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「1帯1路」戦略が最先端 「新常態」で総理活動報告

 

 

新たな外資導入の機会創出

「報告」では、「四化」につき重要な提案がなされました。例えば、「メード・イン・チャイナ2025年」。これは、中国製造業の今後10年間の発展に関わる綱領的計画で、中国が強みをもつ製造業の創新化、知能化、基礎強化、環境重視化を目指しています。李総理は「産業構造をミドル・ハイクラスへと押し上げていく」「製造大国から強国への転換を加速していく」としました。現在、中国で外資製造業を中心に中国離れが話題となっていますが、「メード・イン・チャイナ2025年」で、新たな外資導入の機会が創出されることになるのではないでしょうか。同時に、企業の再編(吸収・合併など)を通じ、例えば、経済発展にとって{あいろ}隘路とされる過剰生産構造の圧力を軽減するとしているなど、「メード・イン・チャイナ」のグレードアップ化が図られようとしています。この点、注目すべきは、今年から本格化する国有企業の混合所有制への移行でしょう。

次が、「インターネット+」行動計画。これは、インターネットと現代製造業とを融合させることで、「インターネット企業(注)を育成し、国際市場の開拓と拡大へと導く」(「報告」)ための計画です。すでに医療、環境保護、小売などの民生分野を中心にインターネット産業は成熟しつつあります。

都市化、農業現代化でも着々と「富国富民」への布石が打たれていることを、「報告」から見てとれます。

開放政策の全面深化も推進

「報告」では「開放も改革だ」としています。改革の全面深化とは、開放の全面深化でもあるわけです。そこでは、さらに積極的に外資の有効利用を図ること、「走出去(中国企業の海外進出)戦略」を加速することなどが指摘されています。

中国はすでに、外資導入で世界最大(2014年=1196億㌦)となりましたが、今年は対外直接投資(同1029億㌦)が外資導入を上回ることが確実な情勢にあります。加えて、今年の春節(旧正月)休暇に、初めて中国人の海外旅行者数が国内旅行者数を上回るなど、中国経済に占める「対外要素」が増えつつあります。「報告」では、海外インフラ整備、装備製造業(鉄道、電力、通信、工程機械、自動車、航空機、電子等)の「走出去」を積極展開するとしていますが、注目すべきは、中国が主導するインフラ建設を軸とした「1帯1路」発展戦略(現代版の陸と海のシルクロード)の行方でしょう。「報告」では、「1帯1路」発展戦略を「全方位対外開放の新局面を構築する」重要な柱としており、同戦略は、「新常態」の最先端にあると言っても過言ではないでしょう。

さて、「報告」は最終章で「政府建設を適切に強化する」としています。すなわち、法治政府、創新政府、廉潔政府、サービス型政府の建設の推進です。これは、新たな1年を依法治国の開始年とした政府の姿勢表明であり、「報告」に対する実行責任を表明したものと受け止められます。この法治、創新、廉潔、サービス型の4点に、本稿冒頭の新常態に対応する「最大公約数」を認めることができるのではないでしょうか。

 

注 モバイルインターネット、クラウドコンピューティング、ビッグデータ、モノのインターネットなどと現代製造業との融合・連携など。

 

(財)国際貿易投資研究所(ITI) チーフエコノミスト 江原規由

1950年生まれ。1975年、東京外国語大学卒業、日本貿易振興会(ジェトロ)に入る。香港大学研修、日中経済協会、ジェトロ・バンコクセンター駐在などを経て、1993年、ジェトロ大連事務所を設立、初代所長に就任。1998年、大連市旅順名誉市民を授与される。ジェトロ北京センター所長、海外調査部主任調査研究員。2010年上海万博日本館館長をを務めた。

 

人民中国インターネット版

 

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