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ジェトロ北京センター所長 江原 規由
 
 

いよいよ出番 山東省経済

 
   
 
江原規由 1950年生まれ。1975年、東京外国語大学卒業、日本貿易振興会(ジェトロ)に入る。香港大学研修、日中経済協会、ジェトロ・バンコクセンター駐在などを経て、1993年、ジェトロ大連事務所を設立、初代所長に就任。1998年、大連市名誉市民を授与される。ジェトロ海外調査部中国・北アジアチームリーダー。2001年11月から、ジェトロ北京センター所長。
 
 

 中国経済発展を担う地域と、対中ビジネスの拠点が「北上」しています。

 1980年代は華南(深ロレ、広州を拠点とする珠江デルタ経済圏)、90年は華東(上海を頭とする長江デルタ経済圏)、そして21世紀に入り、環渤海経済圏(山東省、河北省、遼寧省、北京市、天津市の三省二直轄市)へと波及しています。

 環渤海経済圏は、北京市、天津市、河北省が形成する首都圏経済圏と渤海湾の両翼の山東省と遼寧省が接着している位置にあります。また北には、中国を代表する重化学工業拠点であり、現政権が国家戦略として推進している「東北振興」の地、中国東北三省が控えています。

 このことは、産業構造的には、経済の重化学工業化が進んでいるということです。つまり環渤海経済圏は、中国における北の重化学工業と南の軽工業を結ぶ十字路にあるということになります。

 この環渤海経済圏をよく見ると、韓国と日本のほうを向いて手足を伸ばそうとしている蟹の姿に似ています。山東省は、その蟹の右のハサミにあたります。独自な経済発展を目指しつつあり、日本にとって対中経済交流の一大拠点に成長しつつあるといってよいでしょう。

温故知新

 山東省は、数多くの思想家を輩出しています。その代表が孔子です。山東省を走る高速道路から、かつて魯や斉と呼ばれた土地を眺めると、畑の向こうに小高い山々が見えます。この風土から、二千年以上にわたり、中国の価値観となってきた儒教が生まれたのです。

 中国の母なる河の黄河も、山東省を横切り渤海湾へ注いでいます。その河口からちょっと内陸に入ったところに、濱州市があります。

 同市の王方正副市長は「いずれ黄河経済圏ができる。そのため、M&A方式などで日本企業や外資系企業の導入を図り、地域開発をやっています」と胸を張っていました。

 また、秦の始皇帝は、天下の名山たる泰山で封禅(注)の儀式を挙行しましたが、その泰山山系の裾野に広がる泰安市には、驚くほど広大なハイテク産業開発区が造成中で、すでに日本企業二社が入居済みです。

 ここの段崇海招商局長は「2008年までに北京―上海間を高速鉄道(日本の新幹線に相当)が開通する。泰安に駅ができる。そうなれば、北京とは日帰り圏内になり、大きな経済効果が期待できる」と熱っぽく語っていました。山東省では、燦然たる歴史と自然の重みの上に、今まさに、新しい発展の基礎を築きつつあるといった息吹を、至る所で感じることができます。

日帰り経済圏

泰山

 山東省は多様な産業構造を有しているといえます。

 基本的には軽工業主体(紡織、アパレル、食品加工、電子家電、建材、新材料など)の産業構造ですが、山東省随一の経済都市である青島では、造船、自動車、石油化学、鉄鋼、タイヤなど重化学工業も発展させています。

 山東省の発展戦略を一言でいうと、「半島製造業基地建設」構想ということになるでしょう。この構想は、今後、電子情報、海洋薬品、バイオなど新規産業を発展させ、既存の軽・重工業とのバランスのとれた産業発展を目指す戦略といってよいと思います。また、山東省は果実・野菜の生産地として、その名を馳せています。

 山東省は半島であるという点で、東西南北の「地の利」に恵まれています。すなわち、北で首都圏経済圏と遼東半島に対していることは、一言でいうと、人材、ハイテク産業、サービス産業といった首都圏の利点と東北地区の重化学工業の産業集積を利用・吸収できる位置にあるということです。南には上海を中心とする長江デルタ経済圏の産業群(とくにハイテク産業)があり、半島製造業との連携が進む可能性があります。

 東では、海を隔てて、日本と韓国に対峙しているという利点、すなわち、北九州の鉄鋼、化学、金属、陶器、長崎の造船、漁業、観光、下関の水産加工、造船、韓国・仁川の鉄鋼、機械工業、光州の紡織、釜山の造船、機械、自動車製造、紡織、食品産業などとの産業連関が進みつつあります。

 とくに山東省は、韓国企業の中国への進出拠点となっている点に特徴があり、今後も両国経済交流がさらに進展していく状況にあります。

 注目すべきは、青島には海爾(ハイアール)集団、海信集団など、中国が国家戦略として積極的に推進している「走出去」(中国企業の対外進出)のパイオニア企業が存在しており、対外経済関係でも中国をリードする可能性を秘めているという点です。

 西に内陸に入れば、将来的には高速鉄道が縦断し、停車することから、濱州、済南、泰安など内陸都市には、観光を含め大きな経済効果が期待できます。

 このように山東省は、東西南北が高速道路、航空路線の発展、フェリーなど海洋航路(将来的には高速鉄道も含む)の発展で、まさに日帰り経済圏で結ばれ、中国の物流拠点としても大きな発展の余地があるということになります。

日本から近くて近い山東省

 日本企業は、青島、煙台、威海、済南など大都市の経済技術開発区やハイテク産業開発区などを中心に進出し、山東省の至る所に展開しています。煙台市から車で二時間ほど、半島を縦断したところに海陽市があります。ここに進出している日本企業の経営者は、「とにかく、市政府が親切かつ熱心に対応してくれるし、人々も親切で、地域ぐるみで歓迎してくれますよ」と話しています。

 日本と中国には、いくつかの距離があると思います。地理的距離は不変ですが、時間的距離は空路や高速道路の発達などでますます縮まり、近年の日中経済関係の緊密化で両国の経済的距離も縮まっています。

 しかし心理的距離はどうでしょうか。山東省では、日本との経済的距離も心理的距離は等しいように思えます。そこが、山東省との交流発展の大きな魅力ではないかと、山東省の各地を訪問するたびに、私はいつも感じています。

 封禅とは、天命を受けた天子が、泰山の頂上に壇を築いて天をまつり(封)、その麓の土地を平らにして地をまつり(禅)、天下泰平と国家の永続を願う儀式。(2005年4月号より)


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