大孫各荘鎮の新特新葡萄産銷合作社の董成祥社長(左)は、農民たちにブドウ栽培の技術指導をしている(撮影・劉世昭)

 「農業、農村、農民の問題の解決は、すべての仕事の中での『重中之重』である」――3月に開かれた第10期全国人民代表大会第2回全体会議で、温家宝総理はこう強調した。「三農」問題こそ、中国が直面している最重要課題であるということだ。

 生産請負制の導入で、以前より農村は豊かになったとはいえ、躍進する沿海都市部との格差は広がるばかり。農民の収入の伸びは鈍い。そのうえ世界貿易機関(WTO)への加盟で、中国の農業は、国際的競争の荒波にさらされている。

 こうした苦境の中から、日本の農協にも似た農民の経済組織の「合作社」が誕生し、急速に全国に広がり始めた。これは農民の自主性から生まれ、農民権利を守る組織であり、新しい農業を生み出す可能性をも秘めている。

 「合作社」とはいったいどんな仕事をしているのか。なぜ急速に発展しているのか。北京の近郊にある二つの「合作社」の実情を通じて、その疑問に答えてみたい。

(その1)
 
共同で買いたたきに立ち向かう
 
                                         文 張春侠

 北京市の東北の郊外に位置する順義区の大孫各荘鎮は、農業中心の鎮である。総面積は74・3平方キロ。耕地面積は6・8万ムー(1ムーは6・67アール)。人口は約3万人。この数年、農民たちは自発的に、新しい型の経済組織である合作社を結成した。それは農民の生産と生活の中で重要な役割を果たしている。「北京新特新葡萄産銷合作社」も、その合作社の一つである。

農民たちの利益を守る

新特新葡萄産銷合作社の農民たちは、ビニールハウスで栽培した早生ブドウの摘果作業に余念がない(撮影・劉世昭)

 新特新葡萄産銷合作社の社長の董成祥さんはまだ37歳。中国・東北の出身だ。彼は遼寧省の農業経済学校を卒業したあと、ブドウの研究に全力を傾注し、次第に遼寧省で有名なブドウの専門家になった。1999年末、大孫各荘鎮はブドウの優良品種を作ろうと、ブドウの先進技術を教えてもらうため、董さんを北京に招いた。

 以前、大孫各荘鎮のブドウの作付面積は、わずかに二十数ムーだった。品種も非常に少なく、大規模に生産することはできなかった。董さんが鎮に来てから1年のうちに鎮のブドウの作付面積は3000余ムーに達し、デラウェアを主とするブドウ産業が形成された。

 しかもその年、ブドウは豊作だった。だが、販売ルートがなかったうえに、買い付け業者の値切りにあって、農民は収入増どころか、かえって大きな損害を受けてしまった。

 そこで董さんと数戸の大きなブドウ栽培農家は連合して、業者の値切りに対抗することを決めた。2000年11月、彼らは自分たちの共同組織である「新特新葡萄産銷合作社」を設立し、董さんが推薦されて社長に選ばれた。

 2001年9月、またブドウの収穫期を迎えた。各地から買い付け業者が大孫各荘鎮にどっと押しかけてきて、使い古された値切りの手を使った。農民たちは、去年の状況と同じような事態が起こらないかと恐れ、びくびくしていた。果たせるかな、収穫した後の2日間で、ブドウの価格は業者に操られ一直線に下降し、1斤(500グラム)当たり4元から3元になり、さらに2・5元から2元にまで値下がりした。

 こうした状況に直面し、合作社は、事前につかんでいたマーケットの相場に基づいて、3元の価格で鎮のすべてのブドウを統一的に購入することを提案した。また、最終的な販売価格が3元より高かったならば、農民にその差額を還元することにした。こうした合作社の措置を通じて農民は買い付け業者の値切り圧力をはね返し、自分たちの利益を擁護することができたのだった。

 合作社が社員に実益をもたらしたのを見た農民たちは、続々と合作社に加入した。入社するための最低の株式は一株1000元で、最高でも20株2万元を超えてはならないように規定されている。こうした株の価格は大多数の農家の投資能力に見合っていた。現在までに「新特新葡萄産銷合作社」は397戸が社員になっていて、ブドウ栽培農家の80%を占めている。

 ブドウの合作社以外にも大孫各荘鎮には、「蔬菜産銷合作社」「種羊産銷合作社」など20以上の専門業種の合作社が設立されている。こうした合作組織は、農民の生産を促し、生活を向上させた。

さまざまなサービスを提供

2003年、全国種羊品評会が大孫各荘鎮で開催された

 「新特新葡萄産銷合作社」は市場を開拓し、販売を保証すると同時に、技能訓練や生産資料の提供などの面でも社員の農家に大きな便宜を提供している。

 技術や管理の経験に乏しいため、大多数の社員は最初にブドウを植え付けるとき、さまざまな困難に遭遇する。こうした状況に対応して、合作社は社員を組織して遼寧、山東、河北などの各地を参観させ、栽培の経験を学習させている。

 同時に合作社は、北京農学院から毎年、3人の専門家や教授を招聘して顧問とし、定期的に技術訓練班を開き、ブドウ栽培管理技術を社員に伝授している。この3年余りの間に、合作社は30以上の補習講座を開き、それに参加した社員は延べ1万人以上に達し、配られた技術資料は1万部以上にのぼった。

 南夏荘の村民の賈鳳永さんは、合作社で多くの技術を学んだ。彼は6ムーの土地にブドウを植え、翌年の生産量は1ムー当たり約900キロに達した。これは、合作社に参加していない農家と比べ、50キロ以上の増収だ。さらに合作社は技術サービス隊を設立し、ブドウ畑の現場で農民を指導し、ブドウ生産の中で農民が遭遇する技術問題を解決している。

 ブドウ栽培には毎年、ブドウ棚を作る木材や鉄線などの材料、セメント、農薬などの大量の生産資料が必要であり、農民個人がマーケットで買うと、値段が高いばかりでなく品質の保証も難しい。

 この問題を解決するため合作社は、順義区の林業局や北京三利果樹研究所、大孫各荘鎮のセメント工場などと長期的な生産資料の供給関係を設立した。生産資料を工場から大量に買いつけることによって品質が保証されるばかりでなく、価格も市価に比べ5%安くなる。これによってこの3年余りで、生産資料購入の農民の支出は100万元近く節約できたという。

 ブドウは常温では保存が難しく、冷蔵しなければならない。しかし保冷倉庫を建てるには10万元以上必要で、農家が単独でこの資金を用意するのは難しい。このため合作社は、社員を招集し、資金を集めて株式化し、保冷倉庫を建てることを提案した。この倉庫に売れ残ったブドウを貯蔵しておき、ブドウの季節が過ぎてから出荷すれば、良い値で売れる。

 この提案に社員はみな賛成したので、合作社は106万元を集め、13の保冷倉庫を次々に建てた。この倉庫には65万キロのブドウが6カ月間、鮮度を保ったまま保存できる。

大孫各荘鎮の野菜の合作社は、ハウスでトウガラシを栽培している(撮影・劉世昭

 その後、ブドウの生産量が拡大し、13の保冷倉庫では保存しきれなくなった。そこで合作社は鎮政府にこうした事情を説明し、鎮政府は合作社の社員が小型保冷倉庫を一つ建てるたびにレンガ5万個、セメント20トンを政府が補助することを決定した。この決定以来、社員の積極性が高まり、農民個人が投資して37の小型保冷倉庫が建てられ、ブドウの生鮮保存問題は解決した。

 合作社の知名度やデラウェアの名前が知られるにつれ、合作社は1000ムーのブドウ狩り観光区を造り、内外の観光客を誘致した。また観光区の中に3・5キロの「ブドウの長廊」を建設し、観光客が農家で食事をし、ブドウを味わうという特色あるツアーを始めた。2003年8月から10月までの3カ月だけで、観光客は延べ8万人余り、ブドウ狩りによる収入は600万元以上になった。これは合作社の資産総額と同じだ。

 合作社は農民が市場のリスクをコントロールする能力を強め、農民は実質的な利益を得た。2002年末までに、順義区には、各種の農民の合作社は300に達し、4万6000戸がこれに加入している。これは順義区の農村総戸数の3分の1に当たる。