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中日経済のいま② 理性的な中流は日本製を選ぶ

 

陳言 コラムニスト、日本産網CEO、日本企業(中国)研究院執行院長。1960年生まれ、1982年南京大学卒。中日経済関係についての記事、著書多数。

2月10日の春節(旧正月)を前に、どこの自動車専売店でも多めに試乗車を用意した。「店に来るお客さんの中で、試乗したお客さんほどその車を買う可能性が高いので、できるだけ乗ってみていただいている」と、北京郊外の自動車専売店のディーラーの申さんは言う。  

家電の段階を卒業した今の中国の中流は、自動車と住宅に注目の焦点を合わせている。車に限って言えば、一時、販売に影響を受けた日系メーカー各社も、昨年12月には、前月より販売台数を大きく増加させた。「12月に取れた注文は、すでに前年と同水準に戻った」と、東風日産のディーラーは、回復の速さに滿足していた。春節期間中にはさらに良い成績を上げられると期待している。

現在、中国では2桁の成長率を目指す自動車メーカーが多い。「中国の自動車市場は、1970年代の日本とよく似ている」と、日本をよく知る専門家は分析している。2003年以降、急速に増加し始めた中国での自動車販売台数は、急上昇が10年続いたのでこれからは成熟期に入る、といわれるが、むしろ今から本格的な自動車市場が形成される様相だ。

普通の人も自動車を買えるようになれば、中流が分厚く形成される。今の中国はまさにその段階に入ろうとしている。そうした中国社会の中流がどのような消費行動に出るか、中国社会を展望する上で重要なポイントとなるだろう。

「日本の」が売れない理由

1月に日本のある化粧品メーカーの市場担当者が、中国での販売状況を調べに来た。高級百貨店では同社の製品が通常どおり買われており、日系スーパーでも異常はないと確認した。「消費者にとくに変わった様子はないが、販売成績は期待したデータとは違う」と、担当者は頭をかしげた。次に、販売員の仕事ぶりを調べた。日本の販売方法とは違うことを割り引いても、昨年9月までは積極的にお客さんに勧めていたが、今は少し控えめになっているのではないかと、担当者は感じた。何かあるはずだ、と考えた担当者は、最終的に「日本の」化粧品というところにたどり着いた。  

消費者は特に気にしていないが、その商品を売る販売員が、中日間の「島問題」が緊迫化して、いざという時には艦艇対艦艇、さらに戦闘機同士のぶつかりあいにエスカレートするのではないかと心配していた。「両国関係の悪化がこのような形でビジネスに影響していること肌で感じた」と、担当者は語る。

日本のテレビや新聞が1月になっても、ニュースとして昨年9月のデモ行進、不買運動の運動家の映像を繰り返し流しており、いかにも現在でも不買運動が行われ、あるいは「島問題」で衝突が起きる可能性が強いと主張している。しかし、化粧品などの販売現場から見て、中国市場では消費者はいたって冷静である。

三菱レーヨンの汚水処理技術が四川で取り入れられ、また、日立や東芝の高速鉄道の車両技術が導入されたというニュースは、情報としてたまに中国の新聞に載る。環境、省エネ、社会インフラなどの分野は、日系企業が得意であり、都市化のテンポを速めている中国では、それらの技術を生かす機会はたくさんある。問題は、日系企業の化粧品カウンターの販売員のような人々が、積極的に販売姿勢を示すかどうかにある。

日本車は普通の市民の足

50代の徐さんは、昨年の暮れに北京郊外の新居に引っ越した。30年前に親が買った日立の15インチテレビを捨てずに持ってきた。「あの当時、おやじは何年もかかってためた貯蓄を全額下ろして、このテレビを買った。今、薄型テレビの時代になったが、親の形見として簡単に捨てるわけにはいかない」と、徐さんは言う。

日本ブランドのテレビが爆発的に売れた時代は、すでに終わっている。中国進出が遅れた日本の乗用車メーカーは、家電時代の製品ほど中国消費者に与える独占的な影響力はない。北京の道路で出合う日本車の比率は、30年前と比べて10分の1以下に落ちているとも感じる。しかし、その当時の台数と比べると、数百倍も増えている。高根の花だったタクシー、政府要員の専用車に、日本車が使われていたが、今では、むしろ普通の市民の足になっている。

2012年クリスマス前後、買い物の若者でにぎわう成都市伊藤洋華堂(東方IC)

日本の自動車メーカーの中国での現地生産があまりにも出遅れ、いまだにその影響が尾を引いているが、質や燃費の良さは、中国の消費者にも理解されている。「1980年代に現地生産をしていたら、少なくとも中国自動車市場の半分は取れたはずだ。もし街中にあふれていたら、打ち壊そうと思ってもできないだろう。数が少な過ぎたので、やり玉に上がった」と、日本企業(中国)研究院の顔志剛事務局長は言う。

日本酒、日本料理ファンも  

一方、日本酒、日本製の日用雑貨などは、着実に中国で消費を伸ばしている。爆発的に売れているという感じではないが、日常的によく買われている。度数の高い地元の白酒より、紹興酒なみの度数の日本酒の方が好まれている。これは10年前では想像もできなかった現象だ。

南京の大学を出て、10年前、上海で就職したOLの戴さんは、週に2、3回、日本料理店に通う。「中華料理より高くはないし、ちょっと食べるには、一番いい」と、戴さんは言う。上海には1000店以上の日本料理店があり、北京でも1000店近い。

リーマンショックが起きた2008年以降、欧米日本市場の成長は、緩慢になり、低下したところも出ている。しかし、中国市場は、むしろこの時から拡大してきた。「2008年と2013年を比較すると、中国の市場規模は5年間で約6倍に拡大する見込みだ。さらに、得られる利益も6倍以上に拡大する。中国市場における販売数量の増加や売れ筋商品の価格帯の上昇により、日本企業の収益性は向上している」と、キャノン・グローバル戦略研究所の瀬口清之研究主幹は発表した論文に書いている。日系企業の多くの商品が中国で売れ行きを伸ばし、収益性が上がったからであろう。  

中国の消費者は、数年に1台の日本ブランドの高級家電を買う時代から、日常生活で日本や日系企業の製品を使用する時代に確実に変わっており、今後も継続していくだろう。日系企業にそれに応える意欲と積極性があるかどうかが、問われている。

 

人民中国インターネット版 2013年3月25日

 

 

 

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