金可麗雅エステサロンでのミルク浴や美顔は、田青さんのリラックス法の一つ

 港湾工事会社の業務マネージャーをしている田青さん(33歳)は、常に各地の工事現場を駆け回っている。

 出張から帰って最初にするのは、近所の金可麗雅エステティックサロンに予約を入れ、ミルク浴を楽しみ、全身マッサージと美顔(フェーシャルトリートメント)を受けることだ。こうすることで短時間で疲れを癒し、皮膚のみずみずしさと美しさを保つことができる。

 未婚の彼女は、既婚者以上に容姿に気をつかうが、既婚者のような経済的負担がないため、エステの出費は気にならない。もちろん、田さんが特例というわけではない。都市部では、定期的にエステに通うことは、多くの女性の日課になっていて、気分転換の最良の場所だと考える人が少なくない。

 かつて中国人の生活には、「美容」(エステ)という言葉自体がなく、ちょっとオシャレしようと思った際に出かけたのは散髪屋だった。

 「文化大革命」(文革)の前には、美を求める女性は、散髪屋でパーマをかけ、髪に波を打たせたが、文革がはじまると、極左思想が氾濫し、質素こそ最高の美で、いかなる装飾もブルジョア階級の生活を崇拝しているとみなされ、当然、パーマも禁止された。

ネールケアも人気で、100元程度でサービスを受けられる

 当時奨励されたのは、若い女性はお下げを作り、中年女性はショートカットにすることだった。天然パーマの人は、嘲笑されたり、侮辱されたりしないように、帽子をかぶって出かけるしかなかった。化粧にいたっては、役者が仕事のためにするのであり、庶民とは全く関係のないものだった。

 その後、「改革・開放」の時代を迎えたが、長年制限があったために、自分を飾ることに億劫になる人が多かった。20歳過ぎだった私も、素敵な天然パーマの友達をうらやましく思っていたにも関わらず、自分ではパーマをかけるのをためらい、ドライヤーで髪をちょっと曲げてみただけだった。

 パーマやメーキャップ(メイク)を自由にできる時代になった後も、誰もどうすれば美しくなれるかは知らなかった。

美容師の技術の進歩には目を見張る

 盲目に香港や台湾の流行を追いかける人もいたが、ひどい場合には、ある新しい髪型が現れると、短期間で街中みんなが同じ髪型になり、流行を通り越したおかしな光景になった。しかも一部の若い女性は、TPOをわきまえずに厚化粧をしたため、かえって醜く見えてしまうことも少なくなかった。

 開放された環境が、人々の視野を徐々に広げたことで、1980年代半ば以降の都市部では、規範化されたエステ・ヘアサロンやエステ・ヘアカット学校が設立されるようになり、庶民も「美容」に込められた意味を次第に理解するようになった。

 最近では、単に流行を追いかけるのではなく、立場や職業、年齢、性格などを考慮して、自分にふさわしい髪型やメイクに関心の持つ人が増えている。都市部の女性にとって、メイクはすでに生活と切っても切れない一種の作法となった。仮にフォーマルな場所で、ノーメイクのみすぼらしい服装をしている女性を見かければ、人は往々にして、質素な女性だとは思わず、作法を知らない人だという印象を持つ。


「洗顔店」とエステサロン

都市部の生活レベルの向上にともない、美への要求が高まり、高いお金を払ってでも良いサービスを受けようとする人が増えている。金可麗雅エステサロンでは、カットだけで80元以上する

 田青さんの家の近所に前述のエステサロンがオープンしてから、彼女は常連客となり、毎月2、3回は通っている。約3年の間に店長や従業員とも仲良くなり、友達の家にお邪魔する感覚でリラックスできる。彼女は、「静かで設備が整っているだけでなく、技術も一流で、家から近くて便利」と話す。

 現在、多くの比較的稼ぎのいい女性は、自分に合ったエステ・ヘアサロンや美容師を見つけ、定期的にボディーケアに出かける。特に中ランク以上のサロンでは、固定客の比率が高くなっている。これは、エステティシャンや美容師が、顧客の特徴を理解し、顧客に合わせたサービスを提供できるだけでなく、顧客側も安心できるからだ。

 中国でエステサロンが出来始めた頃には、人々のエステへの理解はないに等しく、「洗顔する場所」という認識があった程度で、「洗顔店」と呼ぶ人もいたほどだった。「お金を払って洗顔する」など、最初は誰も理解できず、贅沢すぎると考えていた。

 いまでは、生活水準の向上とともに、ますます多くの人が美を追求し、エステの必要性を理解し、喜んで「お金を払っての洗顔」を享受するようになった。もちろん、品質への要求もますます高くなっている。

 美容師を務めて6年の柴崢睨さんの固定客は、20代から60歳以上の人まで幅広く、多くの人が長年エステを続けている。これにより、皮膚の質感を良好に保てるだけでなく、自信を高め、良い精神状態で新しい一日を迎えられるからだ。

最新のエステティック機器を使った療法は、1コース1万元以上する。主な利用者はタレントや会社社長など

 多くの比較的高級なエステサロンは、優雅で清潔な環境を作り出していて、エステ用品や設備、技術も日に日に改善されている。

 中でも、サービス内容の増加には目を見張るものがある。かつては、普通のエステサロンでは、美顔とメイクのサービスしかなかったが、いまでは、頭から足の指の先までのトータルボディーケアが受けられる。

 その中には、ネールケア、ハンド・フッドエステ、足裏マッサージ、全身マッサージ、ミルク浴・漢方薬浴・エッセンシャルオイル浴といった沐浴療法など、いたれり尽くせりの内容がある。これらにより、人は、表面上の美しさだけでなく、心身の健康も手に入れられる。


美しさを手に入れるための努力

エステサロンでのスキンケアは、1回80〜100元

 中国では多くの場合、「美容店」(エステサロン)と「美髪店」(ヘアサロン)は一緒になっている。

 「美髪」(ヘアカット)の歴史は、「美容」(エステ)に比べてずっと長い。「美髪」のかつての呼称は「理髪」で、その名の通り、長くなり、乱れた髪を整えることを意味していた。もちろん、「美」を求める意味も含んでいたが、決して中心的な意味ではなかった。そしていまでは、かつては「理髪師」と呼ばれた美容師も、「美髪師」「造型師」「形象設計師」と、より尊敬される呼称に変わった。

 かつては、経験の長い散髪師にカットしてほしいと考える人が多かった。技術が高いと思われていたからだ。しかし今では、ヘアサロンで高齢の散髪師を見かけることは少なく、奇抜な髪型をした若い美容師が大半を占めている。

 かつての散髪屋は、師匠が徒弟に技術を伝えるのが常だった。それがいまでは、専門の職業学校がその役目を果たしていて、卒業後にヘアサロンに入ってから、最低一年程度、師匠の下で学ぶことが普通になっている。

夜になると、エステ・ヘアサロンがにぎやかになる

 影博莎形象設計センターのマネージャーである張輝さんは、まだ30歳に満たないが、美容業界で10年近いキャリアを持ち、数期の弟子を独立させた。面白いのは、彼女と弟子の関係は、姉弟や姉妹のように見えても、やはり「師弟関係」という言葉がぴったり来ることだ。面倒見はいいが、弟子に対する要求は、昔と同じように厳しい。

 張さんは、「顧客が高齢の散髪師にお願いすることは、とっくに時代遅れになった。基本技術さえしっかりしていれば、若者の方が新技術や新理念の呑み込みは早く、時代の変化に追いついていける。これこそ、いまの美容業界で最も重要なこと」と話す。

 現代人は、審美観が大きく変わったが、特に、髪を染めることに関する意識の変化は大きい。

庶民向けのエステ・ヘアサロンは、高級店の半分の価格でサービスを受けられ、若者に人気

 以前は、お年寄りが白髪を黒く染めるくらいで、若者が赤や黄色にすれば、不良だと思う人が少なくなかった。しかし今となっては、髪の色をとやかく言う人は減り、美を求める方法として受け入れられるようになった。中年やお年寄りが白髪を染める際にも、選択肢が増えている。

 張さんによると、もうすぐ50歳になる王さんは、白髪が多くなってきたため、2年前に初めて髪を染めた。最初は、人に気づかれないよう、元の髪の色と同じ焦げ茶色にしたが、何回か試すうちに、ワインレッドに染めてみたいと思うようになり、試してみると、陽光に当たった時により美しくなった。それからしばらくして、張さんの提案に同意した王さんは、一部分だけ金色を入れてみた。効果はバツグンで、見違えるように若々しくなっている。

 張さんは、「顧客にはいろんな年齢層がいるが、60%以上はカラーリングの経験がある。使う色は様々で、伝統的な黒や焦げ茶のほかに、ワインレッドや金、グレーなども人気」という。


法整備が待たれる美容業界の現実

若い女性は、みずみずしく美しい髪を保つためにお手入れを欠かさない

 中国のエステ・ヘアカット業界は、「改革・開放」の歩みとともに発展し、二十数年の間に、中国人の生活に欠かせない新興産業となった。しかし急速な発展は、数多くの問題を生み、規範化が求められている。

 『北京晩報』によると、今年のバレンタインデーに、四川省成都市のある男性は、恋人に特別な贈り物――「エステ体験チケット」をプレゼントした。誰が想像しただろう。エステに行った翌日、恋人が鏡をのぞくと、そこには真っ赤に腫れ、皮膚がただれた顔があった。急いで病院で検査した結果は、接触性皮膚炎だった。

 近年では、このような報道は、枚挙にいとまがない。中国消費者協会と中国美容美髪協会の資料によると、エステに対する訴えは、サービス業の中でも多い方に属する。北京市消費者協会に寄せられた訴えを参考にすると、昨年11月の一カ月だけで75件あり、毎日平均2件の届け出があった計算になる。

1997年、香港で開催された五大陸杯ヘアメーキャップ大会の「若い女性カット・ブロー部門」で3位になり、表彰される張輝さん(本人提供)

 中には、医療エステの業務認可を得ず、認可範囲を超えたサービスを提供している会社もあり、消費者が損害をこうむっている。

 また、エステティシャンの技術不足や計器の操作ミスによる事故も絶えない。その他、製造元がはっきりしないニセモノや質の悪いエステ用品で、顧客の体を傷つけたり、誇張広告により消費者をだますといった現象もある。

 業界関係者は、「国の管理部門の細分化が、エステ業界の発展に追いつかず、相応する法律・法規や産業政策が不足していることが原因」と指摘する。

 依拠する法律・法規や産業政策がなければ、信頼や技術レベル、サービス品質を守るには、サービス提供者の良識に頼るほかなく、問題の発生は避けられない。同時に、エステ・ヘアカット業界の職業教育と職業認可も規範化されていないため、エステティシャンや美容師のレベルが一定していない現実が生まれている。

時代の象徴となった1970年代頃までの質素な服装と単一的な髪型

 その他、国にエステ技術や科学研究成果の認定基準がないことで、計器の認可基準の設定や、あるサービスや技術の人体に対する悪影響検査をスムーズに進められないことが、大きな問題になっている。

 今年春の全国政治協商会議の席上、政治協商委員は、健全なエステ・ヘアカット業界を作り上げるための関連法律・法規及び国家基準の制定を急ぎ、法律・法規により健全な発展を促進させる必要があるとの提案を提出した。

 

▽『解放日報』によると、2002年、上海市の全エステ・ヘアカット業界総営業額は30億2000万元に達し、前年比51%増だった。これは、エステ・ヘアカットに対する上海人の一人当たりの年間平均支出が188.75元だったことを示している。

▽『中国美容時尚報』の調査によると、エステ・ヘアカット業界では、20〜30歳の就業者が95.27%を占める。専門家は、同業界は、中国で就業人口が最も多い産業になる可能性が高いと予測している。

▽ここ5年で、エステ・ヘアカット業界の生産額の成長率は、全国の国民総生産(GDP)の成長率を大きく上回っている。しかも、今後の5年で、生産額は2倍に膨れ上がると見られている。

エステ用品メーカーは、優待価格で消費者の目を引こうと智恵をしぼる