中国国際放送局記者・アナウンサー  王小燕
 
六本木の空から北京の大地へ
 
     
 

 

 7月26日から8月1日、「ともに築こう 平和と繁栄――中国と日本60年の歩み」写真展(中国国務院新聞弁公室主催)のお手伝いで、私は2年半ぶりに日本へ行ってきました。会場の六本木ヒルズの52階から、北京の大地に降り立った今、自分の中の日本イメージがカーブを描き、両国関係を見つめる視点が、前よりも豊富になってきたことに気づき、勇気をもらったように嬉しく思っています。

日本は良い国

 成田空港に降り立ち、真っ先に目に映った横断幕に驚き、思わず歓声を上げました。

 「日本歓迎にン(ようこそ日本へ)」

 何と、中国語で書かれているじゃありませんか。そういえば、前日、日本の中国全土向け団体観光ビザが解禁されたばかりでした。それにしても、北京と東京は本当に近い! 感覚的には、北京空港で飛行機に乗れば、西へ3時間ほどでウルムチ、南へ3時間ほどで昆明、そして、東へ3時間ほど飛ぶと、東京に到着するといった感じです。

 うっそうとした植生、水道をひねればそのまま飲める水、定刻に走る電車、便利に利用できる宅急便、清潔な街並み。散在している建築材料は見かけず、整然と、「こっそり」工事を進める超高層ビルの建設現場。道を尋ねれば、直ちに地図を出して、親切に説明してくれる駅員さん。カバンのチャックが開いたままでも、安心して隅に仮置きできる……。このように、すぐに体感できる日本の良さはたくさんあります。

 出発前、いざこざの絶えない最近の中日関係に疲労を感じ、日本に対するイメージがかなり硬直化していました。しかし、実際に行ってみたら、日本は良い国で、日本人も友好的で、フレンドリーな国民だと改めて感じることができ、正直、救われた思いがしました。

写真展、大勢の来場者を迎える

 ところで、この春以来、中国を訪れる日本人観光客は半減とも、10分の1にまで減ったとも言われています。旅行社勤めの知人の話では、日本語ガイドだと商売にならず、仕方なく転職してしまう人が続出しているほどのようです。こんな微妙な時期での日本出張だけあって、日本人の中国嫌いはイベントの開催に悪い影響をもたらさないか、正直、これは出発前に心配していたことでした。

 しかし、いざ本番となり、来場してくださった参観者の表情や、メッセージブックの記帳内容を見て、ひとまず安心しました。そのほとんどは、友好を物語っており、写真展の意義を肯定したものでした。

 「これまで多くの人々の努力によって、平和の道が築かれてきたことを思うにつけ、未来にわたって、より平和への道に向かって、努力をしていきたいと思います」と浜松からの来場者。「今まで知らなかった感動的なストーリーを数多く知り、感動しました」と東京都の主婦。「人間は弱い動物。悪いことばかりではない。心を開けば、分かり合える」と中年男性。「戦後60年の節目の年で、日中友好関係や第2次世界大戦を良く考えてみようと思うようになりました」と中学2年生。

 台風一過、六本木ヒルズ52階から紺碧の空を眺める気分の爽やかさ。私の心情にぴったりのメッセージも見ました。「日中の歴史を上空のフロアで感じることができて、日中関係を見通すことができてよかったです」と。

 来場者の中には、写真展の開催を知らず、展望台の見学でたまたま来場した方たちも多かったようですが、皆さんはこの「意外」だったかもしれない写真展に対し、拒絶反応を見せず、温かい眼差しを向けてくださいました。

 会場の若者4人組による中国民族楽器の演奏が好評を博し、観客から『赤とんぼ』のリクエストまでされました。また、秋爽・寒山寺住職の揮毫の前にも、書を待つ人々は列をなしました。ちなみに、お書きになった字の中で、「和」が最も多く書かれた字だったそうです。

 東京一トレンディーな街、ここ六本木ヒルズの「上空」で、私の出会った来場者たちは中国に対し、フレンドリーで、親しい感情を抱いている人たちばかりでした。

中日関係を多様な視点で

メッセージブックに記帳する山崎祐くん(船橋市、9歳)。「肉まん大好き」と話す

 今回の出張で、心の底から痛切に感じたことがあります。それは、日本も中国も、一般市民は皆、平和を愛し、友好関係を切に望んでいるということです。この点が確認できたことは、私自身の強い励ましになり、ここから大きな力をもらったように思っています。

 しかし一方、帰国後の数日間の時局にふれ、手放しで喜べないことも感じております。7月末から、メディアで踊っていたニュースに目をやってみると、
 
 「7月28日 東京都教育委員会、都立中高一貫校向け『つくる会』教科書採択」「7月30日 平和憲法の改正反対で、東京都と広島県で1万人規模の集会」「8月1日 自民党、新憲法草案条文案公表、『自衛軍』の保持を明記」「右翼勢力、20万人参加の靖国神社集団参拝を呼びかけ、小泉首相の8月15日参拝を主張」「8月2日 衆議院本会議で『戦後60年決議』採択、『侵略戦争』『植民地支配』盛られず」「8月2日 中国外交部、日本の防衛白書が『中国の脅威を誇張』と批判」「8月6日 原爆投下60年、広島で記念式典」・・・・・・

 戦後60年目を迎えた中日関係は、決して単純一色なものではなく、複雑な側面を数多く抱えていることを思い知らされます。六本木ヒルズの上空で感じ取ったフレンドリーな感情は、残念ながら、中日関係のすべてではありません。しかし、その感情は確かに、実在しているものですし、中国人が日本を見る目にもそれは流れているのです。

 錯綜している時代背景をバックに、両国の一般市民はどのように付き合っていけばよいのか。パソコンで答えになるヒントを探している私の目に、こんな言論が映り、深く頷くことができました。

 「(今後の中日関係は)単なる政府とハイレベルの往来で構成するものではなくなる。代わって、益々豊富で多彩なものになり、社会対社会、民対民と言ったように、トータル的な交流が主な内容となりつつあろう。それにより、従来の『二国間関係』という言葉のニュアンスも変わり、人々のイメージも変わっていくことだろう」(中国社会科学院・金煕徳教授)

 1つの視点のみで両国関係を見たり、問題点にばかり注目したりするのでなく、様々な問題があることを覚悟しながら、色々なレベルから両国関係を発展させていく。これこそ、現状打開策に繋がる方策かもしれません。

 六本木上空で受けた感動を忘れることなく、北京の地面に降り立ち、1個人として、日本との向き合い方を改めて考えたとき、多様な視点の必要性を痛感した今日この頃です。(2005年10月号より)

 

 
     


 
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