中国の働く女性の喜びと憂い
                         高原 張春侠 侯若虹=文 馮進=写真

 毛沢東主席の「女性が天の半分を支える」という言葉から「半辺天」と呼ばれ、男性と伍して奮闘し、中国社会を支えてきた中国の女性たち。女性も生涯働くことが前提の社会では、誰もが同じような条件の中で、競争をさほど意識することなく守られていた部分も多かった。

 近年の急速な経済発展に伴い、ワーキングスタイルやライフスタイルも多様化し、中国の働く女性たちはかつては考えもしなかった悩みや苦労を抱えるようになった。男性と同様、熾烈な競争にさらされながら、結婚に逡巡し、仕事への情熱といい奥さん・いいお母さんでありたいと願う思いの中で葛藤するのは、日本の働く女性たちと変わらない現実である。

 キャリアアップのための転職、資格取得、シングルライフ、別居婚など、新時代のワーキングウーマンのケーススタディーを通じて、中国の女性たちの生き方をレポートする。


特集1          女性それぞれのストーリー
 

尹傑さん(34歳) 生活をもっと豊かで多彩に

友人と野外調査に出かけた尹杰傑さん(左から2人目・本人提供)

 今年34歳の尹傑さんは、重慶から北京にやってきた。1990年に清華大学の精密儀器・機械学学部に合格、さらに「ニュース編集学」も学んだ。学生生活の話になると、尹さんは自分を「不良学生」だったと笑う。「他の人たちはみんな必死で勉強しているのに、私はひたすら恋愛していたの。けれどしっかり収穫はありました。夫も含め、3つの『学位』を手に入れましたから」

 96年に卒業すると、尹さんは老舗の雑誌社で編集者として働き始めた。その5年後には、娘が生まれた。娘の誕生はまったく思いがけないことだったという。「本当のところ、私たち二人ともこんなに早く子供をつくるつもりはなかったの。まだ遊び足りないと思っていたから」産休を終えて職場復帰すると、尹さんは気づいた。この約半年、職場は何一つ変わっていない。誰もが相変わらず大同小異のルーティンワークを繰り返している。彼女の心は激しく揺れた。今後数十年にわたって、ここにいるベテランの同僚たちのような生活を、自分も送るというのだろうか。 尹さんは現状に甘んじることなく、新鮮さを追求し、骨身を惜しまず働くことを望んだ。そして、『中国国家地理』雑誌社に転職した。

尹杰傑さんの両親は子供の面倒を見るため、わざわざ重慶から北京に来てくれた

 この雑誌は専門性が高く、火山や考古などこれまで接したことのないテーマに関わることもあった。そのため、尹さんはいつもたくさんの資料に目を通し、大量の専門書を読み、専門家たちと交流する。まるでぜんまい仕掛けの時計のように、一刻も休まず取材、原稿依頼、編集の仕事に追われ、12時近くまで残業することも頻繁になった。仕方なく家に仕事を持ち帰ることもあったし、家族と一緒に食事できるのは週に一度だけということもあった。尹さんは夢中で疲れも知らず、一つ一つの仕事が勉強だと思い、これまでにない充実感に満たされた。

 仕事以外では、夫や友人たちと、雲南省のシャングリラや青海省及び国外のネパールなどたくさんの場所に山登りに行った。5000メートル級の山にも、4つ5つ登った。さらに「長城ステーション」という環境保護組織に参加して、友人たちと一緒に未修復の昔のままの長城を踏査し、環境保護知識の普及に励んでいる。

聡明でたくましい尹傑さんは、子供の教育に忍耐強く、丁寧に向き合う

 尹さんは仕事やそのほかの活動が忙しく、家の中のことに対してはやりたいという思いはありつつも、力が及ばないでいる。幸い両親が、彼女の仕事を積極的にサポートしてくれる。母は5年繰り上げて早期退職し、父と一緒に北京にやってきて、孫娘の面倒を見てくれている。二人は幼稚園の園長と園長の助手のようなものだと尹さんは笑う。「両親が子供を見ていてくれるので、安心です。でも、子供のために毎週末一日は時間をつくって、一緒に山登りに行きます。最近は、一緒にバレエを習い始め、クラスメートになりました」

 尹さんのような女性にとって、人生の生き甲斐は家族の世話をし、子供を育てることだけではない。彼女たちの視野はさらに広く、家庭の外ですばらしい人生を見つけている。多くの働く女性が必ずしも尹傑さんのように順調で、成功しているわけではないかもしれないが、みな新鮮さを追求し、豊富で多彩な生活を望んでいるのは同じである。

「参考データ」 働く女性アンケート 
出典:社会科学文献出版社『2006年中国女性生活状況報告』(北京、上海、広州、長沙、成都、南寧、ハルビン、西安の8都市をカバーした調査による)

仕事
仕事の満足度(%)
学歴
とても満足している
比較的満足している
ふつう
不満
院卒以上
11.8
51.0
37.3
0.0
大卒
11.0
49.0
35.9
4.1
大学程度の専科学校卒
6.9
47.8
40.1
5.1
高卒および高専
5.6
42.4
43.6
8.4
中卒およびそれ以下
20.3
50.6
22.8
6.4
仕事のプレッシャー(%)
年齢
大きい
比較的大きい
ふつう
プレッシャーはない
51−60歳
5.7
35.0
48.0
11.4
41−50歳
8.2
31.5
51.4
8.9
31−40歳
8.7
38.6
48.1
4.6
20−30歳
6.7
35.8
52.1
5.4
プレッシャーの原因(%)
能力不足
熾烈な競争
出世が
難しい
人間関係
能力が発揮できない
忙しすぎる
給料が
低い
職場に未来がない
出世の余地がない
その他
6.3
16.9
7.1
10.1
7.8
25.8
14.7
4.1
4.4
2.6

曹蘇娟さん(38歳) 「女もつらいよ」仕事も家庭も全力投球

朝になると、曹蘇娟さんはまず子供を送ってゆく

 尹傑さんと比べると、今年38歳の曹蘇娟さんにはそこまでのこだわりはない。彼女は1988年に北京市衛生学校を卒業後、北京市第一社会福利院看護部に配属されて働くことになった。

 2004年9月、曹蘇娟さんは福利院の保養エリアの主任を負かされた。ここで受け入れているのは、身体が基本的に健康で、自分で生活することができる高齢者だ。曹さんと同僚たちは高齢者の日常生活の世話をするほか、彼らとおしゃべりをしたり、合唱団や書道グループを組織したりして、高齢者たちの生活を豊かにしている。仕事が忙しく、曹さんはたびたび夜9時頃まで残業しなければならず、時には夜勤もある。それでも、彼女はこの仕事が大好きであるし、とりわけ高齢者たちの満足そうな笑顔を見ると、自分の苦労は無駄ではないと思えるのだった。

夕飯を食べ終わると、曹蘇娟さんは子供の授業の復習を手伝う

 曹さんも夫も北京生まれだ。子供が小さいときには、両親が子供を見るのを手伝ってくれたので、子育てが大変だとは思わなかった。やがて2歳になった娘が幼稚園に通い始めると、彼女は毎日送り迎えをし、さらに放課後や週末には揚琴(洋琴)の稽古や英語教室にも連れて行かなくてはならなくなかった。曹さんの夫は保険会社に勤務していて、いつも10時近くまで残業している。そのため、あらゆる家事がすべて曹さんの身に降りかかってくる。特に姑が半身不随で寝たきりになってしまってからは、病が重くなるたびに、曹さんと夫は交代で休みをとって世話をした。彼女自ら注射や点滴もした。曹さんは夫に冗談で言うことがある。「私って、給料まで持ってくるメイドさんよね」

 2004年、曹さん一家は市の北部の郊外へ引っ越した。市内から離れているうえ、道路はいつも渋滞するため、一家3人は毎朝6時過ぎには自家用車で出発したが、それでも遅刻することさえあった。午後仕事が終わると、曹さんはバスで30分ほどの道のりを娘を迎えにいき、そこからさらにバスで1時間あまりかけて家まで帰る。家に帰ると、急いで夕飯の支度をし、娘に揚琴の練習をさせる。料理をしながら娘に課題を書かせるときもある。そんなこんなで、夕飯を食べ終わるのはいつも9時近くになってしまう。

度々老人たちを組織してさまざまな娯楽イベントを行い、老人たちに喜ばれている

 週末ものんびりしてはいられない。彼女はこの数年余暇を利用して看護の専科学校に通っている。そのため、土曜日も普段と同じように朝6時すぎには家を出て、バスで一時間あまりかけて学校に行き、朝8時から午後4時まで授業を受ける。日曜日には娘をダンス教室につれて行き、帰宅したら授業の復習もする。こうした苦労を、曹さんはなんとも思っていない。「競争が激しいので、みんな『充電』、つまり技術や知識を身につけるための勉強に大忙しなんです。私なんてまだいい方です。子供連れで授業を受けている人もいるくらいですから」

 苦労の甲斐あって、曹さんは順調に看護の学校の卒業証書を手にすることができた。一年あまりのちには市内に家を買い、一日中あちこちを走り回る日々はようやく終わった。現在、曹さんは非常に満足している。「私にとって、仕事も家庭もどちらもとても大切です。仕事がうまくいって、家庭が円満であれば、もっともっと苦しかったとしても、それだけの価値はあると思います」。曹さんが口にした言葉は、大多数の働く女性の本音だろう。彼女たちにとって、仕事も家庭もどちらも欠かせないものである。彼女たちは、何が何でも良き職員であり、良き妻であり、良き母でなくてはならないと考えている。彼女たちの背負っているものが男性以上にずっしりと重いプレッシャーとなり、彼女たちのたくましさを見せてくれるのである。

孫夢佳さん(25歳)  自由なシングルライフをエンジョイ

プライベートライフ
毎日家事をする時間
 
家事をする
時間(分)
自分の好きなことをする
時間(分)
未婚
71.49
116.00
既婚
89.28
97.56
過去3カ月以内のキャリアアップのための「充電」
年齢
(%)
20−30歳
66.9
31−40歳
55.7
41−50歳
46.4
51−60歳
36.1
文化的娯楽活動(%)
年齢
(%)
   職場のイベントに参加
27.1
   地域のイベントに参加
12.0
   家でDVDやテレビを見る
38.5
   演劇やコンサートを見に行く 
7.7
   映画館へ行く
10.1
   スポーツのライブ観戦
4.7

 北京師範大学日本語学科を卒業した孫夢佳さんは、卒業後三菱商事に勤務して3年になる。普段の仕事は事務的な業務で、一日中グラフや表、文書を作成しているため、「表姐(本来は従姉の意味だが、グラフや表を作成するグラフ・ガールという意味をかけた呼び方)」とからかわれている。

 「表姐」の普段の生活はシンプルだ。独身なので、ずっと両親と一緒に暮らしている。友だちは皆お金を貯めて家を出たがっているが、彼女にはその気持ちがどうにも理解できない。彼女曰く、普段は仕事が忙しくて、外食ばかり。実家にいれば、週末は一日中寝ていられるし、ご飯をつくってもらえるし、子供の延長のような生活は、とても幸せだというのである。

 けれど、彼女にも悩みはある。たとえば結婚という大問題。彼女の父はいつも心配そうに口にする。「女の子はやはり若いうちに落ち着き先を見つけたほうがいい。27、8になったら価値が下がるんだから」

孫夢佳さんはプライベートの時間を利用して、北京の「横竪日本語学校」で教えている

 孫さん自身は「パートナー」を探すことを焦ってはいない。友だちに「どんな彼氏が欲しいの?」と聞かれると、少し考えてから「いたってシンプルよ。ダサくなくて、鬱陶しくなくて、変わり者でなければいいわ」と答える。しかし、理想の高い孫さんがダサくない、鬱陶しくないと思う相手は、かなりの教養と頭脳の持ち主でなくてはならないはずだ。現在、中国においていわゆる「甲女丁男(容貌の美しいエリート女性と、条件の悪い男性)」という言い方があるが、それはすなわち、女性は自分より優れた相手を望むため、いつも優秀な女性とレベルの低い男性が独身であるということを指す。

 新たな恋愛が始まるまで、孫さんはハッピーなシングルライフをエンジョイしている。今の彼女には、スポーツや娯楽を楽しむお金も時間もたっぷりある。普段から、仕事が終われば同僚や友だちと一緒にバドミントンをしたり、演劇の舞台を見たり、バーで明け方近くまで遊んだりする。「家に帰って家事をしなければ」「夫が一人でさびしがっているのでは」、といった心配をする必要もない。

孫夢佳さんの、自分だけの世界

 普段、孫さんと一緒に遊んでいるのも、皆独身の若い人ばかりだ。まるで揃って約束しあったかのように、とりあえず恋愛はせず、学生時代のような純粋な友情関係を続けてゆく。

 このごろの若い人たちはみな孫さんと同じように、仕事を持ち、気ままに生活し、必ずしも結婚に進むことを焦ってはいない。もっと自由で、シンプルなシングルライフをエンジョイしたいとさえ思っている。けれど、独身の仲間の中から結婚に踏み込む人が出たとたん、たちまちグループはバラバラになってしまい、遅れまいと先を争って「仕事」か「家庭」に飛び込んでゆく。

テキ雁さん(47歳) 互いに独立した生活が理想の結婚

夫は妻のテキ雁さん(左)の、仕事優先で家のことを構わない行動に憤る

 47歳のテキ雁さんは北京市内の西部に部屋を借りている。もともと彼女は市の東部に部屋がある。けれど夫の李徳彬さんは一年の半分は廈門で仕事しており、彼女自身の仕事も娘の学校の場所も市の西部にあるため、通勤通学の便利を考えてこの部屋を借りた。これに対して、夫は電話で文句を言った。「俺はどっちに帰ればいいんだ? 今、いったいどこが家なんだ?」テキさんの家で、度々問題になることである。

 テキさんは豊富なキャリアがある。軍隊にいたこともあるし、小児科の医師だったこともある。現在はあるNGO(非政府組織)で働いており、給料は少ないが、非常に充実していると感じている。夫の李さんはエンジニア。お互いに再婚同士の二人は、結婚したときから別居生活を送り、財産も別々で、名実共に割り勘夫婦である。

 彼らの夫婦関係はあまりに疎遠すぎるのではないかと、テキさんのかわりに多くの友人たちは心配している。けれどテキ雁さんは、結婚が自分の生活に占める割合は15%程度で、より仕事を重視しているという。結婚への期待はそれほど大きくなく、依存心も強くないので、比較的容易に満足することもできる。現在の結婚に、彼女は90点という点数をつける。

 しかし、テキさんの夫は現状には不満だ。農村出身で、非常に保守的な考えの持ち主の彼は、結婚に抱く期待感も大きい。女性はお金を稼がなくてもかまわないから、家族の世話をすべきだと考えている。家のこともせず、仕事だけに追われる女性を、彼は受け入れることができない。普段から妻は何事もあまり行き届かず、彼のズボンに穴が開いていても、それに気がつくこともなければ繕うこともない。その結果同僚に指摘された彼は、家に帰ると大声でわめくのだった。「そら見ろ!女房のせいだ!」

テキ雁さんはひたすら読書に夢中で、夫の出張にもまったく無関心

 テキさんの家ではまた、「食器を飼う」という新しい言葉も登場した。テキさんは食事の支度はするが、後片付けは夫に頼む。けれど夫は皿洗いを嫌がり、たびたび食器を水につけたまま、まるで金魚を飼っているかのように、水は毎日取り替えるものの何があっても洗わない。一般的に、中国人の夫たちはみな妻を助けて家事をするのを楽しみ、それが妻に心意気を示すということだと考えている。李さんのような行動は、いくらか妻に腹を立てているということを示す意味を持っているのだろう。

 テキさんは、かつて夫の了解をとりつけていた。「私の仕事は今まさに創業期だから、家事との両立は難しいし、いいかげんな返事もできないの。だから数年時間をちょうだい。この何年か必死で仕事をがんばって、基礎がきちんと固まったら、私も落ち着いてもっと家のことができるようになるから」。けれど夫はその言葉を信じることができず、期待もしていなかった。

 夫はテキさんの仕事の忙しさや、家事がおろそかになることを認めてはいなくても、行動では彼女をサポートしている。例えば地方へ出張に行く前には、家計の足しにといって、自分の給料の口座のキャッシュカードを彼女に渡す。受身であろうが仕方なしであろうが、客観的にはやはりサポートしているのである。

 中国の女性が皆必ずしも彼女のように極端に仕事熱心であるというわけではないが、彼女たちが直面している問題は似たようなものである。働く女性にとって、仕事は社会的地位と職業だけでなく、強烈なひとり立ちへの欲求ももたらす。彼女たちは夫の経済的なサポートには依存せず、夫が家庭生活において自分に依存することを喜ばない。彼女たちにとって理想の結婚とは、お互いを尊重し、互いに独立した二人が生活するというものなのだ。「男は外で、女は内」という保守的な観念を抱いている夫たちには、よりいっそうの理解とサポートが求められている。

 

 
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