高齢化問題 共有し解決へ

2019-03-01 10:08:35

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腰と足をベルト固定すると、下肢機能が低下した老人が機械の力を借りて自立歩行をし始める。非力な介護スタッフも、特殊なベストを着るだけで寝たきり老人を軽々と抱き起こす「力持ち」に変身する――東京中央区新富町にある社会福祉法人シルヴァーウィングは、「ロボット介護」が特色の老人ホームだ。「神器(すごい機械だ)!」。力強いデモンストレーションに、中国から視察に訪れた人々も目を見張る。英国や米国、ロシアなどの政府関係者も視察にやって来る。近年では中国での評判が特に高まっている。

ロボットが切り開く新たな介護

シルヴァーウィングの石川公也理事長は、介護に携わって数十年という業界のパイオニアだ。同ホームは2001年に立ち上げた。老齢人口の急速な増加と介護者が不足する現状を見据え、介護の質と効率を高めつつ、スタッフの負担を最大限に減らす方法を常に考えている。

以前、政府の補助金を得たことで、石川さんはハイテク機器でこうした問題を解決しようと、老人介護の新たなモデルケースへの挑戦を決めた。しかし、職を失うことを恐れるスタッフから、「機械に介護ができるのか」という疑問の声が上がった。それだけでなく、新たな試みにはっきりと反対する職員もいたという。

「老人介護の機器は、身体補助、見守り、付き添いの3種類に分けられます」と石川さんは語る。例えば、介護レベルの高い部屋のベッドには各種のセンサーが付いていて、入居者の心拍や呼吸、睡眠状況をナースステーションで把握し、排便の介助の必要があるかどうかも判断してくれる。また、介助機器のおかげでつえを使わなくなった老人も多く、車椅子生活から立てるようになったケースもあるという。心のケアでも、ペットが飼えないお年寄りたちに、触れば笑顔で答えるアザラシのぬいぐるみが安らぎを与えている。

「AIやビッグデータ、モバイル技術など、老人ホームのテクノロジーイノベーションには大幅な開発の余地があります。中国での関連技術の発展は目覚ましいものがあります。今後は中国が老人介護関係の設備を導入すると同時に、一歩先を進んだイノベーションを行い、業界の発展をけん引してくれるのでは」と石川さんは期待する。

老人介護に必要「ソフトパワー」

横浜にある医療法人社団「廣風会」も、中国の視察団を迎え入れている。「你好!迎!」。スタッフの片言の中国語の対応も、すっかり慣れた様子だ。廣瀬里美代表取締役は「昨年から中国からの視察団がとても増えていて、今は毎週のようにお迎えしています」と明かす。

施設内は清潔に整えられているが、内装は新しくはなく、豪華さも感じられない。その点が、中国からの視察団にとっては、想像していた「豪華な日本の老人施設」のイメージと多少異なるらしい。しかし、説明を聞き実際に見学することで、「老人介護」に対する新たな認識が生まれるようだ。

廣風会では診療所とリハビリ施設を併設しており、入居者以外のお年寄りでもリハビリや食事、介助付きの入浴サービスを受けられる。また、近隣の住民向けの訪問サービスとして、独居老人への定期訪問による安否確認も行っている。

江蘇省常州市から視察に来た韋尉さんは、「老人介護施設は、地域の老人サービスも担っているのですね。規模は大きくないものの、サービスが非常に整っています。中国では老人介護の専門サービスがなく、老人ホームも不足しており、こうした問題の解決に役立ちます」と話す。投資会社に勤務する韋さんは、「会社が老人介護事業に興味を示しているため、今回の視察は投資と利益回収、社会的利益などの具体的状況の把握が目的」と語る。廣瀬さんの説明で、韋さんが予想外に感じたのは、「日本の老人介護業では人材育成に最も投資していて、老人ホームの『ケアスタッフ』は全て資格を持った医療や看護の専門家だった」ことだ。「中国の老人介護産業の需要は非常に高く、人気の投資先ですが、何を買うべきか、どうすれば利用者のニーズを満たすサービスを提供できるかなどについては、それほど明確になっていません。投資家の多くは、いまだに豪華な設備や車椅子の完備などといったハードウエアの充実ぶりに注目しがちです」と韋さんは中国の現状を説明した。

「共に学び共に成長」の時代へ

李克強総理が昨年5月に訪日し、両国が『サービス産業協力の発展に関する覚書』に調印したことは、業界では当時話題になった。また、安倍首相の訪中直前の1023日には、中国の国家発展改革委員会と日本の経済産業省の共催で、「第1回中日介護サービス協力フォーラム」が北京で開かれた。その際、同委員会の郝福慶副司長は、「中日両国は共に高齢化社会に向けて挑戦している。中国は広大な市場を持ち、中国政府は老人介護福祉サービスの発展で、市場の力が重要な役割を果たすことを重視してきた。日本はこの分野における経験が豊富だ。両国が協力することで、必ずや豊かな成果があるだろう」と期待を込めた。

2010年に中国で行われた上海国際博覧会で、「生命陽光館」パビリオンの高級顧問を務めた田中理さんは、日本の老人障害者介護とリハビリテーション(8)の専門家だ。長年にわたり、この分野での中日交流協力関係の構築に尽力してきた。

田中さんによると、これまで両国の間には政治問題や介護産業に対する考え方の食い違いが少なからずあったため、大きな協力は行われなかったという。今の中国は老人介護を重視し始めている。だが、人材や技術などの先進的なソフトパワーを生かし切れず、適材適所ができていないといった問題に直面している。だからこそ、今後の日中協力には大いに期待している、と田中さんは話す。つまり、老人介護問題での協力が実を結ぶ時代が、ようやく訪れたということだ。

「中国はいわゆる『日本式介護』に多くの期待を寄せています。しかし、リハビリテーションを含む介護サービスは、日本が発祥ではなく、欧米に留学した人々が持ち帰って来たものです。『日本式介護』は、長年の発展と日本国内の需要が結び付き、文化や習慣などの実情も加え、官民一体(9)で作り上げた大きな体系であると言えます」と田中さんは語る。さらに、「『日本式介護』も中国で決して万能ではなく、中国の実情と結び付ける必要があります。また、日本にもいまだに解決できない難題があるので、中国と交流や協力をしていく過程で互いに学び成長し、長所を採り短所を補えば(10)、日本にとっても収穫があるでしょう」と、新たな協力の時代の到来に願いを込めた。

 

人民中国インターネット版 201931

 

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