Sketch of BEIJING

   


マネキン キッス
写真・文  佐渡多真子

 私は、人形が部屋においてあると、怖くて夜トイレに行けない子供だった。

 大人になって、さすがにトイレを我慢することはなくなったが、今でも、人形には魂や感情があるのかなと思っている。

 突然動き出したら、驚いてひっくり返ってしまうかもしれないけれど、そんな世界を想像すると、スリリングで楽しい。

 おとぎ話では、人間になろうとした人形たちはみな、人形の世界から破門されてしまう。人も、自分たちの村から他の世界に飛び出そうとしたとき、周りから同じように反発を浴び、違和感を持たれることがある。

 この少年は、ちょっとしたいたずら心でマネキンの女の子にキスしてみたのだろう。でも、そうやって、自分とは違う世界に触れてみようとすることに、私はとてもあこがれる。

  note
 中国的な服のバリエーションが多くなり、最近では子供用のものも多く出回っている。マネキンは、中国語では「人体模特」(人の形をしたモデル)と呼ばれる。
 
  profile
佐渡多真子(Tamako Sado )
 1990年、フリーカメラマンとして独立し、日本の雑誌などで活躍。95〜97年、北京大学留学。その後、北京を拠点とした撮影活動を続けている。写真集に、『幸福(シンフー)?』(集英社)、『ニーハオ!ふたごのパンダ』(ポプラ社)がある。