ネットが取り持つ全国周遊の旅
劉暁玲=文

 「互助旅行」という方法で旅行する人たちがいる。これは、インターネットで知り合った仲間が、お互いに泊まる場所や食事を提供しながら、中国各地を旅するというものだ。

 団体旅行や個人旅行では味わうことのできない、魅力的な点も多い「互助旅行」だが、安全面での問題も指摘されている。

ネット仲間と「互助旅行」

   旧暦正月の1日、北京に住む孫紅さんは、バックパックを背負い、広西チワン族自治区の桂林に旅立った。一般の旅行者と違うのは、旅の目的地には、すでに彼女を招待する地元の人がいて、彼女が来るのを待っていることだ。

 孫紅さんは、自分を待ってくれている人と会ったことがない。それは「互助旅行」のホームページで知り合ったネット仲間だからだ。しかし、インターネットを通してのつきあいは、かなり深い。

 彼女のポケットには、600元しか入っていない。これは今回の旅行の交通費で、泊まる所と食事は、ネット仲間が提供する。そのお返しとして、そのネット仲間が北京に遊びに来たときは、孫紅さんから同じようなもてなしを受ける。

 彼女たちが試みているこの方法は、新しいタイプの旅行「互助旅行」であり、今、中国では、この方法で旅行をする人たちが、急速に増えている。

団体旅行にはないメリット

ネット仲間の助けで、昆明に旅行に来た仲一さん(仲一さん提供)

 蘇州に住む25歳の男性、仲一さんは、ネット仲間の助けにより、わずか3500元の費用で、16の省、31の都市や鎮を回った。行く先々では、そこに住んでいるネット仲間の世話になった。仲一さんのネット仲間が蘇州に来れば、彼も食事と宿舎を提供し、ガイドもして親切にもてなす。

 仲一さんが言うには、この方法は、ただ旅行の経費を節約できるだけでなく、従来の団体旅行では味わうこのできない、地元の風土や人情、文化をより一層知ることができるのだそうだ。

 そしてその旅行について書いたのが、『互助旅行―全国周遊』だ。そこには、ネット仲間と互いに援助しながら旅をする様子が綴られている。また、「互助旅行」の交流の場となるホームページ「仲一Trip周遊地球」も開いた。「互助旅行」という言葉は、そこから生まれたものである。

 「私の周りの『互助旅行』の集まりは、すでにたくさんあります。私と『互助旅行』をした仲間は、次々と行動し、それぞれの『互助旅行』を始めています。そしてお互いに助け合いながらの旅を、『全国周遊』と呼んでいるのです」

 「年越しのとき、蘇州に来た広州の仲間を私が接待し、そのあと彼女が杭州に行った時には、同じようなネット仲間が世話をしました。近い将来ますます多くの旅行愛好者は、お互いに助けあい、経済的でしかも個性のあるおしゃれな旅行を好むようになるでしょう」と、仲一さん。

 毎日、少なくとも全国では千人のネット仲間が、「互助旅行」を行っているという。従来の団体旅行に挑戦する「互助旅行」は、その経済性や自主性など、優れた点が多く、ネット仲間の間ではひそかに広がりつつある。

3500元で中国周遊の旅

団体旅行は、多くの人が利用する旅行のひとつである

 「小さいころから父母に連れられ、団体旅行で国内の多くの場所に行きました。南京で大学に通っているときも、同級生と旅行をしていましたが、卒業して仕事につき2年が経ったころ、少し外に出て行って、今の環境や気持ちを変えなければと思いました。ついでに友だちも作りたかったですし、旅行先の文化や、当地のおいしい物も知りたかったのです」と仲一さんは語る。

 仲一さんは、旅行関係のネットサイトに勤めていた。その時、ネット仲間が、割り勘で一緒に旅行しているのを知って考えついたのが、互助方式だ。

 彼はまず、個人のホームページを作り、そこに、他人の助けをかりて旅行したいという考えを発表した。そしてネット仲間に自分を知ってもらうために、自分の様々な情報を書き添えた。

 すぐに、積極的な反応があった。まず彼が行った先は、江蘇省の無錫で、招待してくれたのは、60歳近いネット仲間だった。そしてこれを始まりに、仲一さんの一挙両得の旅が始まる。

 全国の旅は3度で達成した。一度目は5日間の日程で、一つの省の2つの都市を回った。2度目は、23日間で、5つの省の八つの都市。3度目は、72日をかけて、10の省の21の都市を旅した。各都市に滞在した平均日数は3.2日。費用は、汽車、バスなどの交通費2012元と、観光地の入場料507元を合わせて2519元だった。

 旅先の宿と食事は、全てネット仲間の家で済むため、食費と宿泊費は省かれている。旅行の記念品などのお土産代や公共バス、タクシー代などの支出を合わせても、千元かからなかった。そして全ての旅行にかかった経費は、わずか3500元だった。

 「平均すると、毎日30元の出費で、1カ月900元あまりの支出です。中国を周遊している方が、自分の家にいるときより倹約できます」と仲一さんは言う。

「互助旅行」を楽しむ退職した人たち

新しいタイプの旅行として「互助旅行」は、人々の間に広がっている(仲一さん)

 「互助旅行」は、意外なことに若者だけではなく、退職した人たちも利用している。

 蘇州に住む50歳のハンドルネーム「向日葵」さんは、すでに退職している。先月、蘇州のネット仲間と一緒に大連へ行った。大連での食事と宿泊は、全てネットで知り合った人の招待で、まるで親戚の家を回っているような感じだったと彼女は言う。

 大連に10日間滞在した「向日葵」さんは、毎日のように外出し、ほとんどの名所旧跡を見て回った。招待したのは、彼女より少し若い40歳過ぎの女性。インターネットのおかげで、たくさんの友だちができたと言う「向日葵」さんは、今ではその人たちと親戚のようにつきあっている。

 その中に、ハンドルネーム「双子」という、現在蘇州で働いている大連出身のネット仲間がいる。彼女はよく、「向日葵」さんの家にお茶を飲みに来るのだそうだ。

 「向日葵」さんは上海にも、16人のネット仲間がいる。いずれも40歳から50歳の人たちで、よくビデオチャットを通して話をしている。

 その人たちはもともと、蘇州の「阿鳳」さんのネット仲間だった。ある日、「阿鳳」さんは、蘇州に遊びに来るネット仲間を出迎えることになっていたが、当日、体の調子が急に悪くなったため、それを「向日葵」さんと「双子」さんに頼んだ。総勢16人の一行は、車三台に分乗し、蘇州を一日観光し、食事をして楽しんだ。

 「互助旅行」は、相当広くネット仲間や大学生の中で流行し始めている。ある人は、「互助旅行」が団体旅行や個人旅行に次ぐ3つ目の旅行になる、と明言するほどである。

必要なのはお互いの信用

 47歳の薛寒さんは言う。

 「『互助旅行』の道中は、一人旅のように見えますが、実際は定められた範囲の集団活動です。招待する者と招待される者のほかにも、その他多くの人が『互助旅行』に関心を寄せ、サポートしています。旅行の日程などを明らかにしてこそ、個人の信用を積み重ねることができ、誠実な対応は、絶えず友だちの輪を広げていくことになります。また『互助旅行』は、オープンなものなので、比較的安全で、招く者も招かれる者も、ともに安心感があります」

 「互助旅行」の最も大切な前提は、お互いの信用だ。援助を得たいのであれば、まずほかの人の信用を得ることが必要になる。そのためには、まず十分な自己紹介を準備し、日常生活に関するすべての情報を公表してネット仲間と交流する。それはある意味、ネット上で自分をさらけ出すことでもある。そうすれば、お互いに会ったことがなくても、ネット仲間に自分を信頼してもらうことができる。

 同じように、招いてくれる相手のこともできるだけ多くネットで理解し、時には、オンライン上でリアルタイムにコミュニケーションできるチャットなどで、お互いに「会う」ことが必要だ。

安心して旅行するために

旅行の最盛期になると、全国各地から観光客が名所旧跡に殺到する

 「互助旅行」を利用する人たちが最もよく用いる安全確保の方法は、ネット仲間に、自分の旅行の行程を細かく公表し、多くの人に自分がどこにいるのか、誰と一緒なのかを知ってもらうことである。

 仲一さんは、毎回旅行の日程を決めると、まず自分のホームページにそれを公表する。また、旅行に出た後は、自分の行き先や行動などを毎日、ショートメールや電話で家族や友達に知らせ、仲一さんが世話になる家庭の連絡先は、家族や友だち、ネット仲間があらかじめ記録し、仲一さんが行く前に連絡ができるようにしておく。安全のためであり、だまされないためでもある。

 北京に住む27歳の潘敬平さんは、去年の9月、ネット仲間の招待で青海省とチベット自治区に行った。旅の安全は常に人々の関心の的だと彼はいうが、ネットで知り合うことには、はっきりしない部分も多い。彼は、「互助旅行」はこれから2、3年のうちに、比較的固定された小さな範囲に限られるだろうと考えている。

 多くのネット仲間が考える最も理想的な「互助旅行」とは、安定したインターネットのコミュニティーに基づくものである。例えば、知名度が高いフォーラムなどで、長いつきあいがあり、友情も比較的安定しているネット仲間の間で、このような旅行は成り立つ。相手のことをネット上ですでに知り尽くしているからである。

衛生面の安全

 自分の判断に頼るしかないというのは、衛生面の安全だ。ホテルに泊まっても同じ問題は存在している。

 ある「互助旅行」の愛好者は、ネットの自己紹介の欄に、卒業した学校、勤め先、日常生活の写真、卒業証書、身分証や献血証などを公表している。しかし、健康状況や病歴はそこには書かれていない。

 筆者はインターネットで、招いたネット仲間が家に泊まったとき、伝染病にかかったことがあるか尋ねるかという質問をしてみた。返ってきたのは、「考えすぎですよ。そこまで考えたら、ずっと家にいなきゃいけない。旅行に行くのは、そりゃ、家にいるよりもリスクは伴います」という嘲笑に満ちた言葉だった。

 上記の言葉からは、ネット仲間の往来が、単純で手軽であることが窺われる。お互いを信用している度合いは、現実に生活している普通の人への信用より高い。

 現在、「互助旅行」は、関係部門の関心を引いており、それに関連する管理規定が検討されているところである。これは「互助旅行」に、一定の安全を保障するものになるかもしれない。


 
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