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美食の背後にある物語『味道中国』

 

文・写真=井上俊彦

中国の映画興行は、一時の低迷期を経て現在では庶民の娯楽としてますます人気が高まっています。2014年には300億元近い興行収入を記録し、急成長するマーケットは内外から注目を集めており、国産映画も最新技術や海外の才能を取り入れるなど、さまざまな試みを繰り返しながら、観客に喜ばれる作品づくりに努力しています。そうして出来上がった作品は、従来からの中国映画ファンを楽しませるだけでなく、広く中国に関心を持つ日本人にも中国理解の大きなヒントを提供してくれています。そこで、このコラムでは筆者が実際に映画館で見た作品の面白さや、中国の観客の反応、関連の話題などをご紹介していきたいと思います。ご参考になれば幸いです。

 

中国の食を扱ったドキュメンタリー登場

映画館に飾られていた『味道中国』のポスター

 地方によってばらつきがありますが、中国では各学校が続々と冬休みに入っています。家の近くの高校も、同僚の娘が通う小学校も先週末から休みになりました。このまま春節(2月19日)明けまで休みが続きます。その先週末は『ホビット 決戦のゆくえ』が公開されて人気を集め、全国の興行収入は連日1億元突破の好調ぶりでした。そのうち7割前後が同作のものです。というわけで、若者で大にぎわいの映画館ですが、私は地味に公開されているドキュメンタリー映画を見てきました。

『味道中国』はとてもシンプルなフード・ドキュメンタリーです。オープニングで北京ダックなどさまざまな中国の美食が画面に映しだされた後、いくつかの食と人の物語が、季節を追って紹介されていきます。立春から立夏、中秋、冬至など重要な節気ごとに中国各地の食を紹介していく形です。たとえば、立春には福建省のワンタンにも似た「肉燕」づくりの名人である父と太鼓に打ち込む一人娘の物語が紹介されます。清明には留学する孫娘のはなむけに長江下流の高級魚「刀魚」(エツ)を淮揚菜に料理して食べさせる老人が登場します。このように、美食とその背後にある物語が観客に示されていきます。場所も沿海部から内陸部、東北地区から広東省までと広範で、登場する美食も金華ハムや小豚の丸焼きといった高級食材から、コチュジャンや漬物など家庭の味、伝統製法による塩や醤油、湯葉など多彩です。86分のドキュメンタリーで20種近い美食が登場します。

 

 

 

 

 デパートやショッピングモールには羊の飾り付けが増えてきた。いよいよ春節が近づいてきた感じがする

 

「食」が見直される中で

バス停の広告も春節に向けたものが増えてきた。そこで見かけたネットショッピングの広告コピーには羊が三つの文字が。ここでは、羊の群れのようにたくさんという意味で使われている
 このところ、中国では食に関する問題が注目を集めています。食品偽装などの安全問題がクローズアップされているのはご存じの通りです。日本に輸出されるものも多いことから、日本のメディアでも中国産食品に関する報道が増加しています。一方で、ものが豊富な時代になった中国では、食べ残しも社会問題になっています。中国全体で1年間に無駄になっている食べ物は、なんと2億5000万人を1年間養える量だという報道もありました。そうした中で、もう一度身の回りの食を見直そうという動きが出ています。食の安全に対する行政監督が強化され、春節を前にしたこの時期には、さかんに安全の呼びかけや立ち入り調査が行われています。また、レストランや学食、社員食堂では「光盤行動」(食べ残しゼロ運動)が行われています。

そうした動きの中で、2012年に中国中央テレビで放送されたフード・ドキュメンタリー『舌尖上的中国』(A Bite of China)が圧倒的な支持を得たのです。この番組では各地の興味深い食文化を紹介しながら、中国の長い歴史を持つ食文化の素晴らしさ、食の大切さ、食を通じた家族のつながりなどを見直すよう呼びかけており、続編が作られるほど支持されました。この映画はその流れの上にあると言えるでしょう。低予算ということもあるのか、テレビに比べても驚くような珍しい食文化への言及はなく、驚きの中国グルメを期待していた私には多少物足りなさも残りましたが、映画はテレビとはまた違った観客を持っていますから、こうした映画が制作されることにはやはり意味があると思います。特に、各エピソードは日本人にも理解しやすい内容でしたので、日本でも上映される機会があればいいなと感じました。中国料理に関心のある方なら、中国語が分からなくても十分に楽しめる内容だと思います。

 

 

【データ】

味道中国

監督:黄瀛灝、張偉、王冰、金瑩

時間・ジャンル: 86分/ドキュメンタリー

公開日:2015年1月23日 

 

冬休みに入った週末、映画館ロビーは若者や家族連れで大にぎわいだった

映画館では、春節を前に消防の公共広告も見られた。爆竹を鳴らす時には安全に注意しようという呼びかけは、いかにも中国らしい

 

北京紫光影城

所在地:朝陽区朝外大街10号藍島大廈西区5階

電話:010-65992922

アクセス:地下鉄6号線東大橋下車、A出口を出て交差点斜向かい2軒めのビル

 

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2014年1月28日

 

 

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