名作のセリフで学ぶ中国語(40)

 

天下無賊

 

監督 馮小剛(フォン・シャオガン)
2004年 中国 120分 4月下旬日本公開

 


あらすじ

 中国全土を股にかけて荒稼ぎするスリかつ詐欺師のカップルの王薄と王麗。王薄の子を妊娠したことに気づいた王麗は生まれてくる子どものために足を洗う決意をし、西域で偶然出会った人の良い寺大工の青年サ根が長年かけて貯めた6万元を汽車で故郷に持ち帰ることを知り、彼を守ろうとする。

 一方、同じ列車には窃盗集団が乗り合わせており、蛇の道は蛇、王らと窃盗集団の一味とはすぐに互いが同業者であると気づく。初めは何とかしてサ根の金を掠めようとしていた王薄も、サ根の金を虎視眈々と狙う一味からサ根を守る羽目になり、一味のメンバーと暗闘を繰り広げる。王薄の才を惜しんだ一味の頭目は、サ根の金をどちらが先に巻き上げるかを賭けようといい、負けたら手下になれともちかける。

 勝負がついたかと思われた時、列車ジャックが起こり、実は列車に張り込んでいた私服の警官たちが、列車強盗も窃盗集団も王らも一網打尽にお縄にしてしまう。観念したと見せかけ、次の駅に着くまでの間に、警察の目をすり抜け見事脱出した王たちは、同じく警官の見張りから脱け出してきた一味の頭目が車両の天井裏からサ根の金をまんまと盗み出したのを発見。王薄は王麗を先に逃がし、頭目と死闘を繰り広げて致命傷を負うも、やっとの思いで金をサ根のもとに返して死んでいく。

解説

 馮小剛の最後のお正月映画(?)がようやく日本公開になる。舞台のほとんどが列車の中という閉ざされた空間で次々に繰り広げられるあの手この手の盗みの手口が楽しい。走る列車を舞台にした活劇やサスペンスはハリウッド映画の常套だが、それを向こうに回して、なおかつ、アメリカの列車サスペンス物に欠けている中国大陸ユーモアもたっぷりと効かせて、見事な痛快娯楽活劇に仕上がっている。

 馮小剛のコメディはストーリーよりも言葉のユーモアに頼っていた嫌いがあるが、もちろん、それはそれでとても面白いのだが、この作品は今までで一番プロットがよく練られた脚本ではないだろうか。

 もちろん、相変わらずの口八丁な登場人物たちも健在でおなじみの言葉のユーモアも楽しめるのだから言うことない。

 また、以前の馮小剛作品では登場人物がせいぜい数人という限られた人間関係の中での話だったのが、今回は大勢の人物が登場し、それでいて人間関係も大変分かりやすく、それぞれの役割や個性もきっちりと描き分けられていて、観客が混乱することはまったくない。ほとんど文句のつけようのない出来栄えだと思う。

 最後のオチが、ちょっとお涙頂戴の人情噺になっているのは好みの分かれるところだろうが、お正月映画なので、これはこれでよいのではと私は思う。

 『天下無賊』というタイトルと泥棒ばかりの列車というのが現代中国社会への強烈な諷刺とも受け取れて笑える。この作品を見て、中国にもようやく本当の娯楽映画が生まれたなと感慨深かったので、その後の馮小剛の路線変更は個人的には非常に残念だ。

 シリアス物を撮り飽きたら、また是非この路線に戻ってきて欲しいものだ。

 
 

見どころ

 主演に香港のアンディ・ラウと台湾のレネ・リウを置き、その周りを大陸の個性豊かな面々で固めたキャスティングが実に心憎い。アンディとレネ・リウも確かに好演はしているが、見れば見るほど大陸の役者の芸達者ぶりとその層の厚さに唸ってしまう。これは思うに、港台の俳優は観客動員力はあるが、演技はどんなに頑張っても大陸の俳優には及ばないという事実を見せつけるための用意周到な陰謀なのではないだろうか。

 まるでコスプレのように次々と髪型や扮装を変えて登場する悪女役の李冰冰は本当にキュートで魅力全開だし、今の中国にこんな善人がいるかあ?と思わせるサ根役の王宝強の、演技なのか地なのか不明な朴訥さも良い。コメディアンの范偉演じる、ちょっと足りない列車強盗とアンディのやりとりに乗客が恐怖を忘れて笑い転げるところなど、まるで春節晩会のコントをそのまま見ているようだし、脇を固める中国映画ではお馴染みの渋い演技派俳優たちも、尤勇といい、馮遠征といい、今までの自分たちの役どころとはガラリと違う役を生き生きと楽しそうに演じている。

 準主役に回った葛優も見事に主役のアンディとの演技合戦に競り勝っているし、馮小剛映画お馴染みの徐帆と傅彪も冒頭で成金夫婦を余裕で演じてみせて、馮氏映画の固定客を失望させることはない。傅彪はこの作品が遺作となったのではなかっただろうか。実に惜しい俳優を亡くしたと思う。改めて冥福を祈りたい。

水野衛子 (みずのえいこ)
中国映画字幕翻訳業。1958年東京生まれ。慶応義塾大学文学部文学科中国文学専攻卒。字幕翻訳以外に『中国大女優恋の自白録』(文藝春秋社刊)、『中華電影的中国語』『中華電影的北京語』(いずれもキネマ旬報社刊)などの翻訳・著書がある。

 


 
 













 
   
 

















 
 
 
     
     
     
     
   

 
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