名作のセリフで学ぶ中国語Q

 

わが家の犬は世界一
(カ拉是条狗、CALA,MY DOG)
 
監督・路学長(ルー・シュエチャン)
2002年 中国 100分
2003年ベルリン国際映画祭正式出品
2003年香港国際映画祭クロージング作品

 


あらすじ

 工場労働者老二の妻玉蘭は夜勤の夫に代わって夫の愛犬カーラを散歩させていたところを警官に捕まり、カーラを没収されてしまう。犬の登録料を払っていなかったからだ。明日の午後4時までに登録料を払わないとカーラは遠い収容所にやられてしまう。

 1人息子の亮亮は日頃父親には反発を感じているものの、カーラには愛情があるので、警官を父親に持つ同級生に頼んで夜更けの派出所に一緒に行ってもらうが、金を払わない限りどうにもならないと言われる。翌朝、夜勤から帰った老二は家の貯金を下ろせないかと妻に頼むが、息子の教育費だと断られる。実は老二は密かにカーラの登録料を払うため、へそくりをしているのだがそれではまだ足りないのだ。カーラをくれた以前の麻雀友だちの楊麗にカーラの母犬の登録証を借りて警官を騙そうとするがあえなく失敗、老二に好意を抱く楊麗も裏の手口を使ってカーラを取り戻せないかと奔走する。

 一方、亮亮は不良にかつあげされている同級生のために闘って相手の腕を折ってしまい、留置場に勾留されてしまう。息子の面会に派出所に出かけた老二夫婦の目の前で、カーラを乗せたトラックが派出所を出て行く。

解説

 1994年の戌年に制定された北京市の飼い犬取り締まり条例がもたらしたある一家の悲喜こもごもを描いた第6世代の路学長の第3作である。同じ条例を題材に描いた作品に寧蟄の『スケッチ・オブ・Peking』があるが、あちらは取り締まる側から見た犬騒動で、しかも役者はすべて素人が演じていたが、路監督は今回飼い主側の視点から描き、なおかつ葛優、夏雨を始めとした錚々たる芸達者を使って枯淡の味わいと言うか、庶民の哀歓を描き出した秀作に仕上げた。

 『長大成人』『非常夏日』と怒れる青年の姿を描いてきた第6世代監督の級長的存在の路学長ももう40歳。まったく技巧を感じさせない巧みな演出力と、決して声高には叫んでいないが、人間性欠如の制度に対する批判や、変貌する中国社会での人々の生き様を描く姿勢に監督の成熟が感じられる。同時にこうした映画が公開され、興行的にも成功を収めたというところにも中国社会の確実な変化を感じ取ることができる。

 ちなみに、映画の公開後、愛犬家とメディアを中心とした世論が高まり、この条例も見直され、現在ではかなり緩やかなものになったそうである。「映画が少しは役に立ってうれしい」とは同じく愛犬家である監督の弁。

 この映画は日本でも愛犬家だけでなく、次のような主人公の台詞に見られる中国の父親の姿に、会社でも家庭でも居場所のない日本の中年男性の共感を呼ぶのではないだろうか。






見どころ

 お正月のコメディ映画に主演し続けた葛優には、禿頭によく廻る毒舌という固定したイメージがついてしまった。その葛優がかつらをかぶり、実にうだつのあがらない冴えない男を淡々と演じて、改めて俳優としての力量を見せつけた。そして彼に固定したイメージを与えてしまった当のご本人の馮小剛監督もチョイ役で友情出演しているなど、中国映画ファンには見逃すことの出来ない出演者が勢揃いしているのも、この映画の魅力の一つ。

 勝気だけど根は優しい妻を演じる丁嘉麗は黄建新監督や楊亜州監督の社会派作品の常連である実力派女優。ここ数年スクリーンで姿を見かけなかったので、その健在ぶりが嬉しいし、老二の女友だちを演じる李勤勤はピーター・ワン監督の『グレート・ウォール』(86)でアメリカ華僑の従兄にカルチャーショックを受ける可憐なヒロインのリリちゃんを演じた女優である。歳月だけのせいとは思えない、その変貌ぶりにびっくり。

 そして一番の掘り出し物は息子を演じた李濱。彼は同じ第6世代の王小帥(路学長とは高校大学を通しての同級生)の『17才の自転車』でデビュー、団塊ジュニアならぬ文革ジュニアの、親の世代とはまったく考え方の違う今の中国の現代っ子を好演して印象的な若手で、今後が楽しみな1人だ。やっぱり中国映画界は人材が豊富である。

水野衛子 (みずのえいこ)
中国映画字幕翻訳業。1958年東京生まれ。慶応義塾大学文学部文学科中国文学専攻卒。字幕翻訳以外に『中国大女優恋の自白録』(文藝春秋社刊)、『中華電影的中国語』『中華電影的北京語』(いずれもキネマ旬報社刊)などの翻訳・著書がある。

 







 
 






 
   
     
 
 
     
     
     
     
   

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