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長期安定発展の環境 経済活動会議が提起

 

文=(財)国際貿易投資研究所(ITI)チーフエコノミスト 江原規由

国連の予測によると、世界経済は昨年2・6%増、今年3・1%、来年3・3%と好転が見込まれる一方、米国・連邦準備制度理事会(FRB)の金利引上げ、ユーロ圏経済の不安定、新興経済国経済の伸び悩みなどの不確定要素とも向き合っており、国際的な政策協調による長期安定発展のための環境づくりが必要とされています。中国経済も、今、まさに長期安定発展のための環境づくりに向き合っています。

経済成長の速度を落とし、経済成長の質を高めるのが中国の経済発展の新常態(東方IC )

 中国経済は、「穏中求進」へ移行しつつあります。「穏中求進」とは、高成長から転じて「安定成長の中でプラスαを追求する」ことで、過去4年連続して経済工作会議の主要課題となっています。中国の昨年の成長率は7・4%、今年以降は7%前半の成長率に落ち着くとの見通しです。改革開放35年来の年平均成長率が9%台だったことに比べると、成長率は低くなっていますが、それでも世界経済の成長予測値に比べれば、高成長率といってよいでしょう。

「新常態」がキーワードに

昨年12月9日から11日まで、中国経済活動会議が北京で開催されました。同会議では、習近平国家主席による昨年の内外経済情勢分析および経済活動の総括、今年の経済工作の目標と任務に関わる重要演説がありました。その経済活動会議を支配したキーワードは「新常態」(注1)(本誌昨年12月号参照)でした。「新常態」は、中国メディアが報じた昨年のキーワード・流行語の上位にリストアップされるなど、中国内で周知されています。その意味するところは、広義では「変化にプラス対応する」ことを指していると、筆者はみています。

今回の経済活動会議で、初めて経済発展に関わる9大分野(消費、投資、輸出、生産・産業、市場、資源・環境、経済リスク・回避、社会、マクロコントロール)における「新常態」の解釈が発表(注2)されました。経済・政治・社会の広範囲にわたっていますが、このうち、国内総生産(GDP)成長率に密接に関わる「三駕馬車(3頭立ての馬車)」(消費、投資、輸出)の「新常態」について見てみましょう。

中国は外需から内需主導の成長を目指しており、「三駕馬車」の消費の拡大に期待がかかっています。確かに、昨年のGDP成長率への貢献を見ると、消費の比率が高まっており、内需主導の成長軌道に入りつつあることが分かります。今後、「新常態」下で内需主導の「穏中求進」の経済成長が追求されるわけですが、これには、経済活動会議の主要テーマであった「都市化」の推進と「1帯1路」(シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロード)建設が大きく関わってくると考えられます。

メガFTA構築の第1歩

「都市化」には消費拡大の効果が期待される一方、相当な投資拡大(交通網整備、住宅、医療・教育施設の建設、社会保障の充実など)が必要となります。消費と投資の拡大のバランスをどう取るか、経済のバブル化を防ぎ、内需主導の「穏中求進」を進める上で、例えば、財政、金融政策の手腕が問われるのではないでしょうか。

また、昨年11月に相次いで開催された北京APEC(アジア太平洋経済協力会議)、ブリスベーンG20(20カ国蔵相・中央銀行総裁会議)で、中国が強力に内外に発信した「1帯1路」建設では、これが本格的に推進されれば、中国の輸出へ新たな影響が出ると考えられます。すでに、「1帯1路」沿線の50余の関係国が積極参与を表明しているほか、中国と沿線関係国との貿易額は1兆㌦と、中国貿易総額の25%(2013年)を占めています。中国は今後5年間に同関係国から10兆㌦を輸入、対外投資を5000万㌦とするとしています。さらに、中国は「1帯1路」を「両翼」、首都経済圏(北京、天津、河北省)を「首」、長江(揚子江)経済帯を「体」とした中国の地域発展の陣容を形成させたいとする考えにあります。「1帯1路」建設は、「都市化」の推進は言うに及ばず、対外貿易、対外投資の拡大に大きく関わってくるでしょう。まさに、北京APECで中国が提唱し、実現に向けて踏み出すことで合意したアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)にも相当するシルクロード「1帯1路」大自由貿易区(SRT)構築に向けた第1歩、すなわち、「新常態」が生まれつつあると言っても過言ではないでしょう。

都市化、国際化、地域化

「都市化」や「1帯1路」建設は、中国経済、政治、社会の「新常態」を代表する重要な局面であると同時に、中国の「穏中求進」にとって新たな局面です。筆者は中国経済の今後の発展を見る視点は「都市化」、国内企業の対外進出を主とする「国際化」、FTAに代表される「地域化」の「三化」の行方にあると考えています。習主席は、「新常態」は新たな発展の機会であると、事あるごとに強調していますが、今後、「新常態」下で、中国がこれら「三化」にどう「プラス対応」し、中国と世界経済の発展にどんな「プラスα」を付加できるのか、注視したいと考えています。

本稿では、「新常態」のほんの一部を紹介しているにすぎません。今後、中国はさらに多くの「新常態」に直面することになるでしょう。習主席は、経済工作会議でも、「新常態を認め、これに適応し、これを牽引する)」と強調しました。目下、「新常態」は、「新常態を認識」の段階と言えますが、鄧小平理論、三つの代表、科学的発展観の延長線上にあって、中国の指導理念を継承しつつあると言えるのではないでしょうか。

5大主要任務を明らかに

さて、工作会議では今年の経済活動5大主要任務が明らかにされました。すなわち①経済の安定成長を維持する②経済の新たな成長ポイントを積極的に育成・発展させる③農業の発展モデルを早急に転換する④経済発展の環境を良質化する⑤民生工作の強化・保証・改善を行うこと、です。

これら5大主要任務は、今年の「新常態」と位置付けられると同時に、前述の「三化」とも密接に関わっています。別の視点から見ると、経済発展の方向が科学技術、教育、文化、衛生面などの充実に、また、新興産業やサービス産業の育成・発展に向けられていることが分かります。

今年は、第12次5カ年規画期(2011~15年)の最終年です。同期の4年間、中国は「穏中求進」の実践に務めてきたわけですが、今年は「新常態」第1年として「新常態に適応」を実践し、2016年から始まる第13次5カ年規画で「新常態を牽引」につなぐ重要な年と位置付けられるでしょう。

 

注1 2014年5月、習主席が河南省を視察し た折、初めて言及したとされる。

注2 新常態の9大分野の解釈のほか、8重点策 (①人民の需要を満足させる②市場と消費の心理分析③社会予測の先導④知的財産権の保護⑤企業家の才能発揮⑥教育および人材活用⑦環境保全⑧科学技術の進歩と創新)の強化を提起している。

 

人民中国インターネット版

 

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