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日本貿易振興機構企画部事業推進主幹 江原 規由
 
 

積極化するAA諸国との交流


 
   
 
江原規由 1950年生まれ。1975年、東京外国語大学卒業、日本貿易振興会(ジェトロ)に入る。香港大学研修、日中経済協会、ジェトロ・バンコクセンター駐在などを経て、1993年、ジェトロ大連事務所を設立、初代所長に就任。1998年、大連市名誉市民を授与される。ジェトロ海外調査部中国・北アジアチームリーダー。2001年11月から、ジェトロ北京センター所長。
 
 

 昨年11月3日から5日の期間、北京で第3回中国・アフリカ協力フォーラム(FACAC)が開催されました。注目すべきは、同フォーラムで初となるサミットが開催され、元首(35カ国)を含む48カ国からの代表が出席したことです。

 この間、アフリカ諸国の元首・首脳らの移動を最優先するため、北京市内は厳しい交通規制が実施され、空港へ向かう有料道路の一般車両の進入禁止や公用車49万台の使用禁止などが行われました。中国のFACACにかける姿勢には、並々ならぬものが感じられました。

 現在、中国はアジア・アフリカ(AA)諸国との交流を積極的に展開しています(表参照)。胡錦涛国家主席は昨年4月、アフリカ3カ国を訪問、温家宝総理は昨年6月、同7カ国を訪問し、アフリカからも多数の元首や首脳が訪中しました。

バンドン会議から半世紀

 時を遡ること半世紀前の1955年、インドネシアのバンドンで、当時の中国の周恩来総理、インドのネルー大統領、エジプトのナセル大統領、インドネシアのスカルノ大統領らが中心となって第1回アジア・アフリカ会議(バンドン会議、29カ国出席)が開催されました。この会議で中国は、中心的な役割を演じ、主権・領土保全、内政不干渉、武力不行使、平和共存、相互利益と協力の増進などからなる「平和十原則」(注1)が宣言されました。

 その中国やAA諸国は、半世紀の間に大きく変貌しました。一言でいえば、政治の季節から経済の時代へ、すなわち「平和十原則」の一つである「相互利益と協力の増進」を前面に押し出す世紀に入ったといえます。

 とくに、東アジアは雁行型経済発展(注2)を遂げ、今や世界の成長センターとして世界経済の発展に大きくかかわるまでになりました。今後の展開次第では、「アジアの時代」の到来、そしてアジアとの連携強化によるアフリカ経済の発展が期待されているわけです。

 将来のアジア・アフリカの飛躍に最もかかわってくるのは、間違いなく中国でしょう。過去4半世紀余に中国は年平均2桁に近い驚異的な経済成長を遂げ、国内総生産(GDP)で世界第4位、対外貿易で第3位、そして外貨準備では昨年2月に日本を抜き世界第1位(一兆ドルに接近)となるなど、経済大国の地位を築いています。

経済発展に貢献する中国

 では、最近の中国とAA諸国との経済関係はどのように推移したのでしょうか。2005年の対外貿易では、対アフリカ諸国とは1995年比で約10倍(397億ドル)、対中央アジア諸国では1992年比で約19倍(87億ドル)、対東南アジア諸国連合(ASEAN)では91年比で16倍(1304億ドル)と飛躍的な伸びを示しています(注3)。

 とくに、ASEANとは、2005年から関税引き下げプロセスがスタートしており、2010年までに大部分の商品の関税がゼロとなるなど、飛躍的な貿易拡大に向けた環境整備(自由貿易協定=FTA)が進められています。これに日本、韓国が加わるASEAN+3(中国、日本、韓国)が、さらにオーストラリア、ニュージーランド、インドが参加の意向を示しているなど、域内の経済交流拡大に向けた動きが着々と進展しています。

 こうして中国とAA諸国との貿易は引き続き拡大していくと期待できますが、今後は中国企業の進出(すでにアフリカ諸国には2005年末時点で800余社の中国企業が進出済み)や人材育成面での協力や文化面での交流拡大が積極化するなど、経済交流はさらに多岐・多様に発展していくことになるでしょう。

カギは日中連携強化

 中国の持続的成長がAA諸国の発展に大きくかかわっているわけですが、中国にもアキレス腱があります。資源・エネルギー問題、環境問題、そして地域間経済格差問題などです。

 資源・エネルギー問題はAA諸国との連携強化に解決の糸口(表参照)が求められており、また格差問題では、中国のいわば国内的雁行型発展、すなわち沿海地域から内陸部への地域発展戦略(注4)が成果を見つつあり、沿海都市部と内陸農村部との格差是正が期待できます。

 しかしながら、世界が注目するアジア・アフリカ経済の飛躍のカギは、何といっても日中関係の強化・発展でしょう。昨年10月、首脳として5年ぶりに安倍首相の訪中が実現し、「共通の戦略的利益に立脚した互恵関係の構築に努力する」ことが宣言され、東アジアの一体化のプロセスをともに推進していくことが確認されました。

 かつて、日本は雁頭としてアジア経済を牽引した実績があります。今後、日本は中国と雁行の両翼となってアジア経済の上昇飛行とアフリカ経済の離陸に大きく貢献する時を迎えたといえるでしょう。

主なAA諸国との交流実績
注目すべき交流内容・成果
 @第2回中国・アラブ協力フォーラム閣僚会議
   *2006年5月末〜6月初旬
   *アラブ22カ国・地域参加
   *開催地北京
 *環境保護協力関連共同コミュニケ採択
 *500人の各種人材養成協力
 *北京での「アラブ芸術祭」開催
 *中国アラブ石油協力会議開催
 A上海協力機構首脳会議
   *2006年6月中旬
   *中国、ロシア、中央アジア4カ国首脳が参加
   *開催地上海
 *域内エネルギー・交通輸送・電信情報ネットワー
   クの構築
 *総額20億ドルのプロジェクト契約
 *長期善隣友好協力条約締結宣言
 B中国ASEAN首脳会議
   *第3回中国―アセアン博覧会開催時
   (2006年10月30日〜11月3日)
   *ASEAN10カ国の指導者
   *広西チワン族自治区南寧市
 *中国・ASEAN友好協力年
 *中国・ASEAN経済貿易協力5項目提案
  (貿易、投資、人的資源の育成など経済・技術協
   力拡大、質の高い中国-ASEAN FTAの構築、アジ
   ア地域協力の推進)
 C第3回中国・アフリカ協力フォーラム
   *2006年11月初旬
   *アフリカ諸国48カ国の元首・首脳等が出席
   *開催地北京
 *会期中7カ国が「市場経済国」としての中国を承認
 *8項目の対アフリカ支援策提示(50億ドルの中
   国・アフリカ発展基金の設立、1万5000人の各種
   人材育成など)

 注1 「平和10原則」は1954年、ネルー首相と周恩来総理による「平和5原則」を発展させたもの。具体的には@基本的人権と国連憲章の尊重A主権と領土保全の尊重B人権と国家の平等C内政不干渉D個別・集団自衛権の尊重E大国本位の集団防衛体制への反対F不侵略G平和的紛争解決H共通の利益と協力の増進I正義と国際義務の尊重――をうたっている。

 注2 雁が雁頭(リーダー)を先頭に翼を広げて飛行するように、東アジア諸国が、日本を先頭にNIES諸国・地域(韓国、香港、台湾、シンガポール)、そしてその他の東アジア諸国・地域が経済成長を達成していくという考え方。

 注3 対アラブ諸国とは2010年までに双方の貿易額を1000億ドルにするアクションプランが発表されている(6月の中国・アラブ協力フォーラム第2回閣僚級会議)。

 注4 沿海大発展(1980年代)、西部大開発(1990年代末から)、東北振興(21世紀初頭から)、中部崛起(2005年以来)の地域発展戦略のこと。(2007年1月号より)


 
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