成熟した投資環境が招く―― 広東省珠海市

                          文・池 倩

 広東省珠海市で、こんな話を聞いた。

 企業経営者の山口さんは昨年、日本から夫人を連れて海浜都市の珠海を訪れ、投資環境の実地調査を行った。珠海に魅力を感じた夫人は、滞在二日目に、自分が珠海の会社の社長を務めたいと夫に相談した。そして、即実行するタイプの彼女は、大連にある夫の会社で企業経営の実際を学んだ。

華南の産業中心地のひとつ

ミニ・シンガポールとたたえられる珠海の街並み(写真・李偉坤)

 中国に投資する外資系企業の間で、広東省珠海市の知名度は高い。1983年、日本ゴルフ振興株式会社は、珠海市にゴルフ場と遊園地の建設を始めた。これにより同市は、中国で最も早く外資系企業を誘致した都市の一つとなり、10年後には、松下モーター(珠海)有限会社が3000社目の外資系企業となった。

 前田博さんは、松下モーター(珠海)の3人目の総経理(社長)である。彼によると、実地調査の際、珠海市政府の協力や物流環境などが、他の候補都市より明らかに抜き出ていて、同社の要求にかなっていた。会社設立後に、経済情勢が変化し、突発事件が発生しても、市の関連部門は協力を惜しまなかった。前田さんは、「私たちの選択に間違いはなかった。市政府の支持と協力が、順調に発展してきた重要な要素」と考えている。

珠海市対外貿易経済合作局の熊均燦局長(写真は同局提供)

 今年2月現在で、珠海市には131社の日系企業があり、同市に投下された外資総額の6分の一を占める。1000万ドル以上投資している日系企業も24社ある。比較的早期に進出した日本の著名企業には、松下、キャノンなどがあり、これまでに2〜3回の増資、設備投資を行っていた。単純加工中心のプロジェクトを他の地域に移転し、ファックス機やコピー機などのOA機器の生産に事業をシフトしている企業が多い。また、製品の最終品質チェックプログラムを珠海に設置することで、同地工場の重要性を向上させた。

 多くの日本企業は、部品産業から組み立て産業までの「産業協力ネットワーク」を持っているが、日本から大量の部品を輸入すれば、コストが掛かりすぎてしまう。一方で、セット部品を生産する中小企業には、独自で進出する資金力はない。そこで珠海市では、仲介機構を通して、中小企業単独ではなく、関連企業をセットで誘致する方法をとっている。仲介機構は、中日の民間の共同出資で組織され、珠海市に日系企業が集まる「日本工業園」を創設した。

南屏科学技術園(写真・王紅)

 仲介機構の役割は、生産サービスの各種事務を含む工場建設から資金調達、企業誘致まで様々で、中小企業の中国進出に便宜を与え、手続きを簡略化し、進出企業が珠海で安定的に発展できるよう協力することである。

 しかし、それだけでは不十分で、前田さんはこう提案した。「珠海市は、単に外資誘致の数を追求するのではなく、珠海市にある地元のセット部品の精密加工工場を育成する必要がある」

 珠海市には、OA機器製造業やIT産業、電子部品産業などが集まり始め、市は、技術応用性が高く、持続可能な発展を目指し、環境保護を重視する企業を歓迎している。珠海市対外貿易経済合作局の熊燦均局長は、「珠海に進出する外資系企業には、多くの優遇を準備している。例えば、法人税の税率は、珠海のような経済特別区では15%。ほかの沿海都市の24%、内陸地区の33%とは差がある」と強調し、大企業と取り引きするさらに多くの中小企業の進出を待ち望んでいる。

本田さん版「三つの代表」

 MEKTEC出資の珠海紫翔電子科学技術有限会社は、1998年に設立され、7人の日本人管理職と、中国各地から募集した約1100人の中国人技術者や現場担当者が働く。同社は主に、デジタルカメラ、携帯電話、薄型テレビの各種フレキシブル・サーキット・ボードなどを生産している。2002年の年生産額は前年比70%増を超え、7億元に達した。第2期工事への追加投資の増加にともない、2006年には、年生産額16億元の目標達成が見込まれている。

座右の銘を見せる珠海紫翔電子科学技術有限会社の本田峰生総経理(写真・孫立成)

 本田峰生社長は、「笑顔のない従業員はいらない」と話す。そして、協力し合いながら楽しく働けるチームを作り、管理職と一般従業員が平等に付き合い、企業の発展のために、全員が自分の職責をよく果たすことを求めている。「従業員食堂のコックや清掃担当の職員も、模範労働者として認められようとがんばっている。わたし自身が、さらにすばらしい模範にならなければ」と語る。

 話しながら、胸の社員カードをはずして見せてくれた。裏側には、もう一枚カードが挟まれていて、「本田の座右の銘 : 三つの代表」という題名と、昨年11月に中国共産党の党規約に入れられた重要思想「三つの代表」の基本を踏襲した内容が書かれていた。それは、「最も先進的な生産力を代表する。最も先進的な文化運動の方向を代表する。最も広範な人民大衆の根本的な利益を代表する」である。

 彼は、壁に掛かっている会社の経営理念と方針を指しながら、こう説明した。「『三つの代表』は、私たちの方針と一致している。先進的生産力を発展させることは企業の職責で、先進的文化は私たちが求めているもの。企業経営者としては、従業員の利益も代表すべきである。私は心から『三つの代表』という思想を認めていて、企業でも実践している」

 本田さんは、同社に鋳型のセット部品を提供する工場に、中国進出を持ちかけ、現在、その工場はすでに珠海保税区で創業を始めている。

魅力的な「ミニ・シンガポール」

 村松正視さんが開いた日本料理店「奈香村」は、珠海で暮らす日本人の憩いの場のひとつだ。日本人が多く住む粤海ホテル、拱北迎賓プラザなどの周辺には、ここ数年、日本料理店13軒、日本式カラオケ店9軒が続々と現れた。その他市内には、日本人向けサービスを行う医療機関、料理宅配サービスがあり、ゴルフ場四カ所、F1サーキットといった施設もある。昨年、日本のスーパーマーケットであるジャスコが開業し、珠海には、中国初の日本式露天温泉「御温泉」もある。ただ、日本の銀行と学校がないなど、日本人が不便さを感じる場面もあるが、だからといって珠海の魅力が半減するわけではない。

日本料理店「奈香村」の前で。左から3番目が村松正視店長(写真・孫立成)

 村松さんはかつて、珠海松下電池有限会社で4年間総経理を務め、任期満了により帰国。そのわずか2カ月後に、早期退職して再び珠海に戻ってきた。彼の選択は、一部日本人の縮図だ。最近増えている村松さんのような方の共通の特徴は、勤務年数が長く、実績と経験が豊富で、元の職場を離れた後、新たな仕事を見つけ、珠海に長期的に生活していることだ。中には、珠海に定住する人もいる。現在、珠海保税区だけでも、17名のこのような日本人を顧問として招聘している。

 少なくない日本人は、珠海を「ミニ・シンガポール」と呼んでいる。この花園のような港湾都市は、1998年、国連から「人間居住環境改善・最優秀モデル賞」を受けた。優美な環境、温暖で湿潤な気候が、日本人にふるさとのような快適さを与えているようだ。

 珠海を散策し、大学や公園には囲いがないこと、キャノン(珠海)有限会社の周りは、内部の見える柵で囲われていることに気が付いた。ある日本の投資者は、「治安が良く、文化的雰囲気が濃い」と話してくれた。

 珠海の教育レベルは、かつて、それほど高くはなかった。高等教育環境の不備から、二度、著名な国際企業の投資を直前で逃したことがあった。

 そこで90年代末、市政府は決断を下し、国内有名大学が、キャンパスや研究基地を建設しやすいように、長期に土地を無償で提供するなどの魅力的な条件を提示した。それからわずか3年で、市街区北部の広さ16平方キロの土地に、大学パークが誕生した。中山大学、北京師範大学、曁南大学など、14大学が珠海に進出し、すでに全日制の在校生は2万人を超えている。清華大学、ハルビン工業大学の科学研究機構も、使用が開始されている。

 冒頭で紹介した山口夫人は、珠海での生産をスタートさせ、珠海で働く希望を叶えた。いまは、娘に中山大学の珠海キャンパスで学んでほしいと考えている。

絶えず改善される投資環境

 日系企業を訪問しているうちに、各経営者が珠海に投資した理由に共通点があることがわかった。

 それは優美な環境、治安のよさ、交通の便利さ、水と電力の供給条件の良さなどである。また、市政府の協力体制への信頼も厚い。市政府は、外資系企業との懇談会や情報発表会を頻繁に開き、経営者に情報を提供したり意見を求めたりしている。ある懇談会で、本田さんは、拱北地区の治安状況が麗しくないと言及した。その後関連部門がすぐに調査を行い、相応の措置をとったことで、同地の日本人は、肌で治安が改善されたことを感じた。

記者のインタビューに答える周本輝副市長(写真・孫立成)

 珠海市は、「世界の大工場」という目標に向かって一歩を踏み出した。今後さらに多くの企業を誘致するため、50平方キロの臨港工業パークの建設を計画している。市街区にも投資を待つ土地は残っている。周本輝副市長は、「長年の高密度な集中開発を経て、珠江デルタには、広々とした理想的な投資場所は少なくなった。しかし珠海にはまだまだ土地がある」と話した。

北京師範大学の珠海キャンパス(写真・馮剛)
九洲コンテナ埠頭の一角(写真提供・珠海市党委員会宣伝部)

 新しい飛躍に向けて、珠海市は、各国・地域の企業界との交流をますます活発に行い、積極的に国際投資を受け入れようとしている。昨年だけで、日本で12回の企業誘致活動を行い、百社近い日本企業、社会団体が珠海を訪問した。うち、31社は、珠海に進出することを決めた。今年夏にも、日本で大規模な誘致活動を展開し、同市の影響力をさらに拡大しようとしている。

 第10期全国人民代表大会の選挙で生まれた新たな中国政府指導者は、いくらかゆとりのある社会を全面的に築き上げるために、引き続き新たな発展を図るだろう。珠海にも、より多くのチャンスがもたらされることは間違いない。

 中国共産党珠海市委員会書記の方旋氏、市長の王順生氏は、発展の道筋が見えてきているに喜びを感じている。中国政府は、すでに珠江の河口に浮かぶ島嶼の港を一級港として認可した。これらの珠海管轄区域にある港は、香港の外港としての役割を担うことが可能で、国際中継貿易、物資貯蓄基地などの需要の多い業務を切り開くことができる。

 また、珠海空港の周囲200キロ以内には、四つの空港が競い合っているが、珠海市には、新たに物流基地を設け、保税空港を設置できる優位性がある。北京―珠海高速道路、沿海高速道路、珠海淇澳区から香港の伶リ齬m大橋までの交通インフラが整えば、陸上の交通環境もさらに魅力的になる。