ピースtoピース~鞍山講演会
ジャスロン代表 笈川幸司
鞍山には、森啓先生がいらっしゃる。
森先生がこの夏休みに、「ぜひ一度、鞍山に来てください。日本語講演マラソンの主題歌、ピースtoピースを学生たちに練習させておきますから!」とおっしゃった。
森先生は、去年は大連と西安で行われた『鬼川特訓班』に、今年もまた大連の特訓班にきてくださった。鬼川特訓班のレギュラー講師とも言える存在だ。

ところで、読者の皆さんに『鬼川』の説明をしなければ先に進めない。
『鬼川』というのは、5、6年前に北京大学で教鞭をとっていた際、教え子たちにつけられたあだ名。「おいかわ」と「おにかわ」、発音が似ている。当時、金髪姿で授業をし、厳しく発音指導をしていたせいで、わたしはそのように呼ばれていた。
二年前の夏、大連ではじめて鬼川特訓班を立ち上げた。当時の特訓班メンバーに二人、森先生の教え子がいた。
「二人の優秀な男子学生は、いま日本の大学で活躍しています」
「二人?」
それを聞いて驚いた。一人は中学時代から日本語を勉強していて、知り合った当時も日本語でコミュニケーションをとっていた。自信なさげに見えたが、その後、後輩たちの憧れの対象になったと聞いた。意外だったが嬉しかった。しかし、二人の優秀な男子とは?
そういえば、もう一人の男子学生がいた。当時、彼は礼儀正しかったが、わたしとはほとんど会話をしなかった。しかし、特訓後、「覚えたての『寿限無』を、クラスメートや日本訪問団の前で披露しました」という報告を受けた。その後、彼は優秀な学生として、周りの人たちに認められていたらしい。
教え子たちが、自分の努力で成長し、活躍する。その事実が嬉しい。

以前、大連で教鞭をとっていた森啓先生が、今年から鞍山師範学院で教えることになった。レギュラー講師・森先生がいらっしゃる鞍山だから行こうと決めた。
「私たちの大学には、有名な先生や大企業の社長さんなどは、どなたも来てくれないんです。やはりそういう方には、『有名な、どこどこの大学で講演しました』という肩書きが必要なのかもしれません」
張頴副所長の話だ。ならば、余計に力が入る。鞍山の学生たちに、一生忘れることのできない一日をプレゼントしよう。もちろん、一生忘れられない一日になるかどうか、こちらの努力ひとつで決まるわけでもない。しかし、そういう意識もなしに、それができるはずがない。とにかく、ひとことひとこと心をこめて語ろう。
「すみません。うちには2つの校舎があって、それぞれに日本語学科があるんです。2つの校舎の学生をひとつに集めれば良いのですが、それができません。先生がわざわざ2つの校舎においでくださるのは、ほんとうにありがたいことです」
10年前、教師になったばかりの頃、毎朝6時から教え子たちと走った。
とにかく、お金がなかった。いや、知識も技術もなかった。何もなかったが、時間だけはたっぷりあった。24時間、学生たちと一緒にいよう、そう思った。
あれから10年。学生たちにいろいろなことを教えてもらった。相変わらずお金はないが、それで悩むことはない。幸い、いまも時間がある。わざわざ学生たちにひとつの場所に集まってもらう必要はない。突然名前を出してしまい申し訳ないが、いつもいつもお世話になっている南京大学・斎藤文男先生の言葉、「自分の足を使え!」が脳裏を駆け巡る。いけるところは、自分の足で行こう。
会場に入ると、最初から温かい空気に包まれた。森先生のお陰だ。
90分間、力強い拍手を何十回もしてもらい、何十回も大声で笑ってもらい、大声でピースtoピースを歌ってもらった。
一生忘れられない一日を、逆にプレゼントしてもらった。
![]() |
笈川幸司 |
1970年埼玉県所沢市生まれ。元衆議院議員公設秘書。元漫才師。 2001年に北京に来て、10年間清華大学、北京大学で教鞭を取る。10年間、中国人学生のため、朝6時に学生とのジョギングから始まり、夜中までスピーチ指導を無償で行い、自ら日本語コンテストを開催、中国全土の日本語学習者に学ぶ機会を提供している。また、社会貢献をすることで、日本大使館、日本国際交流基金、マスコミ各社、企業、日本語界から高い評価を得ている。2011年8月から2012年7月までの一年間、中国540大学で11万人の日本語学習者を相手に「日本語の発音、スピーチの秘訣」についての講演を実施する予定。「ジャスロン日语学习沙龙」のホームページ:http://neo-acg.org/supesite/ |
人民中国インターネット版 2011年11月16日