PART4 大阪発 温かさ届ける中国茶

2021-02-24 14:06:28

昨年3月、新型コロナウイルス感染症が全国に広がりつつあった頃、大阪府高槻市のシェアアトリエ福寿舎に、中国茶教室中国茶席の「鈴家―suzuya―」(以下鈴家)がオープンした。逆風が吹く中でのスタートにもかかわらず、SNSでの発信、地元メディアでの掲載、シェアアトリエという横のつながりなどから徐々に「茶縁」が広がり、今や小学生も訪れる人気店へと成長している。中国茶の魅力を日本に伝えたいと奮闘する店主の澄川鈴さんに話を聞いた。

 

コロナ下でも人気店に

中国茶の歴史、六大茶類、地理と環境……パソコンの画面越しに受講者の真剣なまなざしが見える。鈴家のオンライン中国茶教室では受講者の質問が相次ぎ、時間通りに終わる方が珍しいという。「本当はお店でやりたいのですが、今はオンラインとオフラインの両方を活用しています。受講者の皆さんの意欲がとても旺盛で、私もそれに全力で応えています」と店主の澄川さんはコロナ下での奮闘を語る。お店には、茶器のほかに、澄川さんが中国留学中に購入した雑貨や、日本の着物をリメイクしたチャイナドレスなどが並ぶ。異国情緒の中にさりげなく「日本」を感じさせる雰囲気に店主の横顔を見たような気がして、好奇心がくすぐられる。

鈴家の中国茶教室では、「初級中級高級」のコースに分かれ、中国茶の知識や入れ方などを総合的に学べる。さらに「趣味講座」では6種類の茶葉を飲み比べつつ、澄川さんとおしゃべりをしながら気軽に中国茶に親しむ機会が用意されている。ひとくちに中国茶と言っても種類によって味や香りが随分違うため、参加者からは驚きの声が上がる。

他にも茶席、物販、中国の伝統行事に合わせたイベント、関西や東京の百貨店や文化サロンなどでの出張教室茶席も感染状況を見極めつつ行っていて、いずれも好評だという。精力的な活動の原動力は、「少しでも多くの人に中国茶のおいしさと魅力を伝えるために、中国茶を飲む体験を数多く提供していきたい」という思いから来る。

鈴家は、インスタグラム、ツイッター、ラインなどの各種SNSを駆使し、幅広い層への宣伝に注力している。また高槻市の地元ウェブメディアに何度も取り上げられ、予約制の体験講座や、お茶と点心を一緒にいただく一日中国茶館はしばしば満席になる盛況ぶりだ。教室やイベントにはお茶に興味のある小学生も通っていて、中国茶を囲んで明るい話し声が常に店内にあふれている。

文化を知るために言葉を学ぶ

中国政府公認の高級評茶員と高級茶藝師の資格を持つ店主の澄川さんが中国茶と出会ったのは、輸入商社の食品部門に勤めていたときのことだった。紅茶やチョコレートなどの輸入品目に混じって中国茶があり、興味を持つようになったという。やがて中国茶教室に通い、評茶員と茶藝師の資格を取得するほどのめり込んだ。しかし澄川さんにとって資格は決してゴールではなかったようだ。「中国茶文化をより深く理解するためには、中国語を学ぶ必要があると強く感じたのです」

澄川さんと中国茶の長い旅が始まった。商社を退職し、中国に渡って北京語言大学で留学生活を始めた。大学で懸命に中国語を学ぶ一方、放課後の時間や休暇を使って北京市内のお茶市場をめぐり、中国各地に散らばる茶の産地などにも多く足を運んだ。「いろいろな種類のお茶を飲めたのはもちろんいい経験でしたが、現地では中国茶がとても気軽に飲まれていることや、中国茶には会話を楽しむ場を醸成する魅力があることを知ったのが何より財産になりました」と当時を振り返って澄川さんは語る。当初2年間を予定していた留学生活だったが、中国語と中国文化の学びに手応えを感じた澄川さんは修士課程まで進み、5年半に及ぶ中国生活を終えて2017年7月に日本に帰国した。

「帰国した当初は、中国語を使った仕事をしたいと漠然と考えていて、中国茶のお店を開くつもりはありませんでした」と意外な言葉。「でも、たくさんの人に中国茶の道を勧めていただいたことと『福寿舎』との出会いが重なって、鈴家のオープンを決めました」

鈴家があるシェアアトリエ福寿舎は、阪急高槻市駅から徒歩5分ほどの旧城下町にたたずむ、築120年を超える町家だ。日本酒や酢の醸造所だった建物をリノベートし、書道教室やハンドメイドアクセサリーなど、さまざまなクリエイターのための空間として開放している。鈴家もその一部として中国茶文化を発信。「福寿舎にはいろいろなジャンルのお店があるので、訪れる人にも意外な出会いがあるはずです。横のつながりが強いのは、町家の素敵な習慣の名残りだと思います」と、澄川さんは建物が呼ぶ効果にも注目している。

中国の良質な文化を伝えたい

激務に追われる会社員が来店して澄川さんのお茶を飲み、「人が入れてくれるお茶ってこんなにおいしいんですね」ともらしたそのひと言が忘れられないという。「一概には言えませんが、日本人は悶々と一人でストレスを抱え込んでしまうことが多いように思います。そういう人たちに中国茶で少しでも憩いの時を届け、寄り添っていくことができたらと思っています」としみじみ語る。

最後に、今後の目標と中国茶の魅力について聞いてみた。「今よりお店の規模を大きくして、日中文化交流の場にできればと思っています。また、日本で『お茶』というとなんだか敷居が高く感じる人が多いようですが、茶芸はさておき、私が中国で訪ねたお茶屋さんの多くは、気軽にお茶を飲んでほしいという思いにあふれていました。茶飲み話をしながら、時に笑い、時に痛みを分かち合う。そんなコミュニケーションの場を作ってくれる中国茶文化の魅力、そして何より中国茶のおいしさをもっと伝えていきたいです」(南部健人=文)

 

人民中国インターネット版 20212

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