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現代の日中ビジネスに思うこと

 

文=貫井 正(ぬくい・ただし)

世界貿易機関(WTO)は今月14日、2013年に中国が米国を抜いて世界一の貿易大国になったことを公表した。昨年の貿易額は中国が4兆1600億ドル(約423兆円)、米国は3兆9100ドル(約398兆円)であった。こうした貿易上の数字からも、中国の経済成長が好調に推移している表れと言えるだろう。しかし対日本の貿易悪化は日中関係の影響により、昨年で5.1%減少の3130億ドル、二年連続のマイナス更新になった。

今日中国が世界一の貿易大国になったとはいえ、中国ビジネスになるとかなり複雑で、中国に進出すれば必ず儲かる、というような現実でないことはすでに明白である。中国人ビジネスマンでさえ商売の苦労は付きない時代であり、外国人ビジネスマンではなおの事である。中国は世界の大国であり人口約13億と56の民族を抱える世界一の多さ、国土は日本の約26倍の広い面積に大きな市場を持つが、そのダイナミズムと多面性は日本人の想像をはるかに超えている。また2002年に中国がWTOに加盟したとはいえ、広範な社会に国際的な商取引慣行の徹底を図る困難に加え、日本の政治配慮の欠如や日中友好の原則と精神に反する行為がもたらした日中間の領土係争や首相らの靖国参拝の事例からも分かるように、他国にない歴史問題も歴然と介在し、ビジネスの在り方をより複雑にしている。

いま中国は「世界の市場」といわれるほどの成長を遂げたが、その経済を支えているのは中国を含む多彩な国際的な企業群である。例えば自動車では、1位に上海大衆(中国・ドイツ)2位に上海通用(中国)3位には一気大衆(中国・ドイツ)。家電製品の洗濯機では、1位にハイアール(中国)、2位には小天鹅(中国)3位に西門子(ドイツ)、が上位に並んでいる。(以上は全国乗用車市場信息联席会、百度文庫などによる2013年の報告)。高機能携帯電話では1位はアップル(米国)、2位はノキア(フインランド)、3位はサムスン(韓国)となっている。(以上は中国品牌网による2013年上半期の報告)。このように中国国内の工業生産は依然として「世界の工場」の状態を保っているが、こうした中に日本の企業名が見当たらないのは残念である。

かつて私が中国の首都・北京にある北京語言学院(現北京語言大学)に長期留学生として訪れた93年は、「面包車」と呼ばれるタクシーが北京で大活躍していた。「面包」はパンの意味だが、横長四角形の食パンを思わせるその車は当時、日本のダイハツ自動車のライセンス契約によって、80年代から本格的に天津汽車工業で生産されている。また90年代の一時期、赤いトレードマークで親しまれたタクシー車シャレードも含め、日本ブランド車が北京や天津などの北方大都市圏を席巻していた、といえるだろう。80年代半ばには日本のいすず自動車が、諸外国に先駆け早くから生産拠点を中国の直轄都市(政令指定都市)・重慶に置き、直接投資も続けている。

じつは80年代には家電から自動車までが中国に進出し、この時代の中国人は一般に外国製品といえば日本製品だと認識しており、優秀な品質に裏打ちされた信頼性の高いものがあったと言われている。しかし私も留学時代にもっぱら愛用した面包車は90年代後半に入り、主に大気汚染の原因として排除され、いまでは郊外や農村などで一般自動車として細々と使われることになる。面包車は排気ガスの面から中国政府が大都市での使用禁止を決め、韓国の自動車業界最大手・現代のエラントラやドイツ・フォルクスワーゲンのサンタナなどに追い抜かれて行く。

家電製品にしても同様の傾向があると考えられる。日中は「一衣帯水」といわれ、地理的条件を生かし、諸外国に先んじて中国に進出したものの、日本の企業はさらに生産や技術を発展させていく努力に欠けていたのではないだろうか。外国企業に対する中国政府、あるいは省政府の方針に馴染まない経営を行い、面包車の撤退に見るような逆風を蒙る面もあったのである。

戦後、日中両国の政治外交面が断絶し、まだ両国関係の回復がなされていない54年、日中は民間の貿易団体によって、経済面の活動から交流が始まった歴史がある。世界史の中でも特異な歴史関係を背景とする両国だが、日本企業は対中国ビジネスに対して言えば、他国との比較競争において国際的に非常に優位な立場や経験を持ち合わせていたといえるだろう。

しかし90年代に入ると、中国に魅力を感じた後発組の欧米系企業が、急速になだれ打って市場に参入してきた。こうしたグローバル競争の環境下で、日本企業の経営姿勢は消極的に回り、欧米系企業に市場を奪われ始める。この事態は現在、改善されつつあるといえるが、日本企業にさらなるビジネス努力がなければ、中国市場における国際競争力を失うことに繋がりかねないだろう。

 

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