北京ウォッチング(22) 邱華棟=文 劉世昭=写真
 
建物が盆地状に広がる
 
 
 
北京の中心の故宮は「都市盆地」の底部になりつつある
 山や建物などが空を背景として描くスカイラインは、都市の輪郭線である。
 
 私は自動車に乗るのが好きなのだが、市街地の道路、特に北京の環状道路を疾走すると、周囲の建物が後ろに飛ぶように流れていくのを感じる。こういった建物は私の目の前で、断続的に高低の起伏があるラインやかたまりを形成する。これが都市のスカイラインだ。
 
 上海の浦東地区にある高さ200メートル余りの東方明珠テレビタワーの展望台からは、市街地全体を見渡すことができる。密集した建物がにょきにょきと出現しているため、都市全体が急速に高くなっている。しかしここから眺めると、依然として平面のように感じるかもしれない。それは、立っている場所が高すぎるからである。都市のスカイラインを観察するには、高すぎる場所に立ってはいけないのだ。
 
 北京のスカイラインは、真ん中が低く、周りが高い。都市全体が、二環路(第二環状道路)、三環路、四環路を環状線とし、天安門広場を中心とした「都市盆地」を形成している。
 
景山の上から周囲を眺めると、北京はすでに高いビルに囲まれていることに気づく
 北京のメーンストリート、長安街の沿線にある建物は、天安門広場の両側からそれぞれ東西に向かって、30メートル、45メートル、60メートル……と徐々に高くなっていき、二環路に至るとだいたい100メートルに達する。三環路と交わる「公主墳」や「国貿」の立体交差では、200メートルに達する建物もある。
 
 もちろん例外もある。例えば、北京飯店の東楼は、高さ45メートル制限の区域にありながら、18階建てで高さは70メートルだ。このため、その東側にある東方広場の東楼、恒基センターのオフィスビル、国際飯店もそれに応じて高く、それぞれ70メートル、110メートル、100メートルとなっている。ただし、これらの建物の高さは、都市のスカイラインを乱すとして、一部の建築家からは批判されている。
 
 しかし考えてみると、これらの建物がすべて高さ40、50メートルで、低くて幅の広い、太っちょなビルだったら、審美的効果はどうだろうか? 私はよくないと思う。天安門から2キロ以上離れた場所に建つ80メートル以上の建物は、天安門を中心とする都市のスカイラインを壊すことは決してないのだ。
 
 三環路沿いは、100メートルを超す建物が至るところにある。特に東三環路と北三環路には、北京で最も高いオフィスビルが聳えている。こういったオフィスビルのほとんどは立体交差の付近にあるため、美しく整ったラインはまだ描かれていない。しかし、三環路沿いの建物は大部分が30階建て以上なので、周りが高く真ん中が低いという北京のスカイラインは形成されている。北京の市街地は広いため、たとえ150メートル、40階建ての摩天楼でも圧迫感はない。視界が開けていて広いというのが、北京の市街地の視覚的印象だ。
 
 急速に高くなった都市のスカイラインは美しくないという人もいる。それでは、北京はいつの時代が最も美しかったのだろうか。過ぎ去りし時代か?
 
北京には高いビルが雨後の筍のように盛んに建設されている
 1950年代に旧東ドイツ駐中国大使館で働いていた、あるドイツの中国研究者と食事をしたとき、彼は50年代の北京が最も美しかったと言っていた。彼は次のように話した。「空は青く、人々はとても純朴だった。あるとき、東単の胡同(横町)で食事をしたが、そこの料理屋は私に2毛(1毛は1元の10分の1)を返し忘れた。3カ月たって再び行くと、店主は私のことを覚えていて、2毛を返してくれた。当時、北京にはそんなにたくさんの高いビルはなく、60、70年代になってようやく、工場の煙突が現れ始めたのだ。そこで、故宮後方の景山に登って周りを見渡すと、すべてが灰色の瓦の一般住宅で、西郊外にある西山の輪郭もかすかに見え、とてもきれいだった。50年代の北京が最も美しかったよ!」
 
 彼の懐旧に代表されるように、外国人はシカゴや東京、ニューヨークとはまったく違う「老北京」を見たいと思っているようだ。彼らは非常に現代化された都市で暮らしているため、短期間の旅行や訪問の間、北京がきわめて古めかしく、異国情緒を備えた東方の古都であることを希望し、大型のショッピングセンターやガラス張りのオフィス、高速道路を目にしたくないと思っているらしい。
 
 しかし、新しい北京は、周辺に拡大している都市であり、「現代化」の真っ最中だ。都市のスカイラインの起伏は、今後どうなるかわからない。

 

 
 
邱華棟 1969年新疆生まれ。雑誌『青年文学』の執行編集長、北京作家協会理事。16歳から作品を発表。主な著書に長編小説『夏天的禁忌(夏の禁忌)』『夜晩的諾言(夜の約束)』など。他にも中・短編小説、散文、詩歌などを精力的に執筆し、これまでに発表した作品は、合わせて400万字以上に及ぶ。作品の一部は、フランス語、ドイツ語、日本語、 リ国語、英語に翻訳され海外でも出版されている。  
 

 
本社:中国北京西城区車公荘大街3号
人民中国インタ-ネット版に掲載された記事・写真の無断転載を禁じます。