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熱暑の北京を逃れて

 

島影均 1946年北海道旭川市生まれ。1971年、東京外国語大学卒業後、北海道新聞社に入社。1989年から3年半、北京駐在記者。2010年退社後、『人民中国』の日本人専門家として北京で勤務。
北京の市街地から約100キロ西北の延慶県に「半日避暑」に行ってきました。北京の夏は猛暑、酷暑、極暑、烈暑、煩暑——どれも経験できます。ところが、ここでは「十度は違うよ」と地元の人がさわやかな顔で話していました。海抜と緯度が高いのと、山すその森林、緑地が広がっているせいで、さわやかな涼しさを与えてくれるのでしょう。

北京市の住宅街は万里の長城に向かって伸びています。万里の長城・八達嶺を越えると静かな田園風景と山並みが主役になります。市街地から山はほとんど見えませんから、北海道で大雪山連峰を眺めて育った筆者はほっとしました。

その山を越えたところに、名所になぞらえて、北京の「小漓江小三峡」としてPRしている龍慶峡があります。パンフレットを見ると「漓江よりも水は青く、三峡よりも山は険しい」と強気です。ここはダムでせき止められた峡谷が湖になっているのです。ダムの基部から頂上まで、外観は竜の姿に造られ、中にはエスカレーターが設置された約500メートルのトンネルの中を登りました。

「あっ、あれは何だ」-遊覧船から上空を見上げる観光客
トンネルを抜けると荒々しい山岳の風景が一望できました。少し歩くと濃緑の水を満々と湛えたダム湖の船着場に出ます。見上げると数人乗りと思われる小さなゴンドラが空中を動いています。これに乗ればダム湖を一望できる趣向でしょう。筆者は2、30人の乗りの遊覧船に乗りました。見渡す限り巨岩の急峻な崖です。岩には名前を知らない植物がへばりついていました。岩の茶色と緑がまだらになっていて、殺伐とした印象を和らげてくれます。

遊覧船のガイド嬢によると、そそり立つ岩山が造山されたのは1億8000万年前だそうです。後で調べてみると、ジュラ紀にあたり「シダやソテツが繁茂し、陸上には爬虫類が全盛を極め、始祖鳥が現れた」とありました。鳥は飛んでいませんでしたし、陸上動物の気配はありませんでしたが、濃い緑で透明度ゼロの水中には、竜の子孫が潜んでいるような神秘的な雰囲気が漂っていました。

遊覧船に乗り合わせた欧米人はじめほとんどの乗客が、思い思いの方向にレンズを向けていました。いろいろな形に見える巨岩には、猿人石とか震山如来などの名前が付けられていました。日本各地の景勝地でも同じことをしています。どこの人も考えることは似たようなものなのですね。

ところで、各所の案内板に必ず韓国語訳が付けられているのには驚かされました。日本語は入り口の1ヵ所だけ。地元・延慶県の担当者に聞くと、日本人ツアーは八達嶺までがほとんどですが、韓国人ツアーはここもルートに含めているそうです。また韓国側との共催でイベントも回を重ねているのも、韓国人ツアーが多い理由のようです。

ここは秋は紅葉が美しく、冬は氷祭りが開かれます。もう一度、行ってみたいと思っています。

 

人民中国インターネット版 2011年8月

 

 

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