北京特訓班
ジャスロン代表 笈川幸司
2006年3月に始まった特訓班という名の会話トレーニング教室も、数えてみれば5年が経とうとしている。たまにうわさを聞きつけ、西安や大連、青島からも学生が飛んできてくれたこともある。
今回は、早稲田大学北京教育研究中心と清華大学日本語学科の協力を得て、10日間に渡り、4つのクラスを受け持った。学生は、北京市内の大学を中心に、天津、保定から計110名が集まった。
では、5年前と今とではどのような点が違うのか。
まず当時は参加人数も3、4人と少数だったことが挙げられる。また、参加者は北京市内のスピーチ大会で上位入賞を果たしたことのある学生たちだったため、最初からこちらが提示するハードルは高かった。目標は、全国大会で優勝することだったし、練習は主にコンテストに特化したものだった。

ところが、2009年に大連と西安でスタートした特訓班から様子が一変した。人数が30名前後と増え、日本語に自信のない学生も参加するようになったからだ。北京大学や清華大学というエリート校のトップクラスの学生を集めて行っていた以前の特訓班と同じやり方は通用しなかった。
では、特訓班ではどのようなことを行っているのか…
全国各地から数え切れないほどの日本語教師に聞かれた質問だ。今日は、そのやり方について述べていこうと思う。
レベルがまったく違う学生たちをひとつの教室に集め、各々が満足するようなトレーニングを実施するのは容易ではない。ただ、方法がないわけではない。
たとえば、作文能力を身につける方法だ。普通、大学二年生なら20分の時間を与えれば400字程度で日本語の作文が書ける。しかし、4日間の訓練で、3分以内に書けるようになる。文の構成を体で覚えるため起承転結も自然にできるようになる。
そう、文の構成を体で覚えるところがミソだ。まず型を覚える。そして実践する。これは柔道、剣道、合気道、空手道、茶道でも華道でも、「道」と名のつくものなら必ず最初に学ぶのが「型」だ。まず型を覚えてから応用に移る。型を学ばずに自由に作文を書いてしまったら、当然めちゃくちゃになってしまうことが予想できる。今回は、内蒙古から鶴田先生が、河北省からは滕先生と大友先生が、北京からは尾谷先生と井村先生、周先生が助手として協力してくださったが、彼らはみな、これまで「型」を教えることをして来なかったそうで、来学期にすぐ使いたいとおっしゃっていた。

次に会話力をつける方法だ。講演会でも言うのだが、話す能力を身につけたいなら、同じ内容を複数の人に話すことが大切だ。特訓クラスでは毎回3分以内で書いた作文の内容を、他の人に読んで聞かせるという訓練をしている。同じ内容を読んでいるうちに無理なく覚えられるようになる。最初は流暢に話せないが、5,6人にまったく同じ内容を話しているうちに流暢になる。実は、この感覚を味わうことが大事だ。
特訓班の練習が良かったと口で言ったとしてもそれがウソとも限らない。しかし、「ここに来て良かった」と感じる、この感覚にはウソはない。「自分は頑張った」「自分は成長した」「来て良かった」ということに、ウソがあってはならない。
最後に、特訓班では短期間である意味、特殊能力を身につけることができる。しかし、人は不思議な生き物で、つい先日までできなかったことができるようになった瞬間、今でもできない人たちをバカにする傾向にある。これは大げさな話ではない。わたしだって、この点については何度反省してもなかなかなおらないと落ち込むことがあるくらいだ。
そこで、特訓の最後には、参加した学生たちに3つの約束をしてもらう。
周りの人たちをバカにしない。周りの人たちの手助けをする。他人の十倍努力をする。
これらを約束した学生たちが各々自分の学校へ帰っていく。そして、来学期以降、いろいろな面で活躍し、その報告をしてくれるのだ。教師にとって、彼らが頑張っているという報告を聞くのは何よりもうれしい。
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笈川幸司 |
1970年埼玉県所沢市生まれ。元衆議院議員公設秘書。元漫才師。 2001年に北京に来て、10年間清華大学、北京大学で教鞭を取る。10年間、中国人学生のため、朝6時に学生とのジョギングから始まり、夜中までスピーチ指導を無償で行い、自ら日本語コンテストを開催、中国全土の日本語学習者に学ぶ機会を提供している。また、社会貢献をすることで、日本大使館、日本国際交流基金、マスコミ各社、企業、日本語界から高い評価を得ている。2011年8月から2012年7月までの一年間、中国540大学で11万人の日本語学習者を相手に「日本語の発音、スピーチの秘訣」についての講演を実施する予定。「ジャスロン日语学习沙龙」のホームページ:http://neo-acg.org/supesite/ |
人民中国インターネット版 2012年1月12日