技術移転だったとすれば、両国のテクノロジー分野では大きな変化が起こり始めている。今後は日本の製造技術と中国のITの融合が、両国の経済関係のイノベーションで重要な位置を占めることになるだろう。

日本企業は目下、世界各国への投資はもちろん、企業の合併や買収にも十分なレベルの内部留保資金(昨年11月までに446兆円)を保有しているが、海外投資はおろか、国内市場における設備投資にすらこれらの資金を使っていない。長期的な経済成長率が周辺国家を超えられなくなった頃から、日本企業は投資の意欲を欠いていたが、過去数十年間の工業生産技術と、その技術をさらに向上させる能力はいまだ保持している。

日立の大甕工場の部品棚は十数年前とほとんど変わりがないが、IoTとの連携がすでにできている。配電盤の組み立てにしても、各企業で製品の仕様が異なるため、外見は同じでも、中身は千差万別だろう。

「われわれは二十数年にわたって工場のオートメーション化の模索を行ってきました。各工程においてプログラムを入力した後、プログラムの指示に従って組み立てを行います。工程に異常があった場合、プログラム本体が即時にオペレーターに通知します」と日立の工場責任者は語る。間違いが起こり得ない工程で組み立てることによって、日本製品の安定した性能は最大限に保証される。

中国のITも非常に発達しているが、製造技術とより一層の融合を考えた場合、改善すべき点はまだまだある。

日立は昨年にテンセントと戦略協力関係を結び、医療介護や地域コミュニティーのセキュリティー分野での業務に共同で当たっている。日立はそれらの分野で非常に成熟した技術を持っているため、生産以外にも、ソフト方面でも応用することができる。日本企業の生産を基礎に開発された技術を、現在の中国のITと融合させれば、中国の広大な市場で新たな活用ができるだろう。

製造能力でサービスの質向上

日本企業は非常にグローバル化しているが、中国企業家倶楽部(06年に31人の企業家と経済学者、外交家の発起によって設立された民間非営利組織)に参加する企業家は少ない。パナソニックの津賀社長が中国企業家倶楽部の関連イベントに参加した際、中日企業協力の潜在力を大いに感じたという。

「中国の企業家のほぼ全員が松下幸之助を知っており、パナソニックが保有する技術製造能力と新製品の開発能力を知っていました。海底撈(中国でチェーン展開し、日本にも支店を持つ有名火鍋店)の総裁にレストランの配膳のオートメーション化の可否を尋ねたところ、すでにパナソニックのオートメーション技術を導入しているとのことでした」と津賀社長は語る。

急速に拡大する市場、技能にばらつきがあるオペレーター(料理人もしくは組立作業員)、品質を絶対に安定させなければいけない製品(食品)など、次々と現れる中国市場の新たな状況への対応策を迫られたことで、松下電器(中国)有限公司は自力で判断し、優れた経営能力を持つ在中企業になることができた。パナソニックと海底撈の協力は実現し、新たな一歩を踏み出したが、バイドゥとの間に構築された自動運転などにおける戦略的協力関係の具体的な進展も、間もなく見られるだろう。

日立やパナソニックに限らず、日本企業は今、中国のIT企業との協力を積極的に模索している。今後はこのような協力を通じ、新たな中国市場を開拓していくだろう。

 

人民中国インターネット版 201931

 

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