(43)
日本貿易振興機構企画部事業推進主幹 江原 規由
 
 

宋の時代とどこか似ている


 
   
 
江原規由 1950年生まれ。1975年、東京外国語大学卒業、日本貿易振興会(ジェトロ)に入る。香港大学研修、日中経済協会、ジェトロ・バンコクセンター駐在などを経て、1993年、ジェトロ大連事務所を設立、初代所長に就任。1998年、大連市名誉市民を授与される。ジェトロ海外調査部中国・北アジアチームリーダー。2001年11月から、ジェトロ北京センター所長。
 
 

 「歴史は繰り返さない」といいますが、今の中国経済や社会情勢は、宋の時代(960〜1279年)との類似性が目立ちます。宋の時代は経済活動が盛んで、「ものつくり」や「商い」で余裕のできた階層が生まれ、庶民は生活を謳歌する機会に恵まれていたようです。

 運河によって地方の物産が首都の開封に運ばれ、飲食店が夜通し賑わい、市や芝居が時間や場所を制限されることなく一日中、盛んでした。唐の時代(618〜907年)は、都の長安で市が東西の両市に限られ、夜間の通行も禁止されていました。宋は唐に比べると、遥かに活気に満ちていたといえます。

 現在に目を転じると、中国は経済重視の改革・開放路線をほぼ30年、続けています。現政権は「以人為本」(人間本位)、「小康社会」(いくらかゆとりのある社会)の政策を打ち出し、農業、教育、社会保障の充実や格差是正に力を入れています。

 また中産階級が経済活動で重要な役割を演じつつあります。経済が安定していれば、内外情勢の変化にも対応でき、庶民生活に余裕が生まれるわけです。経済安定のバロメーターは、消費と蓄財のバランスにあるといえるでしょう。

国は輸入拡大へ

 中国は、内需主導の成長パターンに転換しようとしており、その主役は消費です。

 国家の消費といえるのが輸入です。中国は、輸入に比べ輸出が圧倒的に多く、昨年、外貨準備高で世界第一位になりました。黒字が増えすぎると各国との貿易摩擦や人民元の切り上げ圧力などが増えます。中国は輸出を調整し、輸入を拡大するなどして、拡大均衡を図りたい意向です(注1)。

 例えばこの5月には、120億ドル程度(外貨準備高のほぼ百分の一)の米国商品(大豆、綿花、機械・電子製品など)を買付けるミッションが米国に派遣されました(注2)。中国にとって米国は最大の貿易黒字相手国(2006年は1443億ドル、米国の統計では2325億ドル)であり、中国が対米経済関係の円滑化に配慮したのです。

 経済大国であった宋の時代も、当初、財政は豊かでした。戦争を好まなかった宋は、北方の遼や西方の西夏に莫大な歳幣(絹、銀、茶など)を提供し、平和維持に努めました。時代的背景は異なるものの、経済的手段で対外関係の安定に配慮しているところは、今と似ています。

 黒字調整としては、「加工貿易」(注3)の見直しや輸出関連税制の調整、先進技術製品の輸入拡大などがあります。また、中国製品の輸出専門であった広州の中国輸出商品交易会は今年の第百一回から輸出入商品交易会として、輸入促進の場としても対外開放されました。QDII(有資格国内機関投資家)の導入や海外投資の拡大も、黒字額の調整に一役買うことになるでしょう。

 日本とはどうでしょうか。日中では貿易統計のとり方が異なっていることから、統計上、双方が貿易赤字を記録していますが、赤字額は多額ではありません。エネルギーや環境問題が深刻化しつつある中国は、今後、省エネや環境保護関連技術・機器で世界の最高水準にある日本から、こうした製品の輸入を増やすことになるでしょう。最近、日本製のコメの対中輸出も解禁されたのも、中国の輸入拡大に一石を投ずると期待したいものです。

主役は内需へ

北京の百貨店の化粧品売場はいつも女性客でにぎわっている(写真・馮進)

 さて、人民の消費はどうでしょうか。GDPの中身を投資、輸出、消費と分けてみると、これまで消費は脇役でした。外需から内需主導の経済運営に舵を切ったということは消費、突き詰めれば、人民の懐を大いに当てにしようということにほかなりません。

 その人民の懐ですが、一人当たりGDP(2006年) についてみると、北京は6000ドル、天津5000ドル、上海7000ドル、広東3000ドルで、全国では2000ドル超(予測)と、順調に伸びており、一人当たりの可処分所得も増えています。

 消費について言えば、消費の主導権を握っている女性の場合を例にとると、2006年では消費額の多いのは、都市部では衣類、美容、整形・ダイエットの順といわれます(注4)。農村では日用品、医療費、衣類、飲食で、2007年に購入したいとする上位商品は衣類、携帯電話、化粧品、宝飾品となっており、「美」への消費が高いことがわかります。

 男女の別を問わず、マイホーム、マイカー(昨年末時点で2000万台を突破)、国内外観光(昨年、海外旅行した中国人は3400万人)など、大口消費も盛んです。

 夜には、飲食、カラオケ、ネットカフェ、映画・演劇鑑賞、公園などでのソーシャル・ダンスや合唱など、人々がレジャーや娯楽で生活をエンジョイしているところなどは、宋の都の開放感に似ているのではないでしょうか。

多様化する蓄財

 消費を増やす一方で、人々は手堅く蓄財もしています。蓄財は将来における「消費」といえます。家計は、教育、医療、老後などに備えるために蓄財に励むわけですが、最近、蓄財が多様化してきました。

 これまで蓄財は、銀行預金が主でした。現在、これに、債権、株式、ファンド、外貨そして不動産、金銀宝石、切手、書画・骨董などで蓄財するケース、即ち、投機的消費が増えてきたようです。

 リスクもありますが、例えば、株式は一年間ちょっとの間に総合指数が3倍になっています。人民元高傾向だった昨年、人民元はドルに対し約5%上昇し、銀行の金利を上回っています。解禁間近とされるQDIIなどを通じて海外の証券市場に投資することも可能で、蓄財手段はバラエティーに富んできました。また、昨年の競売市場は3000億元(1元は約15.5円)に急拡大しました。

 今、中国では、これら蓄財市場の透明度を高め、リスク軽減のために法制度を急ピッチで整備しつつあります。

 国家の蓄財はどうでしょうか。外貨準備は国家の蓄財といえますが、これはすでに十二分にあります。目下、中国は社会保障、教育、環境などへの支出を増やしています。また、数千年続いた農業税を廃止したり、義務教育を無料化したりしています。こうした社会保障や教育の充実は、人々の側から見れば、「無形の蓄財」といってよいでしょう。

 宋の時代の開封の庶民生活を生き生きと描いた『清明上河図』は、北京の王府井や上海の南京街の賑わいを彷彿とさせます。宋代には、「青苗法」(注5)などで農民の税負担を軽減しました。また、印刷、羅針盤、火薬など世界に冠たる発明がありました。「科挙」で文官を積極的に登用し、また宋代の陶磁器は時代を画しています。「民」「科学」「教育・学問」「商工業」を重視して、国家も人々も、蓄財と消費をうまくバランスさせていたのではないでしょうか。

注1 呉曉霊中国人民銀行副総裁などの発言。国連は中国が2009年に世界最大の輸出国になると予測(『経済参考報』1月12日付け)

注2  昨年4月には、呉儀副総理が率いる訪米ミッション(中国企業111社参加)はボーイング旅客機や大豆など162億ドルの米国商品の買い付けを行っている。

注3 原材料を無税で輸入し、製品の全量を輸出する貿易形態。中国の輸出量のほぼ半分を占めている。

注4 『工人日報』2007年1月27日付け。

注5  国家が地主より低い金利で種、食糧、お金を農民に貸し付ける税制。


 
本社:中国北京西城区車公荘大街3号
人民中国インタ-ネット版に掲載された記事・写真の無断転載を禁じます。