投資を呼ぶ改革開放の拡大

2019-03-01 10:14:05

キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 瀬口清之

過去10年の対中投資は紆余曲折

2008年のリーマンショック以降、全世界が長期経済停滞に陥り、中国以外に投資する先がなかった上、欧米に比べて日本企業の負ったダメージは小さかったため、対中投資が比較的早めに回復した。

10年から12年の前半にかけて、日本企業は比較的積極的に対中投資をしていたが、12年9月に島の問題が起こったことで、一斉に慎重になった。元々70を超えていた年間対中直接投資額が、30近くまで減少し、13年から15年の約3年間は停滞が続いた。

しかし16年秋、先延ばしにされていたホンダの武漢第3工場建設計画がついに始動し、それを機に他の企業でも対中投資を見直そうという動きが出始め、17年からその動きが徐々に積極化した。それにより、17年はわずかながら対中直接投資が回復し、昨年は年初から各企業が一段と積極的になった。そこに李克強総理の訪日が重なることでその傾向が一段と加速し、昨年後半は久しぶりに対中投資が活発化した。

私は昨年10月に中国出張したが、中国で働く日本人が異口同音に「潮目が変わった」と言っていたのが印象的だった。中国で長年働いている、現地法人のある子会社の日本人社長などは、鄧小平氏の訪日などを背景に日本が対中投資に最も積極的だった1980年代頃の雰囲気に戻ったとさえ言っていた。

サプライチェーン撤退は誤報

昨秋、日本のあるメディアが、中国進出中の日本企業が米中貿易摩擦の影響を懸念し、中国からサプライチェーンを撤退させていると報道した。私も気になって現地の経営者などに聞いてみたが、撤退は従来から計画されていたもので、タイミングがたまたま米中貿易摩擦に重なっただけであり、米中貿易摩擦が原因で撤退を決めたつもりは全くなかった。それにもかかわらず、新聞記者が勝手に書いてしまった。あれは誤報だ、と言っていた。撤退の動きがあるのは、経営問題を抱える一部の企業だ。具体的には、賃金の上昇や物流コストの上昇などに耐えきれない企業、もしくは中国でのマーケティングがうまくできていない企業などである。

今後、米国が「中国国内の工場をASEAN(東南アジア諸国連合)や日本、米国に移せ」というプレッシャーを日本企業に対して強めてきた場合、日本はとても困るだろう。そうなったとき、米国企業自体が本当に移転するのかを冷静に見極める必要がある。

上海の米国商工会議所(米国商会)が昨年まとめたアンケート結果を見ると、65%の企業は、中国における投資から一歩も動かないと回答している。19%の企業は中国とASEAN間のバランスを多少調節すると回答し、中国から米国に移転すると回答している企業は6%に過ぎない。つまり現段階では、米国企業ですら中国からの撤退を考えていない。したがって、現段階では日本企業が米中貿易摩擦の影響を懸念して撤退などに動く必要はないと私は思っている。

中国市場は依然魅力的

改革に伴う副作用と米中貿易摩擦の影響で、中国経済は昨年第3四半期から再び緩やかに減速し始めたが、日本の企業にとって中国の市場は依然魅力的だ。10年、15年先を見通しても、中国のように魅力的な市場は世界中どこにもないとの見方は日米欧の一流企業の一致した評価である。

中国が改革開放を今後どのように拡大していくのかは、日本企業にとって非常に大きな関心事だ。改革開放の成果を出していくためには、知的財産権の保護強化や政策運営の透明性向上が不可欠である。

中国政府が民間企業を金融面でどのように支えていくのかも焦点になる。足元は中国地場の民間企業が金融リスク防止の副作用で資金調達が難しくなり苦しんでいるが、中国の民間企業と日本企業は組みやすいと思う。民間企業の健全な発展を促す仕組みや制度が中国で整備されれば、民間企業が最も強力な改革開放のエンジンになり、日本企業の対中投資増加にもつながるはずだ。(聞き手構成=呉文欽)

 

人民中国インターネット版 201931

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