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今年の中国経済の成長率は

 

世界銀行チーフエコノミスト北京大学中国経済研究センター元主任

林毅夫世銀副総裁インタビュー

 

北京大学国家発展研究院の成立式および中国改革開放30周年記念国際フォーラムで、当面の国際金融危機と中国改革30年の市場化の道などについて、林氏が単独インタビューに応じた。

林氏は、中国の今年の経済成長率は8%~9%の間だと予測し、中国経済の急速な発展が今回の金融危機に対する中国の最大の貢献だとする考えを述べた。

オーストラリア国立大学のピーター・ドライズデール教授と語り合う林毅夫氏
――金融危機が全世界を巻き込んでいる今、中国が開放し過ぎないよう警告する学者もいるが、あなたは経済開放とその安全性との関係について、どのようにお考えでしょうか。

林毅夫氏(以下「林」と略す) 中国では、「因噎廃食(一度食べ物がのどにつかえたからといって、食事までとらない。つまり、小さな障害のために肝要なことまでやめる)」という諺があるが、「因噎廃食」ではいけない。一国で起こった問題が他の国に影響を及ぼすというのは、グローバル化の代償である。しかし、グローバル化によって、世界がさらに細かく分業化すれば、各国は一層自国の優位性を発揮し、資源の有効活用、技術移転の強化、産業と技術のレベルアップのためのコストを引き下げることができる。つまり、全体から見れば、マイナス面よりはるかにプラス面が大きい。われわれはこの問題を正確に総括しなければならない。食べるときにちょっと気をつけて小骨を取り出せばのどにつかえることはない。もし改革や開放をしないで計画経済に戻っていれば、今よりももっと大変だったのではないか。

「改革・開放」前、輸出入貿易が国内総生産(GDP)に占める割合は、9.5%くらいで、まだ外資が入ってきていなかったため、中国は海外からのいかなる衝撃も受けることがなかった。だからわれわれは「憂いのない」状態であったと言える。しかし決して「枕を高くして寝る」立場ではなかった。なぜなら当時の中国国民の可処分所得はまだ一人当たり150ドルにも達していなかったからだ。現在、グローバル化が進み、輸出入は総生産の70%近くを占め、外資の流入もかなり多い。今回は、国内はある程度影響を受けている。輸出は明らかに減少し、株式市場や不動産市場も下落した。しかし、我々市民の可処分収入は一人当たり2000ドルくらいに達している。これはグローバル化の賜物である。したがって、これからもグローバル化の方向に進むべきである。

もちろん、汲み取らなければならない経験や教訓もある。グローバル化の流れの中で、外国の直接投資に対してはさまざまな優遇を与えてもいいが、短期の資本流動については規制しなくてはならない。当面の金融危機に対応するには、中国は三つの防御線がある。一つは膨大な外貨準備である。お金があれば心強い。二つ目は資本口座が未開放のため、資金が外に流出しない。三つ目は財政が比較的好調であるため、東が暗ければ西が明るいというわけで、輸出が不調ならば内需に転じて、財政政策を拡張して助成する。

――米国のサブプライム・ローン問題は自由市場経済制度への世界的な反省を巻き起こしました。今回の危機の情況から見て、あなたは自由市場制度には問題があると思いますか。国内の市場化改革は歩みを止め、反省すべきだと思いますか。また、経済発展の過程で、市場と政府との関係をいかに処理すれば、市場の弱点を補うことができると思いますか。

林 市場と政府のどちらも必要である。一方的に政府を強調して、完全に計画や指令だけに頼ってはならない。情報が均整化しない市場経済の中で、特に金融面では、監督管理しなければ、モラル・ハザードは普遍的に存在するようになる。では誰が監督や管理の役目を果たすのかと言えば、政府をおいて他にはない。したがって、市場は政府を必要とせず、政府は市場を必要としないというわけではない。この問題は、両者のつりあいを考えなければならない。市場ができることは市場に任せる。市場ができず、政府がやるべきことは政府がやる。実は、今回の金融危機は市場の失敗だけではなく、政府の失敗でもある。一概に市場の失敗で、政府の失敗ではないとは言えない。問題を論議するのであればこの視点からすべきだと私は思う。市場が不完全であれば、市場をより完全なものにし、政府の不完全なところは、補ってより完全なものにする。こうしてこそ、双方に配慮することができる。

2008年9月15日、金融危機の影響を受け、ニュ―ヨーク株式市場は恐慌的な投売りとなり、「9・11」テロ以来の最大下げ幅となった(新華社)

――今回の金融危機の影響を受けて、これから世界経済の動きはどうなるのでしょうか。

林 金融機構は信用によって存在するものだ。人々は不良な金融派生商品のリスクがよく分からなかったため、1、2の金融機構が危機に陥ってはじめて、警戒心が呼び起こされた。こうして、金融機構の資金が流れなくなったというわけである。一つの銀行が倒れると、より多くの銀行の破産を招く。信頼感を持てない人々がいつでも貯金を下ろせるように銀行はいつも予備金を用意しなければならない。したがって、金があっても貸付に回せず、投資もそれにつれて低下する。

不動産バブルの崩壊によって、人々は経済への信頼を失った。株式市場の下落によって、投資者の資産が損失をこうむり、消費が減少する。このような事態のもとで、先進国は不可避的に経済の衰退期に入ることになる。これはすでに民間機構や公的機関の共通認識となっている。予測によると、米国や欧州、日本などの先進国は2009年は、経済成長率はゼロ、あるいはマイナス成長になると予測されている。

――世界銀行のチーフエコノミストとして、あなたは今回の金融危機についてもっとも注目する問題は何でしょうか。

林 当面するこの金融危機は1929年以来最大規模の危機であり、今、マスコミや専門家たちは焦点を主に欧米などの先進国にしぼって注目している。しかし、世界銀行のチーフエコノミストである私としては、世界銀行のサービス対象である発展途上国にもっとも関心を払っている。国際性を持った発展機構としての世界銀行の主な仕事は、発展途上国に手を差し伸べて経済を発展させ、貧困問題を解決することである。

――今回の金融危機は発展途上国に、どのような面で影響が生じるでしょうか。

林 先進国の経済後退に伴い、発展途上国の輸出は間違いなく減る。投資もそれに伴って減る。この金融危機が起きた時、海外からの直接投資が減り、しかも先進国の金融機関は自己防衛のため、また不時の要に備えて、自己資本比率を高める。このような情況下では、それまで発展途上国に流れていた資金は、おそらく先進国に戻っていくだろう。

石油、鉱産物資源の値段が下がりはじめると、資源が密集する発展途上国のビジネスが減り、投資ももちろん少なくなる。先進国の景気後退により、雇用される労働者の数が減り、当然労務輸出型の国の収益も下がる。このような情況下では発展途上国の経済も後退する。

それに加え、二次的な問題も生じる。発展途上国の経済発展のほとんどは投資が牽引している。入ってくる資金が少なくなると、大部分のプロジェクトが資金ショートして投資が続かず、銀行からの貸付金も不良債権となる。竣工したプロジェクトも、需要が減ると商品が売れなくなり、やはり不良債権になる。このような情況も、銀行危機を誘発する可能性がある。

経済減速と銀行危機は必然的に人々の自信を失わせ、株式市場の下落を招く。このような情況が発展途上国、特に外貨準備高の少ない、常に財政赤字を長期間にわたって、大量の外資の流入で補填してきた赤字国家にとっては、単なる経済減速どころか、金融危機ひいては「支払い危機」と言わざるを得ない。

――あなたは今回の金融危機に対し、発展途上国はどう対応すべきだと思いますか。

林 まずは、金融崩壊を防ぐことである。政府は当然ながら果断、迅速、全面的な措置をとって、銀行部門の瓦解や取り付け騒ぎなどを防止しなければならない。

次に、政府は経済成長率を比較的高く設定し、それを維持するよう努めなければならない。今年の上半期は、石油、原材料、食糧の値段が急騰した。世界における主な危機はインフレで、インフレを防ぐのがマクロ政策の主な目的である。しかし、現在、石油、鉱物、食糧の価格が下がり、インフレの圧力も軽減している。経済後退の可能性がある情況下では、政府は緩和的な通貨政策をとるべきだと思う。

まず、利息を下げ、預金準備金率を下げ、銀行の貸付資金を増やし、一部の企業とりわけ将来性のある産業を支え、投資を通じて経済の成長を促す。

第2、効果的な財政政策を実行する。もともと財務状況がいい国なら、財政政策によって効果が期待できるスペースも大きいだろう。発展途上国はインフラがもとより不足しており、特に一時期の経済急成長のため一部の発展途上国は、電力や交通などの分野がいつもネックになっている。ちょうどこの経済減速期をうまく使って、インフラの建設に力を入れ、経済発展をめざす方がよいと思う。そのほか、社会保障、教育、医療、保険などの部門に資金を回し、未来の経済発展のために先行投資することも大事だろう。

肝心なのは発展途上国が、通貨政策や財政政策上、時の経済動向とは異なった措置をとり、経済をいかにソフトランディングさせるかである。発展途上国が危機に見舞われると、低所得の弱者層が一番大きな損害を受ける。したがってわれわれは先進国の金融危機が発展途上国の生存と発展を脅かすことがないようにする必要がある。

――中国はどのように今回の金融危機に対応するのですか。

林 今回の金融危機の中で、中国にとってもっとも大切なのは金融発展の速い速度を保つことである。現在、中国は2兆ドルの外貨準備を使って金融市場を救うべきだという見方がある。しかし、この2兆ドルの外貨準備のすべてが現金ではなく、その大部分で米国国債を購入している。もし投売りして現金化すれば、別の危機を招く可能性が高い。

金融の嵐は間違いなく中国にも影響がある。われわれは早く過ぎ去ってくれるよう望んでいる。総体的に言えば、中国は自身の経済が順調であり、マクロ的な側面も比較的良好だし、様々な対外口座も比較的よいため、私は中国が今回の危機をうまくやり過ごし、速度の速い経済成長を続けるだけの能力があると信じている。

中国には金融危機に対する「処方箋」がある。それは内需を刺激することである。中国にとって、内需を高める余地がまだまだかなりある。例えば、さらなるインフラ投資、医療や社会保障に対する支出、そしてもっとも大事なのは農村というこの大きな市場を無視できないということだ。農村の発展環境を改善し、農民の収入を増やし、農村の需要を掘り起こさなければならない。

2009年は、強い消費支出と固定資産投資が引き続き中国の経済発展の牽引力となる。過去何年間の2桁の成長率と比べて、2%~3%ほどの調整があることは確かだが、今年の中国の経済成長率は8%~9%の間と予測できる。全世界から見れば依然として中国は経済成長の速い国だと言える。中国経済の高速の発展こそが、今回の金融危機に対する中国が成し得る最大の貢献である。(中国画報社記者 閻穎=文 王文泉=写真)

 

人民中国インターネット版 2009年2月10日

 

 

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