「民生」がキーワード 今年の全人代と政協
王浩 馮進=文・写真

第10期全人代の記者会見で、質問に答える温家宝総理
 今年の「両会」(全国人民代表大会と政治協商会議)のキーワードの一つは、「民生」であった。

 3月に開催された第10期全人代第5回会議で温家宝総理は、『政府活動報告』(以下、『報告』と略す)で「社会発展の促進と民生問題の解決に力点を置く」と述べ、注目を集めた。農民の生活や子どもの教育、医療、都市と農村の最低生活保障など、速い経済発展の中にある「少なからぬ矛盾」に、政府が正面から取り組む姿勢が示されたからである。

     農業税を廃止し、農民を豊かに

 農民問題は当面、中国でもっとも注目されている問題のひとつである。今年の「両会」では、いかにして農民の生活を好転させるかが、全人代代表や政協委員の関心を集めた。

 遼寧省鳳城市大梨樹村からきた毛豊美さんは、全人代代表に3回選ばれている。彼は上京して全人代に出席するたびに、「三農」(農業、農村、農民)問題について意見を言い、提案してきた。この数年で、彼の提案は全部で160件以上になった。どれも、農民の生活と関連がある。

3月5日、人民大会堂で開幕した第10期全人代第5回会議
 今回の政協の統計によると、政協委員の提案の中で、経済建設に関するものは1938件。その中で「三農」問題に関するものは535件あり、もっとも多かった。

 中国は農業大国である。農業人口は、全人口の6割以上を占めている。改革・開放以来、中国の経済は急速に発展したが、都市と農村の「二元的な体制」の影響を受け、経済成長とともに都市と農村の格差と地域間格差が日増しに顕在化してきた。

 温家宝総理は『報告』の中で「我々はまた、経済・社会の発展になお少なからぬ矛盾と問題が存在し、政府の活動にも一部欠点や不備な点があることを冷静に見て取っている」と、率直に認めた。

 しかし近年、中国政府は各種の農民優遇政策をとり、農民の収入は増加した。2006年、中国政府は農業税と農業特産税を廃止した。その他、政府は食糧生産農家に対し、直接的な補助や優良品種作付け補助、農機具購入の補助など多くの補助金を増やしてきた。

遼寧省からきた政協の聞大中委員は「今後も引き続き、農民問題に注目し、一部の措置の実施を監督してゆく」と述べた
 内蒙古自治区赤峰市の人民代表の趙慧さんはこう述べている。

 「内蒙古の農牧民は2006年、農業、教育などの面で10項目に達する補助を受けました。こうした補助は、金額こそ大きくありませんが、農民から金を徴収し、税金を取り立ててきたこれまでと違い、政府がこうした農民優遇策を打ち出したのは、まさに歴史的な変化です。農民の負担は軽くなりました」

 実際、免税や補助などの政策は、農民たちに実益をもたらしている。新華社の報道によると、寧夏回族自治区の食糧生産農家の馬海福さん(58歳)は「我が家は一家6人で、42ムー(1ムーは6.667アール)の農地を耕していますが、農業税の廃止後、食糧生産に対する補助があり、1ムー当たりの純収益が年間千元以上になりました。おかげで数年前に比べ、収入は20%近く増加しました」と言っている。

農村の子どもすべてを学校に

 マンマツァイラン君は、甘粛省甘南チベット族自治州夏河県の小学3年生である。3月6日、彼は先生の指導の下、無償で渡された新しい国語の教科書を手に持って、第一課の「凧揚げ」を朗読した。2006年に、彼の住む甘南チベット族自治州の11万人以上の義務教育段階の小中学生が、学費と雑費がすべて免除され、6656人の貧困家庭の児童・生徒が、無償で教科書を受け取った。

「両会」で、外国人記者たちは中国の少数民族地区の発展と変化に、大いに興味を持った
 中国の農村で、義務教育段階の小中学生の学費と雑費を免除することは、2007年から始まった新しい政策である。1億5000万の小中学生が受益し、一部の農村の貧困家庭の子どもたちが無償で教科書をもらい、寄宿生の生活費用の補助を受けることができるようになった。

 温家宝総理は『報告』の中で「すべての児童が学校に通え、きちんと学べるようにする、という目標は必ず実現されるであろう」と述べた。この言葉は、すべての子どもと親たちの心に響いたことだろう。

 「両会」が開催されていた3月7日、北京市は、女子の大学生を対象にした特別の就職説明会を開いた。800余の求人先に対し6000人以上の女子学生が集まった。就職説明会の現場はものすごい人出で、「教育と就職の間にこんなにも矛盾があるのか」と人々をうならせた。

 この問題に対し温家宝総理は『報告』の中で「教育は国の発展の礎石である」「中等職業教育の発展に重点を置き、都市・農村をカバーする職業教育と研修ネットワークの健全化をはかる」と述べた。そのうえで、教育の発展と公平を促進する二つの重要な措置をとる、と言明した。

「両会」の取材に参加して質問する記者たち
 それは@2007年に国は、中央財政から95億元を出し、国の奨学金、学業助成金の制度を確立する。2008年にはそれを200億元に増やすA師範大学師範学部の学生の学費を免除する――というものである。 安心して医者にかかれるように  長い間、「病気を診てもらうのも大変だが、病気を診てもらうと費用が大変」という事態がずっと続き、困った問題の一つとなってきた。高い薬価と治療費は人々をしり込みさせる。病気にかかれば貧乏になってしまうのだ。

 都市の医療保険改革案はいくたびか手直しされたが、依然、表舞台には出ていない。このため、今度の「両会」では、医療衛生業界の人民代表と政協委員たちがメディアの注目の的となった。高強・衛生部長の話では、都市の医療改革案は多くの部局が参与するので遅れているが、2007年中には打ち出され、新しい案は人々の切実な利益に、より配慮したものになるだろうという。

全人代を取材するデンマークの通信社のカメラマン(中央)
 都市の医療体制改革に比べ、新しいタイプの農村合作医療制度の発展は比較的順調である。これは、国、地方、個人の三者が共同で出資する医療保険制度だ。農民一人一人は毎年10元を納めれば、大病しても一定額を支払うだけで済む医療保険を受けることができる。

 2003年にこれが始まって以来、新しいタイプの合作医療制度が実施されている範囲はすでに1451の県に広がり、4億1000万の農民が受益している。温家宝総理は『報告』の中で「中央財政は補助金を101億元計上し、前年度より58億元増やした」と述べた。 低所得者に安い賃貸住宅を  遼寧省撫順市は、露天掘りの炭鉱で有名である。79歳になる退職した炭鉱労働者の王文章さんは、撫順市のバラック住宅区に住んで50年になる。バラック住宅は、炭鉱の一部の労働者が、炭鉱の近くに建てた臨時の建築である。

 「以前は一家6人で25平米にも足らないバラックに住んでいた。冬はどこからでも風が吹き込んできて、外で大風が吹くと部屋の中は石炭の灰でいっぱいになった。雨が降れば部屋中、雨漏りで川になるほどだった」と王さんは言う。

西安市の朱靖華さんは、安い賃貸住宅の鍵を手に入れた
 王さんと奥さんにとっては、生涯最大の望みは、雨漏りしない家に住むことだった。そして昨年、王さんはついに新しく建てられた安い家賃の家に引っ越すことができた。家の広さは10平米しか増えなかったが、新しい家は快適で明るく、風雨の心配がまったくない。

 経済の速い発展に伴って、住宅価格の値上がりもますますひどくなっている。あっという間に立ち上がる高層ビルを見上げて、住宅難に喘ぐ都市の住民はため息をつくばかりだ。このため各地の政府はこの数年、「低価格賃貸住宅制度」を打ち出した。これは、都市の低所得の人々の住宅難を解決する政策である。

 2006年末までに、中国の600以上の都市のうち大多数は、「低価格賃貸住宅制度」を打ち建てた。政府は、2007年中に、全国のすべての都市と県、鎮でこの制度を実施するよう希望している。王さんのように、政府の優遇政策によって居住の条件を改善できる家庭はきっとますます多くなることだろう。

合作医療制度に加入した江蘇省大豊市の農民が、病院で健康診断を受けた
 『報告』の中で温家宝総理は「不動産業は広範な大衆向けの一般分譲住宅を重点的に発展させるべきである。政府は低所得家庭の住宅問題に特段の配慮を払ったうえで、その解決に向けて援助の手を差しのべなければならない」と述べた。 最低生活保障の確立を  「都市・農村の社会救済体系の健全化をはかる」「全国の都市・農村における最低生活保障制度を確立する。これは社会の公平を促進し、調和のとれた社会を構築するうえで重要かつ深遠な意義を持つものである」――温家宝総理は『報告』の中でこう述べている。

 政協のグループ討議の中で、広東省から参加した一人の政協委員は「政府が最低生活保障制度を都市から農村にまで広げようとしているのは、本当に素晴らしいことだ。政府は資金的にさらにこれを支持し、困っている人々が中央財政の援助を受けられるようにすべきだ」と主張した。

一部の地方政府は、助け合いのスーパーを開設し、都市の最低生活保障を受けている市民に、廉価で良い生活用品を提供している
 中国はすでに、都市の最低生活保障を実施したが、今年はさらに、最低生活保障の金額を引き上げるとともに、農村を最低生活保障の範疇に入れようとしている。

 実は、経済の発達した沿海地域にある一部の省ではすでに、農村で最低生活保障制度を打ち建てている。浙江省の呂祖善省長によると、浙江省の農村の最低生活保障は1998年に打ち建てられた。

 また2003年に浙江省は、都市と農村での新しいタイプの救助システムを打ち建てようとしている。全省の都市と農村の独居老人を集めて養うことにし、すでに97%の独居老人が集められて介護されている。浙江省はこの問題で、すでに全国のトップクラスを走っていると言える。

 
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