蘇州河に生きる
(11)
 

人も街も引っ越しで生まれ変わる
             写真 陸傑  文 呉鈞

 
新居へ越す前、爆竹を鳴らして盛大に祝う

 陳さんは、上海にある運送会社のベテラン従業員である。5年前に、会社に請われて上海へとやってきた。いまや引っ越し担当チームのリーダーである。「ぼく一人だけでも、年に少なくとも千戸の引っ越しを担当します。ぼくは上海人の暮らしの変化を、一番よく知っていますよ」

 

上海では最も多忙な業種の一つが、引っ越し業だ

 劉おばさんは、陳さんのいる運送会社の利用客である。それまでは上海の「両湾一宅」(潭子湾、潘家湾、王家宅)という、人口が密集した窪地にあり、住宅もいたって粗末な古い地区に住んでいた。

 一家は、3代5人家族。住居は面積14・3平方メートルの平屋であった。ここに嫁入りしたときから、劉おばさんは「新居に住めますように」と待ち望んでいた。建物の取り壊しと移転の契約が結ばれた後、劉おばさんが真っ先にしたことは――夫につまみを買いに行かせ、それから生まれて初めて、二口の酒を飲みほした。次にしたのが、運送会社に予約電話を入れたこと。

 「早ければ早いほうがいいわね。良かったら明日来てちょうだい」。劉おばさんは、運送会社の受け付けの女性にそう伝えた。「あんまり大きなトラックはいらないわよ。古い家具は、新居に持っていかないからね」

 劉おばさんの新居は、上海市の西北部にあった。「両湾一宅」からは、公共バスで一時間あまりかかる。引っ越しの当日は、陳さんが担当チームを引き連れてきた。劉おばさんは、興奮したようすで室内外を走り回った。彼女は忙しそうに運搬人たちを指揮して、古い家具や荷物を捨てた。

数十年暮らした家から引っ越す

 陳さんは、運送業に従事して4年あまり。利用客のそうした要望には慣れていた。長年、狭苦しい生活環境にあったのが、ひとたびピカピカの新居に引っ越すとなると、古い家具はともかく、人もみな「生まれ変わりたい」と思うのは当然だろう。

 運送会社の業務指導の総括に、ある傾向が現れた。これまでは上海人が新居に越すさい、十中八九は古い家具も搬送した。しかし今では、新居に引っ越す家の七割は、古い家具を運ばない。必要な生活用品を一部、運ぶだけである。新居の中には、すっかり新しい家具や家電を備えているのである。

 以前、上海のある敏腕記者が、すでに転居した1032戸の住民に対して、アンケート調査を行ったことがある。その統計によると、パソコンの所有者が372戸(36・04%)、ピアノの所有者が137戸(13・27%)、ハイビジョンプロジェクションテレビの所有者が63戸(6・1%)。この記者が喜んだ発見は、こうした物品以外にも、ますます多くの家庭に蔵書が増えていることであった。

建設ブームで古い上海が消えてゆく

ご近所さんとの別れを記念して

 それは、多くの運送会社の実証を得ている。運搬担当の陸さんは「ぼくが引っ越しを担当した家は、最少でも段ボール2、3箱の本があり、多い方だと20数箱。先月、ぼくが担当した中で最も多かった家は、40箱以上もありました。大学教授の家でした」と言う。

 上海の公式データによると、上海市民の住宅総面積は現在、2億平方メートル近く。1949年以降、すでに2800万平方メートルの旧家を取り壊している。上海市政府は、91年から 10年近くの歳月を費やし、365万平方メートルにわたる危険なバラック(粗末な小屋)を改築、じっさいに取り壊したバラックの面積は500万平方メートルにも達している。

 解体する家があれば、新築する家も、移転する家もある。ここ数年来、多くの上海人は住宅環境の改善をとおして、生活の質を大きく向上させている。

 「ぼくたちは、上海の大半を運んだよ」。そう運搬担当の劉さんは言う。上海には数百軒の運送会社があり、それぞれが盛んに営業をしている。「ほらね、新しいマンションが次々と建てられて、バラック地区もだんだんなくなっていく。毎日引っ越し作業をしても、間に合わないくらいだよ」