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金融危機からの回復へ 始まった中国発の「啓蟄」

 第1回の訪米住宅購入ミッションが2月12日、北京で記者会見した

「啓蟄」という季語があります。太陽暦の3月初旬に、冬ごもりをしていた虫たちが春の気配に誘われて、地上に出てくる季節を表したものです。希望や生命力に満ちた「前途洋洋」を髣髴とさせる季語といえるでしょう。

「百年に一度」とされる金融危機下で、冬眠中の世界経済にも一日も早い「啓蟄」の季節の到来を期待したいものですが、中国ではすでにその「啓蟄」が始まっているようです。

貿易不均衡是正への一石

2月24日、中国政府は中国企業数十社(注1)からなる「買い付けミッション」をEU四カ国(ドイツ、スイス、スペイン、英国)に派遣しました。単に「買い付ける」だけでなく、技術、金融協力など幅広い分野での協力関係(注2)の構築も目的となっています。温家宝総理が今年1月末から2月初めにかけて訪欧した際に派遣を約束したミッションですが、一カ月足らずで実現させており、電光石火の対応といってよいでしょう。

中国にとって、EUは最大の貿易相手先(注3)であり、第四の投資受け入れ先となっているなど、緊密な経済協力関係にあります。ただ、EUは対中国貿易で大きな赤字を計上しており、今回のミッション派遣には、金融危機の影響が濃厚なEUとの貿易インバランスの改善へ「一石」を投じたいという目的もあるでしょう(注4)。同時に、世界経済における保護貿易主義の萌芽に対する中国政府としての「牽制球」がこめられているとする識者は少なくありません。

今回のミッションの成果がただちに現れるとは限りませんが、投じられた「一石」の波紋がEU経済の底上げに波及効果を及ぼすと期待する向きも多いようです。

虎穴に入らずんば虎子を得ず

同じ2月24日、米国へも「買い付けミッション」が出発しました。捜房網(住宅紹介ネット)が中国各地から応募した400名から厳選されたという21名から成る「中国第一回米国住宅・マンション購入ミッション」で、1000万元以上の財産をもつ富裕層(注5)を中心に構成されています。訪米期間は11日間で、ロサンゼルス、サンフランシスコ、ラスベガス、ボストン、ニューヨークの五都市で物件を物色する予定となっています。

中国での関連報道を見ると、見出しに「忽悠(揺らめく)」とか「烫手山芋(熱いサツマイモ)」など、やや慎重で懐疑的な表現が目立ちます。前者には、「うまいことを言ってその気にさせられる」、後者には、「手を火傷する」ほどの意味が含まれています。

米国の不動産市場は、今回の金融危機の震源地です。賛否両論はあるものの、少なくとも、第一回の訪米住宅購入ミッションは「虎穴に入らずんば虎子を得ず」の役目はあるでしょう。

中国のミッションが続々来日

さて、中国発日本への「啓蟄」はどうなっているでしょうか。最近、中国の地方政府が組織したミッションの来日が目立ちます。二月でみると、初旬に遼寧省から、下旬に山東省から、主に「招商引資(投資誘致)」を目的に、大ミッションが来日しました。

省内各都市の市長を引き連れて来日した陳政高・遼寧省長は、2月5日、大入り満員となった「投資説明会」で、「金融危機の中で中日が協力する余地は大きい。遼寧省には6400社もの多くの日系企業が進出している。省政府は進出企業の相談に積極的に対応する。奨励プロジェクトであれば、資金を出す用意がある」と力説、会場から大きな拍手が湧き起こりました。

山東省ミッションを率いたのは才利民・副省長でした。2月27日に都内で開催された「日本企業懇親会」で、来日目的を「すでに進出している日系企業と関係者に感謝の意を表し、今後進出を検討いただいている日本企業の皆さんと情報交換を深めたい」と挨拶しました。煙台、青島など山東省の主要都市の政府関係機関や企業もそれぞれ交流プロジェクトを持って来日しましたが、煙台市の孫永春書記は「今こそ、日本との経済交流の発展を図りたい」と強調していました。

昨年の日中経済関係は、貿易関係では前年比12.5%増で、十年連続で過去最高を更新したものの、昨今の金融危機の影響もあって 11月、12月は前年同月比減と落ち込んでいます。総額が2カ月以上連続で前年同月割れとなったのはほぼ七年ぶりとなります。このまま行くと、今年の日中貿易が前年割れする可能性すら否定できません。貿易の増減は経済交流全体のいわば縮図といえます。中国において、日本と密接な経済交流関係を維持してきた遼寧省と山東省のミッションは、日中経済交流の発展に「春一番」の「追い風」を吹かせたのではないでしょうか。 

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たちが地中から地上に出る「啓蟄」は世間が待ち望む春の到来を意味します。中国の政府や企業が海外に積極に出ていく「啓蟄」、すなわち、国家戦略としての「走出去」を今後、広範囲に積極化することで、世界経済が待ち望む金融危機からの回復への大きな「布石」となってほしいものです。

注1 宝山鉄鋼、海航集団、中国北車公司、三一重工、中国長城工業総公司、中国中央テレビ局など中国を代表する企業が多数参加。スイスへの買い付けミッションを例にとると、資源、医薬、サービス、軽工業、機械・電気、紡織など6業種、45社、8関連業界・政府部門から総勢112名が参加と報じられている(『東方早報』2009年2月24日)。

注2 3Gやブロードバンドの共同開発、パイロットの研修・訓練委託、中国内に設立する合弁企業を通じ、航空交通制御システムの構築・販売に関わる技術協力、アフターサービス面での協力なども含まれる。

注3 2008年の中国対外貿易総額の16.6%、EUにとって中国は第2の貿易相手先。

注4 ハイテク・先進設備での買い付け契約額だけで130億ドル(中国経済ネット2009年3月2日)。

注5 不動産業、サービス、小売り、多国籍企業の役員・経営者などで35~50歳が中心。ミッションメンバーの投資目的は、3分の2が自分自身の住居確保のため、3分の1が子女の米国留学に備えた住居確保にあるとされる。

 

 人民中国インターネット版 2009年4月21日

 

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