北京ウォッチングI 邱華棟=文 劉世昭=写真
 
虚構の世界に酔う北京っ子
 
 
 
三里屯バーストソート

 バーは、都市の人々の夜間棲息地であり、サブカルチャーの集散地でもある。夜、酒を飲む場所として、そこには虚構的な雰囲気が作り出されている。都市に住みながらも、ジャングルや海辺、山野、あるいは過去の某年代に入り込んだような感覚を得られるのだ。そこで、設計や内装はバーにとって非常に重要。見過ごしてしまいがちな場所に、異質の空間をしつらえ、夜になると、酒、照明、異性、音楽そして言葉に表せない雰囲気や夜の香りとともに人々を酔いしれさせる。

 北京にはたくさんの娯楽様式と場所があり、それは多様化している。バーに行くのはほとんどが若者だ。現在北京には、ホテルのホールにあるバーを除いて、単独で経営している店が千軒以上あり、それは各地区のビルや通りのすきま、地下に分布している。北京でバーが集中している場所は2カ所あり、1つは東三環北路の中ほどの西側にある三里屯。第1大使館区と第2大使館区の間に位置し、外資系企業に勤める人、外国人旅行者、ホワイトカラー、アーティストおよびアーティストの卵が、よく出没する。ここには専門のバー・ストリートがあって、その北ストリートの全長は300〜400メートル、バーが1軒1軒連なり、合わせて70軒ある。南ストリートにも、バーがたくさん建ち並び、20〜30軒分布している。三里屯全体と東三環沿線のバーの総数は、北京のバーの半分以上を占めるだろう。

 もう1つは、什刹海の前海と後海の周辺。この一帯は最近、非常に賑やかになり、昔を模した建物やレストラン、バーが盛んに出現している。ここのバーの人気を見るに、すでに三里屯を追い越し始めていると思われる。

 バーは1種の舶来品だ。もともとはヨーロッパ大陸のものであったが、アメリカ大陸でさらに発展し変化してきた。そしてここ数年、中国の大都市で急速に増えている。北京、上海、広州などの都市にはとても多く、そのスタイルもみな同じというわけではない。

什刹海の湖畔にはたくさんのバーが次々と出現した。この辺りは古い北京の雰囲気が残っている(撮影・魯忠民)

 北京のバーは一般的に広く、装飾はあっさりとしている。スタイルもさまざまで、イギリス風、アメリカ風、メキシコ風、日本風など数十種類ある。全体的に、文化や芸術の香りが比較的濃く漂っていると言えるだろう。

 上海のバーは一般的に小さめで、ジャズバーが多い。そのスタイルは婉曲で含みがあり、ある種の感傷や懐旧の思いがある。まるで、上海の1930、40年代の贅沢で享楽的な時代を追憶しているようだ。広州のバーは、もっと庶民的で賑やか。ホワイトカラーの娯楽の場であるだけでなく、商談にもふさわしい場所だ。

 なぜ若者はバーに行くのが好きなのか? 夜に酒が飲める場所だからか。都会の夜の孤独と戦うためか。バーが異種の香りに満ちているからか。そこで昼間とは違うタイプの人間になりたいためか。

 私がかつてバーに行ったのは、文章を書くためだった。しかしその後、そこで出くわす同業者や友人が多すぎたため、独りで書きつづけることはできなくなった。

 バーの中では、人の気持ちは浮き沈みしやすく、感情がとても敏感になる。バーには恋愛中の人もとても多い。彼らは、その虚構的な雰囲気の中で、自分の乏しい愛情にさまざまなカムフラージュを施し、その気持ちが昼間になっても失われたり薄くなったりしないようにしている。ある人々にとってバーで過ごす夜は、一生忘れられない幸せな場景の一つになっているのかもしれない。

 北京のバーでは、各種のステージがよく催されている。ほとんどがあまり有名ではないバンドによる、ジャズ、フォーク、ロック、ポピュラー音楽のライブだ。定期的にライブを行っているバーは、専属のバンドを持っていて、それらは大学生やさすらいのミュージシャン、公にはステージを行えない有名なロックバンドである。

 私が以前、あるロックバンドの集会に参加したとき、暗いバーの中で、その狂暴なロッカーはギターをたたき壊した。その弦が遠くから飛んできて、もう少しで私の顔を切るところだった。また、「芥末坊」というバーに行ったとき、「あなたが座っているところは、アメリカの大監督・オリヴァー・ストーンが昨日座ったところだ」と、髪の毛を白く染めた女性に教えられた。

 とにかく、バーは若者たちが活動する場所であり、彼らがバーへやって来るのは、昼間の自分と異なる人間になり、会いたい人に出会うためである。それでは、バーで会おうではないか!

 

 
 
邱華棟 1969年新疆生まれ。雑誌『青年文学』の執行編集長、北京作家協会理事。16歳から作品を発表。主な著書に長編小説『夏天的禁忌(夏の禁忌)』『夜晩的諾言(夜の約束)』など。他にも中・短編小説、散文、詩歌などを精力的に執筆し、これまでに発表した作品は、合わせて400万字以上に及ぶ。作品の一部は、フランス語、ドイツ語、日本語、 リ国語、英語に翻訳され海外でも出版されている。  
 

 
本社:中国北京西城区車公荘大街3号
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