中日参院選制したネット政治

中国社会科学院日本研究所副研究員 金嬴

金嬴

1973年生まれ、法学博士、中国社会科学院日本研究所副研究員。専攻はメディア社会学。著作には『密室と劇場――現代.当代日本政治社会構造の変遷』がある。2012年より、中国側代表として「中日ジャーナリスト交流会議」に参加している。

7月16日、筆者は北京で米国から来た友人と懇談した。彼は米国南カリフォルニア大のマスメデイア論の教授なので、まず米国のネット選挙事情を尋ねた。なぜかと言うと、今回から選挙活動でインターネットが解禁された参院選の投票日が近づいていたからだ。彼は2008年の米大統領選でのオバマ大統領を例に挙げ、大いに称賛した。続いて、筆者が菅直人元首相が安倍晋三首相を名誉毀損で訴えたというニュースを伝えると、彼はびっくりしていた。米国の政治家はブログでライバルを批判しないのか、と尋ねた。彼の答えは非常に興味深かった。大統領や党首クラスの大物政治家は自らそうした発言はせず、そうしたい場合は、「手下」にやらせる、ということだった。つまり米国の政治家はソーシャルネットを使う場合に、マナーを非常に重視し、自らの好ましいイメージを与えるためには、ライバルの体面にも配慮しなければならないということだ。

菅元首相は安倍首相を提訴するに当たって、個人的ではない利害得失を考慮したと思う。確かに矛先は現首相に向けたが、日本の政界に横行している悪性の言論風土が目障りだと思っている。彼から見れば、こうした状況が与える損害は選挙の公平にとどまらない。

中国の学者として、筆者は現在の日本の政治.外交に関する世論動向がネットで伝わることやネット選挙は、日本の政治に根本的な変化を引き起こしていることに注目している。目下、日本で「ネット発信力」という新語が流行している。中国にも同じような言葉があり、「ネット影響力」と言われている。実際に、二つ言葉の意味はほとんど同じで、「発信力」であれ、「影響力」であれ、知名度、注目度と支持率と直接的な関係がある。今回の参院選について、三大政党の党首の安倍晋三、海江田万里、橋下徹各氏を例に挙げて説明しよう。ツイッターで112万8104人のフォロワー(登録読者)を有する橋下氏、フェイスブックで37万3488人のフォロワーを有する安倍氏とわずか541人の海江田氏の間で、発信力の強弱とその差は一目瞭然だ。

もちろん、このような差が出る背景にはそれなりの理由がある。ネットにアクセスしている時間、更新頻度から見ると、橋下氏が最も積極的で、2008年にブログを書き始めて以来、一日当たりの更新回数は最多で百回を超えた。安倍氏は首相就任後、官邸と個人のフェイスブックを通じて、一日当たり平均1.8件のコメントを発信している。海江田氏は最も出遅れており、今年6月3日にブログを開設したばかりだ。三人の中の「勝ち組」と「負け組」は、非常にはっきりしている。

しかし、よりいっそう深く考えるべきは、更新の「量」の差だけではなく、「質」の差が三人のネット発信力の「差」を引き起こしている理由かどうかということだ。海江田氏のブログの目玉は「今週の四字熟語」というコラムで、「浩然之気」と自らの揮毫を貼りつけている。この優雅な気質によって、海江田氏は日本のメディアで「毛筆派」と呼ばれる。これに比べて、「ネット派」の橋下氏と安倍氏のブログは単刀直入で強気一点張りだ。橋下氏のブログにはいつも「ばか週刊誌」「白痴記者」といった攻撃的な書き込みが氾濫している。この面では安倍氏も負けてはおらず、自分を批判したテレビキャスター、新聞.雑誌記者、ひいてはかつて同僚だった元外交官に対して、一貫して名指しで風刺し、批判している。もし相手が謝罪すると、ブログで「ネット時代の勝利」と高らかに宣言した。

実際のところ、確かにネット選挙活動が安倍氏に今日の「勝利」をもたらした。報道によると、昨年8月10日、安倍氏は韓国の李明博(イ.ミョンバク)大統領(当時)が竹島(韓国名独島)に上陸したことについて、批判するコメントをフェイスブックに投稿し、半日で2万以上の「いいね」がついた。これほどの支持率を得て、当時、将来の見通しが立たず、低迷していた安倍氏は、この時すぐに自分の立ち直る方向を見いだした。そのため、「毛筆派」と「ネット派」はスタイルにおいて間違いなく「質」の差があると言えよう。

さて、今回の参院選からネット選挙活動が解禁されたことに話を戻そう。この解禁は本質的に見て、日本の政治発信市場で起きた制限緩和の新自由主義改革だと考えている。現在、各政党、各党首、各候補の間でそれぞれの発信力は著しい差が見られるが、こうした差が選挙結果に大きな影響を与え、発信力の勝者が選挙の勝者になる傾向が顕著になった。不安を抱かせたのは、上述のように、安倍氏ら「勝者」が民意にひそむ凶暴な感情を挑発したことだ。そうした感情が日本国民の被害者意識を増幅させているらしく、その被害者意識が直接的に「既得利益の打破」「中国に対抗」「北朝鮮を制裁」という強硬な世論の背景に変化しているようだ。一方、中国のネット世界でも、「日本を懲らしめてやろう」のような激しい発言が随所に見られる。このような「空気」は中日間の「スモッグ」をますます重苦しくさせるだけだ。

一方、性質の違う「気団」にも気づいた。7月上旬、朝日新聞によるネット調査で、「ネットで発信力ある政党代表は誰か」という問いに、39%のネットユーザーが安倍氏を選んだが、これを上回る41%が「誰も発信力があると思わない」と回答した。参院選後、安倍政権の安定性は大幅に向上するだろう。しかし、私から見れば、中国にとって、安倍政権の長期化、または日本国内のネット上の「嫌中」ムードは「不愉快な現実」というより、むしろ混沌{こんとん}とした現実だと言えよう。「盤古(中国神話で天地開闢の祖)が混沌を破り、天地は初めて清らかになった」。中日関係の盤古はどこにいるだろうか。

 

人民中国インターネット版

 

 
人民中国インタ-ネット版に掲載された記事・写真の無断転載を禁じます。
本社:中国北京西城区百万荘大街24号  TEL: (010) 8837-3057(日本語) 6831-3990(中国語) FAX: (010)6831-3850