文・写真/須藤みか
 
 
21世紀的春節風景とは
 
 
 
春節の飾りつけが始まった豫園

 おめでたい日かどうか、中国では耳をすまさずともすぐ分かる。結婚式、引越し、国慶節…、めでたい日には爆竹を鳴らすからだ。そして、上海で一段とその爆音が高くなるのが、春節(旧正月)だ。

 毎年、日にちが変わる春節は04年が1月22日で、05年は2月9日になる。春節は、中国人にとって一番大切な祝日。遠方に住んでいて、ふだんは会うことのない息子や娘、親戚が帰郷して、一家団欒を楽しむ。
 
春節まで一カ月を切るあたりから、街には年賀カードやお年玉袋など真っ赤なお正月グッズが並び、日本の師走のごとく街全体が気忙しく、しかしウキウキした気分に包まれてくる。故郷の家族への土産を買う、おそらく出稼ぎであろう人たちの姿にほのぼのとし、その一方で「スリが増えるから、用心して」と中国人の友人たちから声もかかる。タクシーが一年でいちばん混んでそして拾えなくなるのもこの時期で、冷たい風の中をタクシーを求めて右往左往しなければならなくなる…。そんなこんなに、春節の近いことを実感するのだ。

年夜飯も家庭回帰

豫園にて

 日本の大晦日にあたる「除夕」には、「年夜飯」と呼ばれるご馳走を作って食べるのが古くからの伝統。この時必ず食べるのが、北方では餃子だが、上海などの南方では「年ク竅vと呼ばれるお餅だ。上海に居残れば毎年顔を出す上海の友人宅では、丸いことから家族団欒をイメージする里芋や、房が豊かで家族繁栄を象徴する枝豆なども出てきて、食卓は皿で埋め尽くされる。

 最近は、年末だからといって自宅で食卓を囲む家庭も年々減少している。ここ数年はもっぱらレストランやホテルで除夕を過ごすのが主流で、3、4カ月も前からレストランでは年夜飯の予約が始まる。店頭には予約受付の看板が立ち、人気のある店では三カ月を切る頃にはすでに八割は席が埋まってしまうようだ。

 しかし、『文匯報』によれば外で食べる年夜飯にも飽きて、今度は家庭回帰の動きも出ているとか。念願のマイホームで、寛ぎながらの年夜飯。自分で腕をふるうというよりは、今流は半加工済みの食材宅配サービスを利用したり、プロの料理人を呼んで作ったりという具合で、各様だ。

 以前はお年寄りたちを嘆かせた「年越しは海外で」というスタイルも定番のひとつになりつつある。渡航先は、オーストラリアや東南アジアなど暖かい地域が人気だ。

中身も外見もブラッシュアップ

春節の豫園(2004年)

 各様と言えば、休暇の時間こそブラッシュアップのために使おうとする人たちも少なくない。この激しい競争時代を勝ち抜くためにと、専門学校のTOFEL強化コースに通って英語漬けで過ごすサラリーマンもいれば、中身でなく外見のブラッシュアップをと、休暇中に整形手術を受けてしまうなんていうちゃっかり女性たちもいる。

 新年の挨拶に携帯電話のショートメールを利用するというのも、21世紀的春節の風景だ。『文匯報』によれば、春節一週間中に発信されたショートメールは全国規模では03年が70億本だったのが、04年は約100億本。上海だけでも04年は5億1000万本を超えており、人口で割れば一人あたり30数本送った計算になる。

 時代とともに移りゆく上海の春節風景だが、変わらないのが街中で鳴り響く爆竹音。どんなに街の風景や生活のリズムが変化しようと、爆竹抜きに新年は始まらない。そんなDNAが上海人の中には組み込まれているのかも。中国で初めて迎えた除夕、鳴り止まない爆竹音に戦場にいるのかと耳をふさぎたくなった私も、今となっては威勢のいいドーン、ビリバリというあの音を聞かなければ新年が明けた気がしない。どうやら私にも上海的DNAが刻み込まれてしまったようだ。

春節前に縁起物を売る店

 
年夜飯(大晦日の食事)予約受付の看板
 
ショッピングセンター内の春節の飾りつけ

 
 

  プロフィール 復旦大学新聞学院修士課程修了。日本の出版社、北京週報社勤務を経て、フリーランスのライターに。近著に、『上海で働く』(めこん社)。  
     


  本社:中国北京西城区車公荘大街3号
人民中国インタ-ネット版に掲載された記事・写真の無断転載を禁じます。