民謡の調べ 未来へ響け!
――「第二回中国南北民歌コンテスト」を訪ねて
 
                                    王丹丹=文・写真

 この秋、二年に一度の「中国南北民歌コンテスト」が山西省左権県で盛大に行われた。今年はその第二回目。古来の民謡を救済して発掘し、収集、整理して繁栄させる。そして各民族間の音楽と文化の交流・発展を促進するのが、コンテストの狙いである。

「十大歌王」を選出

開幕式の盛大なパレードに参加した民間歌手たち

 参加歌手は、長江を境に「北方チーム」と「南方チーム」に分かれて、それぞれ交互に民謡を披露した。「郷土の香り」がするような素朴な民謡を聞く者も、歌う者も陶酔していた。参加条件は、その民族特有のことばか、または地元の方言で歌うこと、伴奏テープを用いないこと、特徴のある美しい民族衣装を着ること、伝統的な歌唱法や様式を強調すること。そのため、多くの歌手たちが古来のままの民謡を携えて、祭り用の衣装をまとって遠方からはるばるやってきた。

 コンテストには、内蒙古、湖北、新疆、台湾、江蘇、貴州などから55民族、合わせて104人が参加した。そのうち10組の歌手に「十大歌王」という称号が与えられた。雲南省からきたイ族の歌手・李懐秀さんと李懐福さんの姉弟は、高音ですぐれた歌唱と美しい踊り、自然な演技で観客を魅了して、総得点第一位に輝いた。

 コンテストは3日間にわたって行われ、全国の民謡が一堂に会した「大収集」だと評された。

生活は民謡の土壌

 民謡は、民間から発生したものだ。その歌曲や情感も生活から生まれている。最大の魅力は、本質的な芸術手段によって、真実の生活感を表すことだ。

 左権県は太行山脈の中部に位置する。土地の人たちは歌が上手で、踊りもうまい。全国でも有名な「歌舞の里」とされている。第一回コンテストで「歌王」に選ばれた石占明さんは、地元の羊飼いである。ある人が歌を歌ってもらおうと彼の家を訪ねたが、「家の中ではうまく歌えない」といって屋外へ出た。そして青い山脈と羊の群を前にするなり、彼はすっかり朗らかになり、鞭を打って声高らかに歌ったのだ。

 「優秀歌手賞」を受賞した漢族の女性歌手・カク雲シさんは、ハキハキした性格だ。貧しい太行山地区に暮らし、中学に通う二人の息子を養わなければならない。毎日のつらい労働で彼女の容姿は実年齢より老けてみえるが、しかし彼女の楽観的な生き方は、生活苦に押しつぶされることはない。オンドルに腰掛けて、靴底の刺し子をするとき、畑で野良仕事をするとき、興に乗ると働きながら歌いだす。

 「♪正月に恋人を誘う、恋人を連れて灯籠を見に行こう……」。澄んでよく通る歌声が、広々とした野山に響きわたる。「歌を歌うと、生活の苦しさが消えるような気がするの」とコツさんは言う。

 学問的な音楽理論を知らないだろうこうした民間の歌手たちこそ、情熱と活力にあふれた歌をステージで披露した。素朴な田舎の音楽で、私たちの心を震わせたのだ。

無数にある民謡

音楽は最良の交流のことば。にぎやかな雰囲気の中で、台湾の歌手たちがアミ民謡を歌っていた(右端は中国音楽研究所の張佩吉教授)

 各民族に伝わる民謡は、種類が多く、その数も驚くほどある。『甘粛民歌』の統計によれば、わずか甘粛省だけでも各種の民謡が一万四千曲あり、そのうち少数民族の民謡は六千曲を超えるという。しかし、民謡は時代とともに変わったり、消滅したりして収集・記録が立ち遅れている。そのため全国に一体どれだけの民謡があるのか、今でも誰もわからないし、専門家たちも大まかな類別と部分的な数値しかわからない。

 北方の民謡は荒々しくて豪快、南方の民謡は美しくてたおやかであることで知られている。少数民族の民謡はさらに多彩で、すばらしい歌曲が数え切れないほどある。漢族の民謡はもっとも数が多く、もっとも広く分布している。おもに「音頭」「山歌」「小歌」の三種に分かれる。

 内容から分類すると、民謡にはおもに「時政(歴史)の歌」「生活(儀礼)の歌」「労働歌」「恋歌」「童謡」「人物伝記の歌」「叙事歌」などがある。分布にも一定の規則があり、その種類は少数民族地区に豊富で、都会に比べ田舎の方が多彩であるということだ。

台湾の先住民歌手

 今回のコンテストでは、台湾から来た「巴奈合唱団」が「十大歌王」の一組に選ばれた。台湾のアミ人の住む馬蘭集落からきた合唱団で、夫婦のペアで構成される。「巴奈」というのはアミ語で「米」の意味である。集落の文化が消えさることを恐れ、合唱団を組織して、休日に民謡を練習してきた。

 コンテストに参加した60歳ほどの三組の夫婦は、ビンロウを栽培している先住民だ。披露した曲目は、『家族集会歌』と『老人飲酒歓楽歌』。アトランタ五輪のプロモーション・フィルムの中で、アミ人の老人・郭英男さんが歌っていたのはこの二曲である。今回は伴奏を除いてソロで歌うという、もっとも原始的な歌い方が披露された。

 リーダーの林正春さんと豊月蓮さんに、若者たちに伝統音楽を継承する気持ちがあるかどうか聞いてみた。すると「親の威厳がなければダメですね。台湾の民間文化も、後継者断絶の問題に直面している。若者たちは流行歌を聞くのが好きですからね」と心配そうに語っていた。合唱団の老人が集うときは、必ず米酒を飲んで民謡を歌い、その後、ブタを殺して祝うのだという。現在の若者たちはそんな規則を守らなくなった。

 コンテストでは、六人のアミ人が手に手をとって舞台に上がった。その歌声は体の中から発せられ、簡単なフレーズによって、生活賛美と生命尊崇の思いをゆったりと歌い上げた。二曲の参加曲を披露した後、彼らはさらに『再見歌(さようならの歌)』を歌い、名残惜しそうに手を振りながらゆっくり退場していった。観客たちはその美しい民謡に心打たれ、今回のコンテストではもっとも長く、盛大な拍手を送ったのだ。

後継者と発展のために

「優秀歌手賞」を獲得した漢族の歌手・カク雲シさん。かつて二十元の登録費に悩んだという(写真・王虎)

 民謡はきわめて価値のある文化財である。労働者の暮らしや喜怒哀楽を表現するだけでなく、少数民族の歴史研究にも貴重な資料を提供している。

 農村の都市化が進むにつれて、伝統民謡の一部にはそれを歌う環境がなくなっている。たとえば、今では家屋の建築にセメントが使われるので、かつて家を建てるときに歌われていた「家を建てる歌」や「棟上げの歌」を歌う機会がなくなった。また、民謡を伝える文化環境も壊されている。「民歌会」の規模が縮小され、その儀式も不完全なものになり、民歌会でしか聞くことのできない多くの民謡の伝承が危ぶまれている。

 民謡はおもに歌手の口と耳で伝えられるが、現在の若者は生活のプレッシャーから歌を学ぶ余裕がなかったり、流行歌に傾倒したりしている。ベテランの歌手たちが相次いで世を去るにつれて、数多くの民謡もともに消えてなくなった。話しことばがあっても文字のない民族は、民謡の消滅がなおさら激しい。テレビやインターネット、ラジオなどのメディアの普及と、流行歌などの現代文化の衝撃で、民謡消滅のスピードがいっそう加速しているのである。

 現在、民謡における最大の危機は、伝承の問題だ。そのため民謡やベテラン歌手を救済・保護するとともに、新人歌手の発掘と養成に力を入れる。民謡という無形文化遺産に後継ぎをつくることが、急務となっているのである。