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「八八八八」に込めた願い

北京の街角の(同一個世界 同一個夢想)のスローガン(写真・馮進)

 北京オリンピックは、来年2008年の8月8日から3週間にわたって開かれる。そして、開会式は8日の午後8時、「八」という数字を縁起のよい数字とする中国人は、「八・八・八・八」と「八」の四重奏の開幕の日取りを大安吉日と手をたたいて喜び、もう北京オリンピックはなかば成功したかのように浮き浮きしている。

 先日、北京オリンピックを観戦に来るという日本の友人から「北京の8月も暑いことでしょう。東京の8月は、1年でいちばん暑い月です」という手紙をもらった。東京がいちばん暑いのは8月、だが北京がいちばん暑いのは平均気温26.1度の7月で、8月はそれより一度以上低い24.9度となっている。北京の8月の平均気温は、東京の7、8月のそれよりいくらか低い。暦の上の24節気では、北京オリンピック開幕の前日の8月7日が立秋で、北京オリンピックは秋を迎えるなかで開かれるわけだ。

 暦の上では立秋、といっても8月の北京の日中はまだ暑いのはたしかだ。だが、朝夕はかなりしのぎやすくなる。日本のお天気博士、倉嶋厚さんからいただいた『お天気博士の四季暦』(文化出版局)によると、24節気は日本の気候より中国大陸の気候に合うそうだ。5回も北京の秋を訪れ、『北京秋天』などの名画を残した梅原龍三郎の最初の北京訪問は1939年だが、その年の8月10日の北京日記で「日沈むころより涼しく、四方の眺め美しく誠に夢の国なり」と書いている。

 感覚的に8月の北京を知っていただければと、私のメモからも2、3抜き書きしてみよう。

 「こおろぎの鳴き声を聞く。夏の果物の王者である街の西瓜の山が、だいぶ小さくなる」(1985年8月2日)

 「赤トンボを見かける。秋も近い」(1985年8月12日)

 「最高気温29度、最低気温21度。朝夕はしのぎやすくなった」(1981年8月19日)

 「京白梨を買う。秋の果物の登場だ」(1992年8月20日)

秋、豊かに実った京白梨(シャイナネット提供)

 メモに書かれた京白梨は、北京特産の糖分8%、水分80%前後、心地よい甘味と、したたるような水分で、のどを潤してくれる北京の庶民に親しまれている秋の果物だ。オリンピック観戦のバッグに3つ、4つ、京白梨を入れておけば、一日中、のどを潤してくれるだろう。

 北京は梨の多いところで、この京白梨を筆頭に、鴨梨、雪花梨、糖梨、蕭梨、鴨広梨、子母梨、状元梨、蘋果梨……と味さまざま、形さまざまの梨が秋の果物屋さんの店頭に並ぶ。だが、北京っ子がまず手を伸ばすのはなんといっても京白梨である。ちなみに、天高く馬肥ゆる秋、北京名物の北京ダックや萠羊肉(羊のシャブシャブ)が美味しくなるのも、このころからだ。鴨も羊も肥ゆるからだという。

 北京オリンピックの8月開催をいちばん喜んでいるのは、夏休みまっ最中の北京の小中学生かもしれない。先生や親に気がねすることなく、いつもはテレビでしか見られない憧れの的であるオリンピック金メダリストの劉翔(男子陸上)や張怡寧(女子卓球)、アメリカのプロバスケットボールNBAで大活躍の姚明(男子バスケットボール)らの試合ぶりを現場で観戦できるのだ。いまから、チケット代を貯めている子もいるという。

 もちろん、選手たちも張り切っている。短距離系アジア初の金メダリスト劉翔は「陸上の短距離でも、アジアの選手が欧米の選手に劣っているとは思わない。日本もいっしょにがんばろうよ」と語っている。

 暦の上での立秋を過ぎると、気のせいかもしれないが、北京の空には秋の気配が漂い始める。北京の秋の青く澄んだ空、梅原龍三郎は「音楽を聞いているような空だった」と回想し、梅原の絵の弟子で、俳優の高峰秀子は「北京の秋の空は世界一です」と語っている。

 この世界につながる北京の秋の空いっぱいに「同じ世界、同じ夢」(同一个世界、同一个夢想One World One Dream)という北京オリンピックのスローガンが高らかにこだまする日を、指折り数えて待ち望んでいる。3000年の歴史をもつ古都北京、北京オリンピックの秋の空が3000年の歴史のなかでも、いちばん高く、いちばん青く澄んだ、最高の「音楽を聴くような空」であってもらいたい。




 
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