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「先富論」 の申し子たち

 

富の偏在に不満も  

さて、牟氏荘園を本文の趣旨に当てはめて見ると、荘園は人工島埋立地、邸宅は南山・世紀花園、そして、歴代の牟氏は南山集団の宋作文会長といったところでしょうか。蓄財で富を成すことは多くの人にとって、今も昔も人生の醍醐味の1つであると思われますが、中国において、長者番付に載るような富豪や企業に対し今日ほど関心が集まった時代はこれまでなかったのではないでしょうか。例えば、米経済誌『フォーブス』(アジア版9月8日)が報道した400人の大陸部富豪の総資産額(4590億㌦/2兆9376億元)と昨年末新華社が報道した中国都市・農村部住民の貯蓄額30兆3302元を比べると、400人の富豪の資産総額が全国民の貯蓄額のほぼ10%に相当していることが分かります。  

また、フージワーフ研究院の発表した1000万元以上の富豪の分布図(上位10地区)を見ると、北京市、広東省、上海市、浙江省、江蘇省、福建省、そして、山東省、以下、遼寧省、四川省、河南省の順となっており沿海に偏っていることが分かります。  

こうした一部の個人と地域に富が偏在していることへの不満、それと裏腹の蓄財への期待が関心の高まりの大きな要因となっていると言っても過言ではないでしょう。

格差是正にも配慮  

中国が世界第2位の経済大国になる基礎を築いた鄧小平氏は、その「先富論」の中で、「経済政策上、一部の地域、一部の企業、一部の労働者、農民が努力して大きな成果をあげた場合、収入が多くなり、生活がよくなることをよしとすべきである。先に生活が豊かになった一部の人たちは、このうえない模範であり、その影響は広範囲に及び、その他の地域、その他の単位の人々が彼らに学ぶようになる。こうして、国民経済は持続的に発展することになり、全国人民がより早く豊かになれるというものである」と言っています。  

こうして、「先富論」の申し子といえる梁穏根氏が、そして南山集団が生まれたわけでしょう。その南山集団は人工島埋め立てプロジェクトで10万人の就業機会を創出するとしています。富豪のトップとなった梁氏の率いる三一集団(企業番付では167位)は、3月に日本を襲った東日本大震災後、福島第一原発を冷却するため、地上62㍍から注水可能なポンプ車を日本に寄贈するなど、社会貢献もしています。富豪地区上位10傑には入らなかったものの、重慶市では、共同富裕プロジェクト(例えば、国有企業の管理職と職員・労働者の収入は10倍を超えないなど)を実施しつつあります。国や地方は都市化の推進で格差是正に、また、社会保障の充実に注力しています。「先富論」の後半部分の実践に向けた環境は整ってきているようです。  

牟氏荘園はというと、事の次第はともかく、巨万の富を国家に寄贈して観光地として残り、人々の目を楽しませています。  

さて、来年はどんな企業とどんなタイプの人が長者番付に登場するのかが楽しみです。

 

注1 1999年より発表されている中国で定評を得ている長者番付。 

注2 企業番付上位10傑は、中国石油化工集団、中国石油天然ガス集団、国家電網公司、中国工商銀行、中国移動通信集団、中国中鉄株式有限公司、中国鉄建株式有限公司、中国建設銀行、中国人寿保険、中国農業銀行の順。

江原規由 (財)国際貿易投資研究所(ITI) チーフエコノミスト

1950年生まれ。1975年、東京外国語大学卒業、日本貿易振興会(ジェトロ)に入る。香港大学研修、日中経済協会、ジェトロ・バンコクセンター駐在などを経て、1993年、ジェトロ大連事務所を設立、初代所長に就任。1998年、大連市旅順名誉市民を授与される。ジェトロ北京センター所長、海外調査部主任調査研究員。2010年上海万博日本館館長をを務めた。

 

人民中国インターネット版 2011年10月

 

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