名作のセリフで学ぶ中国語(35)

 

ウィンターソング

(如果・愛)


監督 ピーター・チャン  
2005年 2005年 中国 90分
  11月3日 日本公開

 


あらすじ
 
  香港俳優の林見東は聶文監督のミュージカル映画で、かつての恋人で現在は監督の恋人である中国人女優の孫納と再会するが、今も彼女を忘れられない自分に対して、まるで自分のことを覚えていないかのように振る舞う彼女に深く傷つく。

 10年前、映画監督を目指して北京に留学中の見東は、地方から北京に出てきて三里屯のクラブで踊り子をしている孫納と出会い、貧しいながらも互いの夢を語り合い、励まし合って暮らしていた。だが、見東の同級生がある映画の助監督になったことを知ると、孫納はその友人に近づき、映画出演のチャンスをつかんで見東のもとを去って行く。

 監督の夢破れ、俳優として成功した見東は、孫納と2人で暮らした廃屋を買い取り、2人の思い出をそこに凍結させていた。聶文が撮影にいきづまり、撮影を中止し行方をくらますと、見東は孫納を北京に連れ出し、かつての愛の巣でもう一度愛を確かめようと誘う。しかし、それは見東の孫納に対する復讐だった。

解説

  名作『ラブソング』の感動から10年、かつてレオン・ライとマギー・チャンが演じたのは80年代に夢を抱いて大陸から香港に出稼ぎに来た貧しい若者たち。今回、金城武が演じるのは、90年代に香港から夢を抱いて北京に留学した苦学生。そして、さらにその10年後の現在、香港と中国の合作が当たり前になった映画界の様子が描かれる。『ラブソング』ではテレサ・テンの『甜蜜蜜』が時代を象徴する音楽として効果的に使われていたが、今回は台湾の斉秦の『外面的世界』が使われ、ピーター・チャン監督は、相変わらず細かいディテールでの時代描写が得意だ。

 凍てつくような冬の北京のリアルなシーンの撮影はクリストファー・ドイル、上海の撮影所でのややノスタルジックなシーンはピーター・パウが担当。それぞれのカメラマンの個性を上手く活かした試みも成功している。劇中劇としてミュージカル映画も楽しめ、3人の登場人物がそこでも同じような三角関係を演じ、どこまでが劇中劇で、どこまでが映画の中の現実のストーリーなのか判然としない入れ子構造も面白い。

 「もう年だから、ラブストーリーも素面では撮れないよ。酒気を帯びないとね。ミュージカルというスタイルがつまり酒なのさ。」とは監督の韜晦の弁だが、中国はもとより、香港、台湾でも本当に久々の音楽映画に果敢に挑戦したピーター・チャン監督の心意気を買いたい。

 

見どころ

 『LOVERS』の演技では燃え上がるような恋情をまったく感じられなかった金城武が、珍しく役にのめりこんで熱く演じている。役者には頭の中で計算しつくして、台本をびっしり読みこんで演じる技巧派タイプ(中国では姜文、日本では三国連太郎がこのタイプの代表と私は考える)と、現場の空気を体で感じ、相手役との呼吸が合って初めて役に入りこむことが出来、演技するタイプの二通りがある(日本だったら高倉健)。金城武はまさにその後者で、来日取材でも周迅と共にその辺りの思いを語るのを聞いて、なるほど、今回はこの2人の感受性がぴったりと一致し、上手く化学反応が起こったのだなと感じさせる出来であった。相手役の周迅もまた、中国の女優では珍しく戯劇学院や電影学院で正式な演技の勉強をしたわけではなく、感性で演技するタイプの女優。ただ、彼女の場合は金城武のように天然の素材と言うよりは、天賦の女優の才能と言っていいので、相手役や監督に左右されることなく自分の役の世界にのめりこんで演じられるという逸材でもある。今回も実に、お見事!の一言に尽きる名演だった。

 私が周迅の名を初めて知ったのは、謝晋監督の息子・謝衍が監督した『女児紅』という作品でヒロインの14歳ぐらいの少女時代を演じていた時。まだ幼い表情に怖いような女の色気を感じさせ、すごい子がいるなあと感嘆したものだ。その後、端役ながら陳凱歌の『花の影』や『始皇帝暗殺』で強い印象を残し、それからすぐに映画では第6世代監督のミューズとして、テレビドラマでは李少紅監督の一連の作品によって、瞬く間に中国を代表する女優に成長した。日本ではまだ知名度が低い彼女だが、来年早々にもチャン・ツィイーとまさに“競演”した『夜宴』の日本公開が決まっているので、今後、日本でも注目されるに違いない。

水野衛子 (みずのえいこ)
中国映画字幕翻訳業。1958年東京生まれ。慶応義塾大学文学部文学科中国文学専攻卒。字幕翻訳以外に『中国大女優恋の自白録』(文藝春秋社刊)、『中華電影的中国語』『中華電影的北京語』(いずれもキネマ旬報社刊)などの翻訳・著書がある。

 


 
 













 
   
 

















 
 
 
     
     
     
     
   

 
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