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松江の古を訪ねて 繁栄がしのばれる庭園や寺院

 

高原=文・イラスト 馮進=写真

文物・古跡以外に、松江はかつての繁栄ぶりをさまざまな形で今に伝えている。精緻な伝統庭園、参拝客が絶えない西林禅寺、繁華な市街、そして江南にその名をとどろかす顧繍も、上海の西南に位置するこの小さな街の価値に気づかせてくれる。

豊かな連想を与える「酔白池」

松江を訪れる以前から、わたしはこの美しい名前に心を動かされていた。伝えられるところによると、北宋(960~1127年)年間、丞相(執政の大臣)の韓琦は白居易を慕い、特に白居易が晩年に洛陽で風流にのんびりと過ごした「中隠」(官職にありながら、私的生活で文学や芸術にひたる)生活に強くあこがれ、故郷の河南に私園「酔白堂」を造営した。これについては、詩人の蘇東坡が『酔白堂記』を著している。清代の初めに至って、松江の画家・顧大申は韓琦同様に白居易を敬慕し、酔白堂にならって松江に「酔白池」を造営したのである。

この庭園は、上海5大伝統庭園のなかでも最も古いものの一つで、その前身は宋代にまでさかのぼれ、900年の歴史を持つ。その後、各時代に改修と拡張が行われた。清の康熙年間(1662~1722年)になって、顧大申がさらに改修を行い、現在の「酔白池」となったのである。この庭園は蓮池を中心にしており、池の北には水上草堂があって、俗に「水閣」と呼ばれている。水閣を囲むように高木がそびえ、北側には無数の竹やぶがある。堂の下を一筋の清水が流れているが、訪れる人に、この池のほかにもう一つ水をたたえた深い谷間があるような感覚を持たせる。池を囲んで三方にはすべて回廊やあずまやが配されている。東南には「大湖亭」、東北には「小湖亭」、西には「六角亭」があり、天気のよしあしにかかわらず、景色を楽しむことができる。

周囲を見渡すと、わずか数ムー(1ムーは6.667アール)の庭園に景色の多彩な変化があって、見尽くせないように感じてしまう。これは、明清代に造られた蘇州の庭園における芸術的作風と基本的に一致する。唯一の違いは、その名を広く知られる蘇州の庭園がいつも観光客ですし詰めであるのに対し、酔白池ははるかに静かであることかもしれない。

酔白池は、風景が美しいだけではない。池の南の回廊の壁には『雲間邦彦図』という有名な石刻画像作品が飾られている。これは、清の乾隆年間(1736~1795年)の画家・{じょしょう}徐璋の作品。30の刻石で、百人近い明代の松江の歴史的、文化的著名人の肖像と略歴が記されている。人物の表情が生き生きとし、姿はそれぞれ独特、線はなめらかで簡潔という、得がたい逸品である。

酔白池

酔白池南回廊の壁にある『雲間邦彦図』(部分)

刺繍芸術の名品「顧繍」

古くから松江の綿紡績は非常に発達し、「衣被天下」とたたえられてきた。松江の布は質に優れ、装飾模様が優美であるとして、海外でも有名だ。こうした礎の上に「顧繍」が出現し、唐宋以来の刺繍芸術を新たな高みへと引き上げたのである。

明の嘉靖年間(1522~1566年)の進士(科挙の合格者)・顧名世が松江の邸宅を改修した折、地下から一つの石刻が出土したという。そこには、元代の書家・{ちょうもうふ}趙孟頫の親筆で「露香池」の3文字が書かれていた。そこで彼は、自分の庭園に「露香園」の名をつけた。この素朴で昔ながらの風格を持ち、優美な庭園のなかに、際立って優れた刺繍作品が生まれたのである。人はそれを「顧繍」あるいは「露香園繍」と呼んだ。これは顧家代々の女性たちの知恵と探求のたまものである。

顧名世の長男の妻・繆氏は、結婚前から刺繍にたけ、顧家に嫁いでからは収蔵されている宋代の書画の名品の数々を見て啓発され、宋繍の糸、配色、針さばきなど優れた伝統を基礎に、自らの観察と芸術的感覚を創作の中に生かし、純粋な観賞用である顧繍を作り上げたと言われている。

これ以降、顧名世の孫の妻・韓希孟、ひ孫の顧蘭玉らが顧繍の技術をさらに発展させ、民間刺繍のなかでもぬきんでて優れたものにしていった。蘇繍、湘繍など中国四大刺繍はすべからく顧繍の影響を受けていると言われる。

顧繍の特長は描き出された境地に奥深さがあることで、針を筆に、糸を墨にし、絵画を刺繍で表現するかのように真に迫っている。このため、文人雅士には特に好まれた。顧繍は縫い手に対する要求が高い。作るのに膨大な時間がかかるだけでなく、必要な技術水準が極めて高く、さらに深い書画の素養まで求められるという、中国伝統刺繍のなかでも最も文人気質を持つものなのである。

松江旧市街にある建物のなかに展示されている顧繍作品『禽浴図』

松江で生まれた顧繍の名作『吉祥天女』

庶民に愛される「廟前街」

廟前街の名を持つ門前町は松江旧市街のなかでも最もにぎやかな商店街で、松江を観光した後、リラックスするのに最適の場所である。夕方の廟前街は特に活気を帯びている。周囲には現代的な大型商業施設や飲食店が並んでいるが、庶民的雰囲気に満ちた廟前街の人気はまったく衰え知らずである。

この小さな通りは長さ50メートルに満たない。両側の店舗は二階建てで、小さな洋服店、ドリンクバー、軽食店、文具店、おもちゃ屋と、売っているのはみな安くて品質のよい、ちょっとした品物ばかりである。お客もみな地元の顔見知りの様子で、道端に立って軽食をつまみながらおしゃべりをしている。どこから来たのか、猫が一匹そんな人々の間を悠々と通り過ぎて行く。

ここの人出は、豫園や城隍廟に比べるとはるかに少ない。しかし、それだからこそ人々が安心して街をぶらつき、ゆっくりと遊ぼうという気分になるのかもしれない。

 

人民中国インターネット版 2010年9月19日

 

 

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