世界に広がる中国語学習ブーム
 
 
                                     高原=文  楊振生=写真
世界の大学生による第3回「漢語橋」中国語コンクールのくじ引き抽選会(国家対外漢語教学領導小組弁公室提供)
中国語を流暢に話す「変な外人」が増えている。
漢字文化圏の外国人だけではない。欧米やアフリカの人々が、難しい漢字に挑戦している。
中国に留学してくる学生やビジネスマンは増加の一途だ。
世界百カ国以上の国々の、2500の大学で、中国語が教えられている。
いまや世界で中国語を学んでいる人は、3000万から4000万人に達する。
中国語学習ブームの背景には、何があるのか。中国語を学ぶ動機にも変化が起こってきている。
どんな人が、どのように、何のために中国語を学んでいるのだろうか。

 
外国人が中国語で 「相声」を演ずる!?

 中国には「相声」という大衆芸能がある。これは、日本の漫才に良く似た話芸で、もちろん中国語で演ずる。庶民が日常使っている、くだけた言葉で、小気味良く、早口でポンポンとしゃべりまくる。

 「相声」には一人で演ずる「単口」、二人で演ずる「対口」、三人以上で演ずる「群口」がある。

青い目の「相声」芸人、「大山」(中央)。彼の2人の先生、姜昆さん(左)と唐傑忠さん(右)とともに舞台に立った

 金髪で青い眼の青年が、「相声」の芸人となり、人気者となっている。マーク・ローズウェルさん、40歳。カナダ人のこの青年は、舞台やテレビに出演し、もちろん中国語で「相声」を演じて喝采を浴びている。

 彼が「相声」に接したのは、中国に留学してからだ。中国の有名な「相声」師の姜昆さんと唐傑忠さんについて「相声」を学び、十数年前から、舞台に立っている。中国の観客たちは、白人が外人訛りの中国語でしゃべる「相声」に最初はびっくりし、そして腹を抱えて笑い転げた。とくに彼が、北京の訛りで演ずる「許大山」という役が大当たりし、そこから彼の芸名は「大山」となった。これが中国初の、外国人の「相声」芸人の誕生である。

 しかし彼は、外国人訛りで笑わせる芸に満足しなかった。中国文化を深く理解し、流暢で本場の北京語を操って人々を笑わす芸を目指した。いまや誰もが彼を「洋笑星」(西洋のお笑いスター)と呼ぶ。

話芸を通じて中国人を知る

 「大山」の演じる「相声」を見て、外国人留学生たちが次々に「相声」を学び始めた。中国の著名な「相声」師、丁広泉さんは、そんな外国人留学生に「相声」を教えている。彼は1988年からこれまでに、80カ国以上、90人以上の外国人留学生に「相声」を教えてきた。

 この4月のある日、北京の中央テレビ局で、本番前に丁さんが、外国人の弟子たちを教える様子を見せてもらった。

3人の外国人の弟子とリハーサル中の丁広泉さん(中央の男性)。左端はラエティティアさん、その右はジュリアンさん、右端はニューハムさん

 弟子の英国人のダニエル・ニューハムさん(芸名は「大牛」)は「丁先生の教え方は、実践重視で、リハーサルと舞台の中で学ばせようとしている」という。実際、公演前の4、5時間のリハーサルで、丁さんは、3人の外国人弟子がその夜に演ずる十分足らずの「相声」を、繰り返し繰り返し、稽古させていた。

 その傍らで、フランス人の弟子のジュリアンさんが「貫口」という話芸を何度も繰り返して練習していた。「貫口」というのは、かなり長い話の一節を一気呵成に語り、笑わせたり、人をうならせたりする芸のことで、「小貫口」「大貫口」の二種類がある。一般に「小貫口」は十数語、「大貫口」は百語を超す。

 ジュリアンさんは「貫口」の『報菜名』(注文された料理の名前を言う)という出し物が得意で、これを演ずるたびに中国の芸人からも「うまい」と誉められてきた。しかし、演じるときにいつも緊張してしまい、目は一カ所を見つめたままで、言葉のトーンも、間の置き方も不自然だ。丁さんは、そこを一つ一つ修正して行く。

 もう一人、27歳のフランス人弟子、ラエティティアさん(中国名、李霽霞さん)は、さほど流暢ではない。彼女は、手で拍子をとりながら台詞を覚えているが、なかなかうまくしゃべることができない。そこで小さなテープレコーダーを取り出し、先生の丁さんに、彼女の台詞の部分をもう一度やってもらい、部屋の片隅で、その録音を聞きながら真似をして、懸命に、自分の言葉を本場の中国語に近づけようとしていた。

 現在、全中国で「相声」の芸人は、プロ、アマ合わせても千人余りに過ぎない。その原因は、「相声」のマーケットが小さいことや「相声」が非常に難しいことにある。「相声」はうまくしゃべれる(説)というだけではなく、真似る(学)、笑わせる(逗)、歌う(唱)ができなければならない。これは中国人にとっても難しいが、外国人にとっては更に難しい。

丁広泉さん(左端)と彼の弟子たち(モリスさん提供)

 しかし実際は、外国人が「相声」を学ぶ最大の困難は、言葉そのものにはない。むしろ、舞台で観客と気持ちが通じ合うかどうかだ。観客が何を考えているのか、人々はどんな話題が好きなのか、観客の本当の気持ちを表現できるかどうか――それがもっとも難しいところだ、と丁さんは考えている。

 丁さんの外国人弟子の中で、スターとなった人は少ない。大多数は日常、翻訳や貿易、中国語教育などの自分の生活を続けている。「相声」は趣味に過ぎない。とはいえ、彼らは「相声」を通じて標準的な中国語をしっかり理解し、さらに深く中国人とその生活様式を理解している。

 だから丁さんは、「相声」を教える以外に、外交学院でも留学生のために「趣味の中国語講座」を開設している。笑い話のように、楽しませる言葉が、深い印象を残す。だから彼らの語学学習の役にたつ、と丁さんは思っている。



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