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日本貿易振興機構企画部事業推進主幹 江原 規由
 
 

海へ、空へ、新たに広がる発展空間


 
   
 
江原規由 1950年生まれ。1975年、東京外国語大学卒業、日本貿易振興会(ジェトロ)に入る。香港大学研修、日中経済協会、ジェトロ・バンコクセンター駐在などを経て、1993年、ジェトロ大連事務所を設立、初代所長に就任。1998年、大連市名誉市民を授与される。ジェトロ海外調査部中国・北アジアチームリーダー。2001年11月から、ジェトロ北京センター所長。
 
 

 これまでの中国経済の成長を支えてきた舞台は「大陸」が主役であったといえます。今後は、中国企業の海外展開が進展することなどから、成長の軸足がこれまで以上に「海外」に移って行くでしょう。同時に、成長を支える新たな空間に期待が集まってきています。「海」と「空」です。

「海洋経済」の発展に向けた戦略

 最近、「海洋経済」という言葉が目立つようになりました。中国は「大陸国家」であると同時に「海洋大国」でもあります。

 今年、中国は初めて海洋生産総額を公表、昨年の海洋生産総額がGDPの10%強の2兆1000億元で、経済成長率(10.7%)を3.3ポイント上回ったことを明らかにしました。

 その大半が海洋産業(注1)の生産総額(1兆8400億元)で、海水養殖、海洋天然ガス、製塩は生産量で世界1位、造船業は世界3位、商船保有量は世界5位、港湾数や貨物の呑吐能力、沿海観光は世界のトップ水準にあるとされます。

 水産品輸出額で全国の7分の1を占める山東省煙台は、「藍色牧場」を標榜し、今後は海洋資源の開発、海洋製薬業、沿海観光、海洋エネルギー開発を積極的に展開するとしています。また上海は、「海洋経済」を上海市の新たな支柱産業とし、2010年の海洋産業生産総額を5500億元とし、全国のトップを窺うとしています。「海」を意識した発展戦略が、沿海各省に登場してきています。

 中国大陸部の海岸線総延長距離は1万8000余キロで、北の遼寧省から南の海南省まで8省1自治区2直轄市にわたります。海洋経済の発展は、中国の経済成長を牽引してきた沿海大発展に新たな成長の機会を提供しつつあるといえます。

 同時に、沿海地区の経済力を内陸に波及させていくという国家発展戦略にも符合しているといえます。例えば、中国の経済発展のボトルネックの一つとされる内陸の水不足を、海水の淡水化で軽減することも期待できるでしょう(注2)。

 一方で、中国の海洋汚染は深刻化しているという現実もあります。国家海洋局が今年発表した『2006年中国海洋環境の質に関する公報』によれば、工業と生活の汚水が海に流されており、近海の25%の海域の水質が、中度または深刻な汚染の状況にあるとされています。

 「海洋経済」の発展は、一方で「環境問題」にもかかわっています。海は世界各地と直結しております。中国政府は『全国海洋経済発展規画綱要』の中で、大陸を源泉とする汚染物の海への排出を厳しく制御するとしていますので、その成果に大いに期待したいと思います。

「開発区」を引き継ぐ「臨空経済」

北京にある中国空間技術研究院の展覧ホール

 次は、「空」です。「臨空経済」を経済発展の新たなエンジン役としていこうとする都市が目立ってきました。例えば、北京市。「第11次5カ年規画」(2006〜2010年)で、「順義臨空経済区」を同市の六大産業発展地区の一つとしています。2010年までに同区に百億ドルを投入し、新たなビジネス拠点にし、また中国第3の経済圏として内外から注目されている環渤海経済圏の牽引役に発展させたいとしています。

 中国は、1980年代初頭、低コストの海運物流という優位性を利用し、「臨海型工業経済」を発展させました。今日、情報産業の発展につれ航空運輸の役割が急速に高まり、空港に隣接する地区を「臨空経済区」として発展させようとしているわけです。

 「臨空経済」とは、空港機能を積極的に活用し、生産、技術、資本、貿易、人口などを空港隣接地区に集積させた新たな経済空間といえます。

 北京、重慶のほか、成都、上海、広州、西安、ハルビン、大連、深センなどの空港所在地で「臨空経済発展規画」が制定され、それぞれの特性と機能を生かした発展が希求されています。例えば内陸では、2006年に重慶政府が「重慶空港城(注3)」(規画面積175平方キロ)方案を認可し、現代サービス産業を重点的に発展させるとしています。

 中国には、国家の地域発展戦略(沿海大発展、西部大開発、東北振興、中部崛起)がありますが、「臨空経済」は中国各地の空港という「点」を核とした地方政府による新たな地区発展戦略といってよいでしょう。現在、中国各地にある「経済技術開発区」に続く、新たな地区開発拠点に成長する可能性を有しているといっても過言ではないでしょう。

 各地区の「臨空経済」の核である空港の相互連携が強まれば、「点」から「線」へと経済発展空間が拡大され、国家の地域発展戦略を結合する役目を果たすと期待できます。

 何よりも、「空」で迅速に世界と連結できるという点で、「臨空経済」は中国経済の国際化の最前線にあるといってよいでしょう。今後、対中ビジネス交流では、この「臨空経済」の行方に注目する必要が大いにありそうです。

チャイナ ブルー」への期待

 「空」関連で、航空工業の発展、宇宙計画に一言触れておきましょう。

 温家宝総理は、今年の『政府活動報告』の中で、大型機の設計、製造、有人宇宙飛行、月探査プロジェクトなど十六の重要研究がスタートしていることを明らかにしました。

 現在、米国、欧州4カ国、ロシアが、大型航空機の製造能力を有しています。中国では2020年までに、新たに1600機前後(1500億〜1800億ドル)の幹線旅客機が、さらに各種リージョナル機(注4)や民間輸送機の導入が必要とされます。2030年までには、中国は世界第2位の航空輸送市場に躍進するともいわれます。

 航空機の開発は、機械製造、電子、冶金、化学工業、材料、エネルギー、情報、コンピューターなどの産業の発展を促進するといわれます。現在、自動車産業の発展が他産業の発展を牽引し、中国経済や人民の生活水準の向上に大きく貢献していますが、今後は、これに航空産業が加わる可能性が出てきました。

 宇宙産業では、すでに「神舟5号」、「神舟6号」で有人飛行を成功させており、さらに、「嫦娥1号」の月面着陸計画が始動しつつあります。米国に次いで、月に「足跡」を残すのも、そう遠い未来ではないでしょう。

 「海」も「空」もブルーが似合います。「チャイナ ブルー」が世界経済の発展と平和に大きな「足跡」を残す日が、やって来ているようです。


注1 海洋漁業、海洋交通運輸、海洋天然ガス、沿海観光、海洋船舶、海塩・海洋化工、海水淡水化、海洋医薬など。

注2 「東水西調」という。東(沿海)の水(海水淡水化)を西(内陸)に運ぶこと。「南水北調」(長江の水を華北に運ぶこと)になぞらえたもの。

注3 「城」は、都市の意味、ここでは地区ほどの意味がある。

注4 中国初の新型ターボファンジェットのリージョナル機「ARJ21」が今年から量産に入り、最初の3機が2009年にユーザーに引き渡される予定です。


 
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