文・写真/須藤みか
 
悲喜交々の受験シーズン
 
 
 
上海の名門大学・交通大学

 タクシーが拾いにくくなるのは、旧正月前と六月の朝。なぜかと言えば、受験シーズンだからで、我が子が試験会場に遅刻しないようにと親たちはこぞってタクシー会社へ予約を入れる。日常タクシーを利用する人たちはそのあおりを受けて、街をさまよい、あぁ受験の季節だったと気づくことになる。それもまた、上海の風物詩のひとつになっている。

敗者復活は海外留学

 今年はどうなるか分からないが昨年は、試験前一カ月ほどはよほどの緊急性がない限り夜間工事を禁止にするとの通達があったし、試験期間中は、試験が実施されている学校の百メートル以内の工事も禁止された。それほどまでに、上海の建設ラッシュはすさまじいということだ。受験生でなくとも、工事現場の騒音と塵埃は堪らないもの。今年も、束の間の安穏な時間を与えて欲しい。

幼稚園から名門へ

 戸外の騒音だけでなく、テレビの音も受験生にとっては妨げ。一昨年、受験生を抱えていた国有製薬会社の営業マン、Z氏の家でも、妻から厳しいお達しがあり、隣室の子供部屋に聞こえないよう音を絞らない限りテレビは見せてもらえなかった。

 娘が怠けないようにと妻と交替で監視をし、DHA(ドコサヘキサエン酸)で頭が良くなると聞きつけた妻から、健康食品を買いに行かされたことも一度や二度ではない。

バイリンガルに育てようと外資系学校に通わせる親も

 立派な職業に就くためにはまずは良い高校、大学へ。学歴偏重の傾向は強くなり、子どもたちは詰め込み教育のなかでストレスを抱えながらも、必死で親の期待に応えようとしている。中学、高校に通う友人の子供たちは、「将来何になりたいとかなんて、いまは何も考えていない。いい成績をとって、いい大学に入れれば何とかなると思うから」と、親たちが喜びそうな答えを当然のことのように言う。

 Z家はというと、娘は相当に受験勉強を頑張ったし、妻もしゃかりきになっていたけれど、その思いもむなしく志望校に不合格。私立大に通っている。

 一番悔しがったのは、娘ではなく妻だった。私立大を三流大学扱いする風潮の上海では、娘が学内でどんなに良い成績を上げようともいい就職先は望めない。そう思った妻は、娘を敗者復活させるべく、いそいそと留学準備に励んでいる。

良い人脈作りにはMBA?

MBA学位取得のための補修クラスの広告

 社会に出ても上海の人たちは、学びの心を忘れていない。

 上海を代表する名門大学、交通大学。その敷地をぐるりと囲む形で、外国語、会計、コンピューターなど各種専門学校の看板が立ち並ぶ。週末の夕刻、看板やチラシを熱心に見入る若者たちがいた。

 転職、昇進のためにアフターファイブを利用して外国語や専門知識を得ようとする社会人、大卒の学歴だけでは就職戦線を乗り切れないとダブルスクールに通う大学生など、時代に乗り遅れまいと、学習意欲に燃えている。

 上海市統計局が03年秋、週末の過ごし方について調べたところ、過半数が「何らかの勉強をしている」と回答している。

 なかでも最近注目を集めているのが、MBA(経営学修士)課程。世界中から投資が集まり、ビジネス環境が変化している中国では、経営管理能力を持つ人材へのニーズが高まっている。

各種専門学校の看板

 学費は平均8〜10万元(1元は約13円)と値も張るが、学位取得を目指す人は増える一方だ。「中国MBAオンライン」によれば、国内に現在MBAホルダーは1万3000人だが、今年の学位受験者数は2万人を超える。

 一昨年学位を取得した日系企業勤務のWさん(30歳)によれば、クラスメートは欧米系企業に勤めるビジネスマンや、国を代表する大企業の管理職クラスばかり。講義終了後の食事会での情報交換が何より楽しみだったという。最近はさらに、エグゼクティブ向けのEMBAが人気で、そこに集う受講生たちも、次代を担う選りすぐりの人材ばかりとか。選ばれし彼らはそこで、新たな人脈作りに励むという仕組み。Z氏の妻が娘の進路に躍起になったのも、分からなくはない。

 
 

  すどうみか 復旦大学新聞学院修士課程修了。フリーランスライター。近著に、上海で働くさまざまな年代、職業の日本人十八人を描いた『上海で働く』(めこん刊)がある。  
     


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