キノコ栽培で豊かに

採りたてのキノコを手に「キノコは宝の山です」と話す丁興財さん

 周口店北京原人遺跡がある北京市西南部の房山区は、昔から農業を主な生産手段としてきた地域だ。近年、新しい農産業の発展を画策し、生産活動や生活の面で現地の農民たちにさまざまな変化をもたらしている。

 大石窩鎮南河村に住む丁興財さん(45歳)はキノコ栽培を生活の糧とする。所有するキノコ栽培用ビニールハウスは、長さ約100メートル、幅約10メートル。レンガを積み上げて一方の壁を高く、一方の壁を低くし、低い方の壁には風通しの穴を開けてある。そしてその上にビニールシートをかぶせ、上げ下げできるむしろもかかっている。造りは簡単だが、毎年ここから6万元が生み出される。

 ビニールハウスの中にはたくさんの菌床が並べられ、大小さまざまなヒラタケが生えている。「もうすでに3回収穫しているので、それほど大きくはなりません。1回目のときは、1日に1000キロ以上収穫できるのですよ」と丁さんは水をまきながら話す。

 妻の耿紅英さんは体が丈夫ではないため、農作業はやらず、自宅で家事を切り盛りする。21歳の息子と18歳の娘は市内へ働きに行っている。そこで、通常は丁さんひとりで栽培しているが、忙しいときは臨時労働者を2、3人雇うという。

 以前、丁さん一家には3.5ムー(1ムーは6.667アール)の畑しかなく、小麦やトウモロコシを作っていたが、収入は限られていた。1999年ごろになると、北京市内や郊外の豊かになった町で、家を建てたり部屋の内装をする人が増えた。これをチャンスと考えた丁さんは、簡単な運搬車を買って、村の河原から砂や石を集めては売りに行った。コストがかからず体力勝負の仕事でかなり儲かり、農業をしているときより生活はよくなった。

 しかし2003年になると、汚染防止や環境保護のため、政府は砂や石を扱う産業の大半をストップさせ、農民が河原で砂や石を集めるのを禁止した。これに乗じて豊かになろうとした村人たちの道は絶たれた。

技術員が南河村にやってきて科学技術の知識を伝授してくれた(南河村提供)

 幸いなことに、地元政府は、環境を保護するとともに、農業構造の調整を始め、農民が豊かになる道を探る手助けをした。丁さんが住む南河村に対しても政策面と資金面で強力に支援した。

 これにより、南河村の村民委員会は、山東省や河北省などに視察団を送り、農業構造調整案を作成。それは、「循環型経済を発展させ、環境保護栽培産業拠点を建設する」というものだった。

 丁さんによると、農業構造の調整とは、穀物を作るだけでなく、野菜やキノコのハウス栽培を行うことだという。村人たちはこれに対して、はじめのうちは懸念を示していた。

 そこで、村の幹部たちは自ら5つのビニールハウスを造り、野菜やキノコを栽培し始めた。そうするなかで、技術を学び、さまざまな品種を試し、販路を探した。一年後、5つのビニールハウスの平均収入は2万元を超過。この成果を見た村人たちは、この方法を認め、試してみるようになった。

毎日たくさんのキノコが収穫できる

 丁さんもその頃からキノコ栽培を始めた。ビニールハウスの建設については、村には統一的な計画があり、資金の援助もあった。栽培についても、菌床作りや菌の植えつけ、各時期の管理などすべての栽培過程を、村の栽培管理センターが招請した技術員が一つ一つ手取り足取り教えてくれた。山東省や河北省、福建省から招かれた技術員たちは、村に長期的に滞在した。彼らのおかげで、村の野菜やキノコ栽培の技術は高まった。

廃棄物を再利用

 「『野菜1ムーの栽培は、穀物10ムーに勝る』とよく言われますが、キノコ栽培を通してそれを実感しました。一つのビニールハウスから得られる収入は、3.5ムーの畑よりずっと多いんですよ! キノコは宝の山ですね」と丁さんは笑う。

 「宝の山」という表現は、キノコそのものだけを指しているのではない。キノコ栽培により生み出されるものも指しているのだ。

南河村にあるガス生産所。農業廃棄物でガスを生成する

 キノコは菌床で栽培される。菌床は、木屑や綿の種の殻、トウモロコシの芯などを混ぜ、それをビニールの袋に詰めて作ったもので、菌を植えつけてから半年余りの間に6回も収穫できる。使い終わった菌床もさまざまな用途がある。発酵させて肥料にしてもいいし、一定量の土を混ぜれば柔らかく通気性のよい用土になる。この用土は野菜栽培に最適だ。さらにかまどの燃料としても利用できる。

 最初のころ、村人たちは使い終わった菌床を家の周辺や道端に置き、かまどや暖を取るのに使っていた。「燃えることは燃えるのですが、煙や灰で部屋や台所が汚れました」と丁さんは言う。

 続けて、「今は農業廃棄物によって生成したメタンガスを利用しているので、清潔です」と話す。丁さんの自宅の台所には都市で使われているのと同じようなガスコンロがあり、スイッチをひねればすぐに火がつく。

 南河村は2003年に政府の支援を受け、農業廃棄物によるメタンガス生産所を建設した。ここでは、使い終わった菌床だけでなく、トウモロコシの茎や芯、果樹の枝、ピーナツの殻などを粉砕したあと、燃料として利用できる。発生したメタンガスは貯蔵タンクに保存され、パイプを通して各家庭に配られる。村人たちは、スイッチをひねればすぐに清潔なメタンガスを利用できる。

キノコ生産企業により、周辺の村の農民たちは就職の機会を得た。キノコ生産企業は、農民たちのキノコ栽培も奨励している。

 ガスコンロはコストが低く、廃棄物の再利用が可能なうえ、廃棄物が山のように積み重なって火災が発生するのを防ぐこともできる。使い終わった菌床や穀物の茎をメタンガス生産所に持って行けば、メタンガスと取り替えられるのだ。

 このように「ゴミが宝になる」ことで、農民たちはコストをかけずに実益を得られるようになった。丁さんの自宅は、明るくて塵ひとつない。昔の農家のイメージとはまったく違う。

 村の様相も変わった。道端に積み重ねられていた廃棄物がなくなり、空き地は運動や憩いの場になった。大半の道路はアスファルト舗装されている。かつてのような「晴れた日は土埃まみれ、雨の日は泥まみれ」といった状況は改善された。また、自宅のトイレを水洗式に改造することを奨励し、改造した農家には太陽エネルギーの湯沸かし器をプレゼントしている。

自宅の台所で、「村にガス生産所ができてから、各家庭は新しいエネルギーを利用するようになりました。便利だし清潔です」と説明する丁興財さんの妻の耿紅英さん

 村民委員会の王万忠主任によると、キノコや野菜の栽培が導入されてから、村には暇な人が少なくなった。以前は、冬の農閑期になると、村人たちは家で暇を持て余すしかなかった。あるいは何人かで集まって、村の中をぶらついたり、トランプやマージャンをしたり、タバコを吸いながらおしゃべりしたりするしかなかった。そこで、小さなことから揉め事が発生することもあったという。

 しかし今は、ビニールハウスの仕事だけでも忙しい。菌床作り、水まき、風通しなど、すべて人手や時間がかかる。それに何回も収穫できるため、手が回らないときは人を雇わなければならないほどだ。

 午後になると、キノコの仕入れ業者が村にやってきて、ビニールハウスを回る。村人たちは翌朝の朝市で新鮮なキノコを出すために、夜まで忙しく働く。

 外地の臨時労働者を雇うことが増えたことにより、村には新しい商売が起こった。食堂だ。

 これまで村には食堂がなく、必要もなかった。しかし今では7、8戸の農家が食堂を開き、商売はみな上手くいっている。臨時労働者のためであるだけでなく、自分たちの利益にもつながっているのだ。

生産の工業化進む

夕方になると、市内から業者がやってきて、各ビニールハウスの前で新鮮なキノコを仕入れる

 北京市に出回っている生のキノコの半分は、房山区で生産されたものだ。房山区では、農家がキノコを栽培しているだけでなく、関連の生産企業もあり、その生産は工業化されている。たとえば、「格瑞拓普生物技術有限公司」が生産するハクレイタケや田各荘村のエリンギ、長寿郷のエノキタケなどが有名だ。これらの製品は北京だけでなく、ほかの省・自治区・直轄市、さらには海外へも出荷している。

 また、菌床加工工場も建設され、生産量は年間8800万個にのぼる。

 キノコの栽培方法は地域によって異なり、丁さんのようにハウス栽培をする農家もあれば、不用になった炭坑や坑道、洞窟を利用する農家もある。山地の林の中で自然環境をいかして栽培する人もいる。

 房山区にはすでに、菌種の研究開発、菌床の加工、生産の工場化、各農家での栽培という産業チェーンが形成され、キノコ栽培に携わる農家は5500戸以上、栽培面積は450万平方メートル、年間生産量は1万6000トンに達する。


参考データ
 

 房山区の総面積は2019平方キロ、人口は87万人。463の村があり、農村人口は48万人。

 ▽房山区は今後、よりレベルの高いキノコ生産企業を誘致し、乾物、缶詰、パック商品などの開発を進め、年間加工量5000トン以上を目指す。山地では、野生、半人工栽培を促進し、自然のままのキノコを維持できるようにする。

 ▽南河村の世帯数は420世帯、人口は1280人、耕地は1595ムー。北は拒馬河、南は河北省タク州に隣接する。


自分たちで栽培したキノコを加工し包装する村人たち

 
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