PART5 中国ブーム 出版業界を席巻

2021-02-24 13:59:36

2019年7月に中国のSF小説『三体』の日本語版第1部が、昨年6月に第2部が出版された。出版元の早川書房の今年1月のデータによれば、『三体』シリーズは計34万部売り上げており、SF小説のジャンルにおいて奇跡を生み出したと言っても過言ではない。そして『三体』が日本の出版市場にもたらした中国ブームは今も冷めていない。

 

『三体』ブームによって、日本の出版業界はその他の中国のベストセラー本も輸入し始めた(写真提供左3点は東方書店、その他は早川書房) 

中国小説への熱い視線

「昨年に河出書房新社が『中国SF革命』を、新紀元社が『時のきざはし 現代中華SF傑作選』を刊行し、私たち早川書房も中国の有名な推理小説『死亡通知書 暗黒者』を出しました。今年私たちはまた、『三体』第3部と昨年中国で話題になった推理小説『壊小孩』の出版を計画しています」。『三体』日本語版の編集を担当した早川書房の梅田麻莉絵さんは、最近の日本の出版市場の動きにおける中国のエンターテインメント小説の出版状況について詳しく説明してくれた。「『三体』が大きな反響を呼び、日本の出版業界は中国の多数の優れた小説が見つかるのを待っていると認識したといえます。それは読者のニーズでもあり、昨年多くの読者から、『三体』を読み終えて『三体ロス』状態になって、次に何を読めばいいのか分からず、似たような面白い作品はないですかと聞かれました。読者の中にはその空白期間を埋めるために『死亡通知書 暗黒者』や『折りたたみ北京』『月の光』を買った方も少なくありません」

実際、アマゾンの『死亡通知書 暗黒者』のレビューには、『三体』第3部を待っていたところ本書の紹介を見て購入し、中国ミステリーの魅力に気付いたというコメントがあった。そこからも『三体』の影響力をうかがい知れるだろう。

自発的に理解する気持ち高まる

早川書房は『三体』の読者分布を分析した際、読者のほとんどが30歳前後のビジネスマンやエンジニアで、4060代の男性というSF小説の従来のターゲット層からかけ離れていることに気付いた。さらに同書の電子書籍やオーディオブック(7)の売り上げが占める割合が他の書籍を上回っているという面からも、『三体』の読者は、仕事が忙しくて出退勤時しか読書できない若者が多いことが分かる。彼らの購入理由には、仕事で知り合った中国人から薦められた、仕事の関係で中国に興味があるなども挙げられる。

「『三体』が中国でとても有名な小説だからこそ、もともとSF小説ファンでなかった多くの一般読者に興味を持たせられたのです。中国の小説と聞いて、日本人が真っ先に思い浮かべるのはたいてい『三国志演義』や『水滸伝』などの古典です。日本人はもともと中国の古典や文化に大変関心がありますが、今の若者は仕事の必要性や興味から現代中国を理解したいと思っています。だから『三体』を買って読むということは、中国で一番流行している現代小説とはなんなのか知ろうとすることなのです」と梅田さんは分析する。

SNSが宣伝の決め手に

現代中国への興味の他、若い読者がもたらした新しい宣伝方法も『三体』による中国小説ブームを支えている。

出版業界に話題性のある作品が現れた過去の状況と比較し、梅田さんは次のような考えを述べた。「現在の発達したSNSは情報の伝達共有方法を変え、ブームをより長く持続させられます。情報を入手するのがとても便利になり、出版社がツイッターで新刊情報を発表してから、興味を持ったネットユーザーたちがすぐにリツイートし、読み終えてからSNSでレビューをシェアすることで、他の読者の興味を引き続けられます。『三体』を例にすると、読者は読後にレビューを書くだけでなく、似ている作品を紹介するのです。そのような口コミで新刊が気軽にお薦めされ、より多くの読者に知られ、広がっていきます。SNSは伝達という面で中国の現代小説が日本で流行する手伝いをしています」

中国書籍を専門に扱い、原書を輸入する東方書店は、書籍の宣伝におけるSNSの役割を近年ますます重視するようになった。常務取締役の田村正さんは最近輸入した『中国粧束_大唐女児行』(以下、『大唐女児行』)を例に次のように語った。「本書は唐代の服装、化粧、髪型を紹介しています。ツイッターで本の情報をアップするとすぐにフォロワーがリツイートしてくれました。中にはプロの漫画家やイラストレーターもいて、本書の売り上げを伸ばしてくれました」

専門的な内容が好まれる時代に

漫画家やイラストレーターが注目したことを、田村さんはこう分析する。「このような本を待っていた、ということでしょう。今までは古代中国がテーマの作品を描くとしたら、参考にできるものが壁画や文化財研究の専門書くらいしかありませんでしたから。『大唐女児行』は、服飾文化を分かりやすくかつ詳細に解説している点がニーズに合致したのだと思います」

『大唐女児行』が日本人に受けたのが田村さんの想定内だとしても、中国の伝統的な色彩を紹介する『国之色』の売れ行きは東方書店の予想をはるかに上回った。「本書はツイッターで紹介するとたちまち売り切れてしまいました。その後2回追加で入荷しましたが、いまだに注文があります。これは『国之色』が文化的な趣味と実用性を兼ね備えていて、中国の伝統色を紹介しているだけでなく、実際にデザインする際の配色の参考にもなるからです。だから読者の中には、実用目的で購入するデザイナーも少なくありません」

『大唐女児行』や『国之色』のように文化的な趣味と実用性を兼ね備えた書籍は中国で続々と現れており、実用面から日本の読者の仕事面のニーズを満たし、中国書籍の読者層を知らず知らず拡大している。

現代中国への興味やSNS環境の変化にせよ、日本の読者の実際のニーズを満たせる中国書籍の出版がますます増えるにせよ、これらはみな日本の出版業界で最近起きた喜ばしい変化だ。『三体』がもたらした中国書籍ブームが一過性の現象で終わらず、今後日本の読者に習慣を根付かせられれば良い。(王朝陽=文)

 

人民中国インターネット版 20212

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