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恋人との心躍るひと時を演出 ――提案プロジェクトB

高原=文・イラスト 馮進=写真

お熱い2人の上海旅行コースといえば、黄浦江に臨む高級レストランでのディナー、豪華客船での黄浦江遊覧、衡山路にあるムードたっぷりなバーでの夜の語らい、テーマパークで思う存分楽しむ半日……、大体こんなところがお決まりの「メニュー」とされてきた。それぞれが大都会上海に見合ったプロジェクトだと言っていい。豪華に存分に、精いっぱい消費する。そんなぜいたくな感覚がきっとガールフレンドをその日一日、自分がまるでシンデレラにでもなったような気分にさせてしまうのである。当然、彼氏の財布の中身は残りわずかに。

そんな彼氏のためのプロジェクトBはないものなのだろうか。大金は使わずにのんびり上海を楽しみ、それでいて心ゆたかに、人込みをさけて、彼女との甘いひと時を演出する、そんな手立てはあるのだろうか。

ある。恋人との心躍るひと時を演出するプロジェクトBの登場である。

ここだけは欠かせない甜愛路

甜愛路は虹口区の四川北路の北側にある細い通りで、山陰路と平行しており、千愛里と隣り合う。千愛里は1920年代はじめに整備された日本人居住区で「愛の家庭が千軒」の意味が込められていた。新中国が成立すると「千愛里」の中国語の発音に近い「甜愛路」の三字をあてて千愛里に隣り合うこの細い通りの名がつけられたのである。

この「甜愛路」という名前から、静かで人通りの少ない通りは、いつの間にか人々から「愛」のレッテルを貼られることになった。そして、そのひっそりとして落ち着いた雰囲気が月明かりのもとで恋人たちが散歩するのに最もふさわしいとされ、また両側のメタセコイアの並木越しに見え隠れする日本式の洋館が独特の詩情をかもしだして、通りに面する小さな商店で売られるフルーツティーにしても、ここで飲むなら格別に「甜く」感じられるのである。

2度目にここを訪れたとき、甜愛路と四川北路が交わる交差点に「愛心ポスト」が設けられていることに気がついた。このポストに投函された手紙には、すべて「愛心」のスタンプが押される。ちょっとした工夫ではあるが、若い恋人たちの心理をとらえた心にくい応対である。

甜愛路の「愛心」ポスト

心を込めてアドバイス

ポストの向かいには封筒やカードを専門に売る店がある。女主人はお目が高く、あなたが欲しいものもきっとそろえてくれている。それと、手紙がお相手に届くのが待ちきれないようなら、「四川北路社区街道弁事処」の「伝達室」までお運びいただきたい。そこで「愛心」のスタンプを押してもらうこともできる。この地区の町内会の受付カウンターだが、そこで「愛心」のスタンプを押してもらえる。「愛心」スタンプの押されたラブレターを直接お相手に手渡すこともできるという次第。

「伝達室」のおじさんはたいへん親切で、私が「愛心」のスタンプを押してもらいにうかがったときには、特別に新しいスタンプ台を取り出して、封筒の下に新聞紙を敷き、ゆっくりと心を込めて「愛心」スタンプを押してくれた。そのまじめさ細心さはまるで結婚証明書の上に印を押すのと同じようだったので、私はほんとうに恐縮したことである。

レストラン「芭芭露莎」でランチを

レストラン「芭芭露莎」は静かで優雅な環境とモロッコ料理の味わいが多くの若者を引き付け、絶好のデートスポットに

大金を払わずにすむ心地よい場所をお教えするプロジェクトBにどうしても加えなくてはならないのが「芭芭露莎」である。

そこは私が上海でいちばん好きなレストランだが、何と言っても、そのロケーションがすごい。上海市のど真ん中、人民公園内に位置する。にもかかわらず、公園内の池の小さな島に建っているので、とても静かだ。

上海のど真ん中という最高の立地だけに、お値段も高いのではと、初めて「芭芭露莎」に入った時には、どきどきしたものだ。「芭芭露莎」はモロッコ料理のレストランで、夜はバーも兼ねる。店内は池に面したフロアと奥のフロアの内外二部分に分かれ、外は周囲のガラス窓を開ければ風通しも良く、夏の蒸し暑い日でも室内に涼しい風が渡って、とても心地よい。公園内の木々、島へ渡るための橋、池のほとりで釣りをする人、散歩する人などが目を楽しませてくれる。店内は客も少なく、落ち着いている。市の中心部のこんな素晴らしい場所で愛を語ることができるのである。

それでいてランチコースの値段は百元に満たない。かぼちゃのクリームスープ、野菜サラダ、ガーリックトースト、それに何種類かから選べるメインディッシュ、デザートにはチーズケーキ。味はどれも悪くない。上海の西洋料理レストランの値段相場からしたら、とてもリーズナブルだ。私事にわたって恐縮だが、ここのかぼちゃのクリームスープは、かぼちゃの嫌いな私にもとても良い印象を残した。それで上海に行く機会があればその都度「芭芭露莎」に足を運び、あのかぼちゃのクリームスープを飲んでみたいと願っているのである。

試しに出向いてみたいというあなたにアドバイス――かぼちゃのクリームスープはウィークデーのランチに限られたメニューなので、行かれる日の曜日をお間違えなきよう。

「人民広場」駅の人込みのなかで

このプロジェクトは上海の友人が話してくれたエピソードから選んだものだ。

上海の地下鉄の「人民広場」駅は何本もの地下鉄が交差する乗換駅で、市全体の交通の要になっている。駅構内に入るには20に近い出入り口があり、地下通路が縦横に通っている。通路の両側には商店が並び、さしずめ「地下城」といったところ。人通りのピーク時でなくても通路にはいつも人があふれ、見知らぬ者同士がそれぞれの方向に向かって右へ左へ、あちらへこちらへとまるで人の波のように通路いっぱいに押し寄せていて目まいがしてしまうほどだ。

友人のエピソードとは――

彼のガールフレンドが、「わたしたち二人には以心伝心でインスピレーションがはたらくものなのかどうか、試してみましょうよ。それでわたしたちが似合いのカップルかどうか分かるかも」と提案し、それぞれ思い思いの入り口から「人民広場」地下街に入り、同じ場所で出会えるものかどうかやってみたのだという。

約束の時刻に地下街に入るが、会う場所は決めず、地下鉄のホームにも入らない。案内図は見てはならず、携帯電話で連絡し合ってはならない。複雑に入り組んだ地下街の、それも大勢の人込みのなかで、果たして二人はめでたく出会えるものなのかどうか。

結果は、15分足らずで2人は出会え、彼女はそれこそ跳び上がって大喜びしたとか。

友人は私に「ばかばかしいと思うでしょう? ぼくはすぐに彼女がよく行くいつものドリンクスタンドに行っただけです。果たして彼女はそこにいました」

2人はこのほかにも別の遊びを楽しんだという。それは――

退勤時間帯のピーク時を選び、2人一緒にホームを出ると、ガールフレンドが口任せに地下街からの出口の番号を言う。彼は、彼女の手を引きながら、最短時間でその出口までたどり着かなければならない、というものだ。

今回は彼もこの遊びをばかばかしいとは思わなかった。彼が彼女の手をしっかり引いて、人の波をかき分けるようにして駆けながら、言われた出口番号の標示をさがすのだ。2人は狂ったように駆け、そして大声で笑い、その日一日の不愉快なこともさっぱり忘れて、まるで幼稚園児もいっしょだったとか。2人はただ駆けに駆けただけなのだが、それがとても楽しかったのである。

 

「九子公園」で昔懐かしい上海の遊びを

これはご案内したほうがいいものなのかどうかずっとためらっていたのだが……

そこは小さな公園で高架橋のそばにあり、静かな環境ではない。それに公園内でくつろぐのは多く老人たちで、若い2人が愛を語る場所にはふさわしくない。でも公園の設計がたいへんに素晴らしいのである。

「九子公園」は上海の子どもたちの昔からの遊びをテーマにした公園である。「弄堂」(上海などの都市に特有の集合住宅形式で、通りに臨んで入り口の門があり、中は中庭を囲む数軒から十数軒の住宅になっている)の中庭でよく見られた子どもたちの遊びをテーマに設計されている。「九子」とは、そうした遊びの中の代表的なもので、「打弾子」(おはじき)「跳房子」(石蹴り)など九つの遊びにはみな「~子」が付いているため「九子」と呼ばれる。公園内にはこの九つの遊びを表現した彫塑作品があちらこちらに置かれている。地面には「跳房子」をやるための格子状の枠線が引かれていたり、お手玉をやるための石製の台があったり、鉄の輪転がしをやるときの障害物として碁盤の目状に九つの丸い突起が並んでいたりする。自分も遊びたければ、公園の管理所に行けば、空中ごまや普通のこま、おはじきなどを貸してくれる。運が良ければ、地元の町内会が開く「九子大賽」(「九子」の大規模で高ランクの試合)にめぐり合えて、地元の名選手同士の試合を見ることができるかもしれない。

好きな人と一緒にここを訪れれば、お相手には子どものころの記憶がよみがえるに違いない。お相手が楽しそうに子どものころの思い出を話すかたわらで、あなたはその美しい記憶のかけらを収集し共有することになる。甘く心を潤す幼少年時の思い出話は、きっと2人の愛の成就に役立つことをお約束する。

 

 

人民中国インターネット版 2010年8月

 

 

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