［特別企画］

1978年10月23日、首相官邸で福田首相と親しく歓談する�ｹ小平副総理

　�ｹ小平氏は、中国の改革・開放と現代化建設の総設計師である。傑出した政治家であり、軍事家でもある。また、新中国の指導者としては初めて日本を訪問し、中日両国の平和と友好のために確かな基礎を打ちたてた。

　2004年8月22日は、�ｹ小平氏の生誕百周年にあたる。そこでこのたび、�ｹ小平氏の「訪日の道」をたどった『人民日報』の于青氏に寄稿していただき、中日友好のために殊のほか貢献した世紀の偉人を記念することにしたい。（編集部）

　1978年10月、�ｹ小平・中国国務院副総理は日本政府の招きに応じて日本を訪問、中日平和友好条約批准書の交換式に出席した。中華人民共和国が成立して以来、中国の国家指導者が日本を公式に友好訪問したのはこれが初めてであった。

中日友好に尽力する

1978年10月23日午前、中日平和友好条約批准書の交換式が東京の首相官邸で行われた。�ｹ小平副総理、福田赳夫首相が出席した交換式で、黄華外交部長と園田直外相がそれぞれ本国政府を代表して批准書に調印した

　�ｹ小平氏の訪日は、東京・赤坂にある迎賓館から始まった。ここで日本の福田赳夫首相は、�ｹ氏のために盛大な歓迎式典を執り行った。

　続いて、�ｹ氏訪日の道をたどる私たち取材陣は、日本の首相官邸に到着した。25年前、�ｹ氏と福田首相は、まさにここで行われた中日平和友好条約の批准書交換式に出席したのだ。中国の黄華外交部長（外相）と日本の園田直外相は、それぞれ自国を代表して批准書に署名調印し、それを互いに交換しあった。�ｹ小平氏は、こう語ったという。「中日両国の人民は友好的にし、団結しなければならない。中日両国は仲良くして、協力し合わなければならない。これは十億両国人民の共通した願いであり、歴史を発展させていく流れである。中国政府は日本政府とともに中日平和友好条約の各項規定をしっかりと遵守して、履行することを願っている」

　裕仁天皇は、皇居で�ｹ小平氏と会見された。天皇は日中平和友好条約の批准書交換をたいそう喜ばれ、それが非常に意義深いことであると表された。そして「日中両国には長い友好の歴史があります。かつては不幸な出来事もありましたが、しかしそれはすでに過去のこととなりました」と話された。�ｹ小平氏は、「過ぎ去ったことは過去のものとして、今後は前向きに両国の平和な関係を築きましょう」と語った。宮内庁の関係者によれば、「天皇陛下が話された内容は、原稿の要綱にはなかったものです。外国の公賓に会見されるとき、天皇陛下はいつも外務省と宮内庁が共同作成した要綱に照らして、原稿を読み上げられる。今回、陛下が原稿から離れてお話されたのは初めてのことです」ということであった。また、共同通信は報道で、こう指摘した。「天皇陛下が初めて中国の最高指導者と会見され、その際に『不幸な出来事』という言葉を使われた。それは天皇の戦争責任という角度からして、中国の人々に間接的に謝罪の意を表されたものだ」

1979年6月29日、�ｹ小平副総理は北京で松下電器産業（株）の創立者で最高顧問の松下幸之助氏（左）と会見した

　�ｹ氏が日本で記者会見を行ったとき、人々にもっとも深い印象を与えたのが「尖閣諸島」帰属問題への回答だった。「『尖閣諸島』を我々は釣魚島と呼んでいる。その呼び方も異なれば、双方には異なる見解もある。中日国交正常化を実現したとき、我々双方はこの問題には言及しないことを決めた。今回、中日平和友好条約について交渉したときも、双方はこの問題に言及しないことを約束した。一部の人たちはこの問題が刺激となって、中日関係の発展を妨げると思っている。我々は両国政府がこの問題を避けるのが賢明だと思っている。このような問題は、しばらく棚上げしても構わないだろう。10年待っても構わない。次の世代は、我々より賢いだろうから、きっと互いに納得できる方法を見つけるだろう」。時すでに21世紀を迎えたが、今なおこの「�ｹ小平方案」――争議を棚上げし、共同開発するという方法を超えるような知恵は生まれていない。

　当時、記者会見の準備作業に当たっていた岩崎さんは、こう語る。「�ｹ小平先生の話は率直で誠意があり、現実に即していて、じつに印象を深めました。彼は日本で西側風の記者会見を行う中国の指導者として、先陣を切りました。78年10月から2003年8月まで、合わせて33人の中国首脳や政府高官が、ここで記者会見を開いたのです」

1980年4月、鑑真和上の乾漆夾紵像が祖国の土を踏んだ

　日本の国会議事堂で、�ｹ小平氏は衆参両院議長を訪問した。当時、�ｹ氏の接待業務に携わり、現在は参院国際部副部長である志村三喜子さんは、ふりかえる。「�ｹ小平先生は、二つの『第一』を実現されました。初めて国会を訪れた中国の指導者であり、また国会で初めて中国国旗を掲げられました。�ｹ小平先生は、中国の全国人民代表大会、全国政治協商会議と日本の国会に交流関係を打ち立てた開拓者だったのです」

　また、�ｹ氏は現衆院議長の河野洋平氏に会って言った。「まだ覚えていますか？　私たちが北京で会って話したことを。『中日友好のために、太平洋の安定が必要だ』と。それで私はあなたの名前をしっかりと覚えたのです。太平『洋』和『平』（太平洋の平和）、それが私の最大の希望なのです」

「現代化がわかった」

1978年10月26日、�ｹ氏一行は新幹線で古都・京都を訪れた。この時、�ｹ氏は随行記者団に「新幹線に乗ってみると、前進をせかされている感じがする。我々は今こそ、前進しなければならない」と述べたという

　78年10月24日午後、�ｹ小平氏と卓琳夫人、黄華外交部長ら一行は、神奈川県座間市の日産自動車工場を視察した。彼はオートメーション化されたロボットの溶接生産ラインに、高い関心を寄せて、部品の供給や工員の給料などの状況について細かく質問したという。視察を終えて、彼は言った。「ここへ来て、現代化とは何かがわかった。我々は工業の発達した国、とくに日本の産業界と中国との協力を歓迎している」

　78年10月26日、�ｹ氏は新日鉄・君津製鉄所で熱間圧延の生産現場を視察、日本の工員一人ひとりと握手した。生産現場の高架通路は総延長700メートル。中国の客人に短時間で視察してもらうために、歩行区間はそのうちの200メートルだった。そこで君津製鉄所の工員たちは、ちょうどよい幅の、ゆるやかな専用階段を突貫工事で造りあげた。そこからこの階段は「�ｹ小平階段」と呼ばれるようになり、製鉄所を視察する客人のために、今でも使われているという。

　当時、君津製鉄所の技術と経験を導入した上海宝山製鉄所がまさに建設中であり、中国の工員数百人がここで実習しているところだった。君津製鉄所の工員たちは、中国人工員の宿舎にしてもらおうと寮を空け、工場の体育館を中国人工員の食堂にした。�ｹ氏は君津製鉄所の中国への支援に対し感謝の意を表し、ユーモアをまじえた言葉で、稲山嘉寛氏に希望を述べた。「我々は、ひとつ君子の協定を結びましょう。もし（管理の方面で）上海がうまくいかなかったら、それは学生の責任ではない。教師が良くなかったからだ、とね」。稲山氏は「中国の宝山製鉄所の建設が、必ずや君津製鉄所より立派なものとなるよう、ご支援します」と語ったという。日本の友人たちに頼まれて、�ｹ氏は題辞を揮毫した。いわく、「中日友好合作的道路越走越寛広、我們共同努力ｰﾉ！」（中日友好協力の道は、ますます広がる。我々はともに努力しよう）。

　その後、�ｹ氏らは松下電器産業の茨木工場を視察した。創立者で最高顧問の83歳になられる松下幸之助氏と理事長の松下正治氏が熱烈に歓迎してくれ、電子技術の分野で中国と協力を進めたいと希望された。翌79年と80年、松下幸之助氏は中国を訪れ、�ｹ氏はいずれも親しく松下氏と会見している。松下電器産業はこのときから、対中直接投資を次々と展開していった。最初に成功したといわれるのが、有名な北京松下カラーブラウン管工場である。

鑑真の「里帰り」

1978年10月24日、�ｹ氏一行は日産自動車工場を見学した

　�ｹ氏訪日の足跡をたどっていた取材陣が、奈良の唐招提寺を訪れた日は奇遇にも、鑑真大師が日本に渡って1250年の記念の日だった。

　25年前、唐招提寺の森本長老は、�ｹ氏一行のために盛大な歓迎式典を開いてくれた。長老はこう語る。「鑑真和上は中国の文化と仏教を日本に伝えてくださった。私たちは中国と血縁関係にあります。それで中国の友人に会うと倍旧の親しみを覚えるのです。私どもの寺には鑑真和上のご遺志が代々伝わり、鑑真和上の座像を人として見なしています。寺の大事もみな、鑑真和上にお伺いを立てているのです」

　森本長老は、なおも勇気をふるって�ｹ氏に尋ねた。「鑑真和上がここに来られて1225年になりました。里帰りをさせてあげたいと思うのですが……」。�ｹ氏はすかさず答えた。「森本長老と鑑真の座像がいっしょに中国を訪問されることを歓迎しますよ」。長老はそれを聞くなり喜びでいっぱいとなり、�ｹ氏に抱きつき興奮したようすで言った。「ありがとうございます！　とてもうれしい。ついに、私の十二年来の願いを叶えることができるのですね」。森本長老は、それまでにも中国側の招待を何度も受けていたが、「（鑑真）和上が中国の土を踏むより先には行かない」という信念を固く守っていたのである。

　80年4月、鑑真大師座像は中国に帰り、各地で巡回展が開かれた。5月6日、�ｹ小平氏は人民大会堂で森本長老と会見し、「鑑真座像の帰国巡回展は、非常に意義深く、盛大な事業となりましたね」と語ったという。

庶民のことを考える

国会議事堂の職員が、中国人記者に�ｹ氏の国会訪問のようすを話してくれた

　25年前の10月28日正午、奈良県知事と奈良市長が共同で�ｹ氏一行の歓迎宴を開いた。その隣の「菊の間」では、ちょうど結婚式が行われており、�ｹ氏は「必ず見に行かなければ……」と言った。歓迎宴が終わると、�ｹ氏と卓琳夫人は菊の間に向かい、新郎新婦と握手して、お祝いの言葉を述べた。中国の指導者のこんなにも親しみやすく、やさしい姿を見て、出席者たちは一同に大きな拍手を送った。

　そのとき、写真撮影を得意とする松田定明さんは、結婚式の撮影を任されていた。�ｹ氏夫妻と新郎新婦が握手した感動的なシーンを、彼は一気に20枚以上も収めていた。�ｹ氏一行がホテルを離れた後、記者たちが式場に駆けつけてきた。『読売新聞』の記者が松田さんのフィルムを、新聞に使いたいと言ってきた。しかし、当時の技術的な問題から、写真を当日の夕刊に入れるとモノクロになってしまう。松田さんは、カラー掲載を譲ろうとはしなかった。そして、ついに翌日の『読売新聞』朝刊にカラー写真が発表された。「友好のめぐり合い」というテーマの写真は、その月の読者写真コンテストの一位に輝き、七八年度の『読売新聞』写真コンテストの大賞も獲得したのである。

　元駐中国日本大使の中江要介氏は25年前、�ｹ氏一行の訪日スケジュールを全線随行した。彼は、外国訪問中の�ｹ小平氏が、なおも中国の人々について気にかけていたことを今でもハッキリと覚えている。随行したとき、中江氏は「日本のどこに興味があるか」と�ｹ氏に尋ねた。すると「日本には一酸化炭素が出ない豆炭があるかどうか、関心がある」と言う。「なぜなら中国の人々は冬に豆炭を使うので、しょっちゅう一酸化炭素中毒が発生している。もし、一酸化炭素の出ない豆炭が使えるのなら、中国人は無事に冬が越せるだろう」。そう言うのだった。

　中日関係の発展過程をふりかえれば、これまでに多くの紆余曲折があった。しかし、中日友好協力は両国の人々に、じっさい多大な利益をもたらした。そしてそれは、さらに高度で広い分野で、大きな発展が得られることだろう。中江氏が覚えているのは、当時、福田首相が言った言葉だ。「もし、日中共同声明が木の橋だとすれば、日中平和友好条約は鉄橋だ。それは法律の上から、両国関係をさらに一歩強固なものにしたのだ」

　�ｹ小平氏の訪日の道をたどり、この偉人が『中日関係は戦略的な位置から見る』と言っていた言葉がいつも耳元で鳴り響いていた。「どんなことが発生しても、中日友好は変わらないし、変えることもできない」「中日関係を長期的な角度で考え、発展させること。それは、我々の間の一切の問題を乗り越える重要性があるのだ」と。