秘境アバの自然と民族 F


自然が描き出した彩色画
トラバーチンと苔のハーモニー

劉世昭=文・写真
 
才盖村の村人は伝統的な耕作方法で農作業を行っている

 天地開闢の時、カ竜と九寨、黄竜の三姉妹がこの世にやって来た。そして彼女たちが行くところで万物が生まれ育ったという伝説が、この土地に伝わっている。

 黒水のある谷に着いたカ竜が、緑のスカートを広げると、山一面に木々が生い茂った。そして、頭に挿していた翡翠の簪でいくつかの泉を描き、真珠のネックレスを撒いて、色とりどりの池に変えたという。

絵巻物の終着点

カ竜溝にある才盖村

 車で黒水県城(県政府の所在地)の芦花鎮を離れ、流れの急な黒水河に沿って、次の目的地、カ竜溝へ向かった。

 40キロほど走ったころで、色とりどりの林に覆われた谷に入った。その林は30キロも続き、まるで自然の「絵巻物」の中を通り抜けているようだった。

長さ6キロのカ竜溝の通路

 「絵巻物」の終わりには、27戸のチベット族の人が住む才盖村があった。流れの速い小川の両側には、杉の板を組み立てたチベット式の民居が点在し、それぞれの家の前には、ハダカムギを干すための棚も見られた。

 才盖村の人たちは、主に農業で生計を立てている。谷の底にあるこの村は、古風で飾り気がなく、静かな雰囲気が漂っていた。

 そんな静かな中でも、子供たちはにぎやかに遊び戯れ、老人は数珠を一つ一つ手繰りながら、家の前で日差しを浴びていた。婦人たちは、家事に忙しそうで、近くの山の斜面では、男たちが2頭のヤクに犂を引かせて耕す伝統的な農耕の方法で、それぞれ自分の土地を耕していた。

トラバーチンに覆われた自然

山水がカ竜溝の野山に流れ、溝という溝にトラバーチンが沈積している

 才盖村の南側の道路に沿ってカ竜溝に入り、数キロも行かないうちに、行き止まりになった。カ竜溝はチベット語で「カロロ」といい、「カロ」は花を、「ロ」は「谷間」を意味する。カ竜溝は、「花が咲き乱れる谷間」なのである。

 カ竜溝は、長さ約6000メートル、海抜2900〜4000メートルにあり、谷間を通り抜けると息が苦しくなってきた。そして板の通路を渡って原始林に入った。

 ここはカルスト地形で、谷川の水には多くの炭酸カルシウムが含まれている。そのため、水が流れたところは、炭酸カルシウムが沈殿し固まっていた。

カ竜溝の「真珠飛瀑」

 山の斜面の林から何筋もの滝が流れ落ち、長年の浸食によって淡い黄色のトラバーチンが沈積していた。数年前、滝の前に架けられた通路も、トラバーチンに薄く覆われ、しだいに周りの自然に溶け込んでいた。

 通路のそばには、一筋の山水が林の中から湧きだしていた。そして、トラバーチンが堆積した高さ4メートルの斜面に沿って流れ落ち、しぶきが、観光客の服に飛び散っていた。そのためこの景観は「真珠飛瀑」と呼ばれている。

 訪れる人が少なく、谷間の湿度も高いため、通路は滑りやすかった。両側の樹木には、サルオガセが絡みついて絹糸のように風に揺れ、原始の森林を思わせる風景だった。

様々な色の苔

カ竜溝のいたるところで、樹木に絡みついたサルオガセが見られる

 通路の両側には、澄み切った渓流がさらさらと流れ、山は見渡すかぎり、濃淡のある緑、エメラルド・グリーン、こげ茶、淡い黄色など、様々な色の苔が見られ、本当に色鮮やかである。苔とトラバーチンが入り交じり、互いに引き立てあう光景はとても美しかった。

 海抜約3300メートルまで登ると、目の前にはカラフルな苔の絨毯を思わせる斜面が広がった。斜面の長さは約40メートル、幅は約20メートルの「苔蘚彩毯坡」と呼ばれる、谷の中では苔が絨毯のように連なって広がっている場所である。

 苔は、トラバーチンの堆積した斜面に寄り添うように生え、緑色をメーンにして、様々な色に変化している。苔に軽く触れると、絨毯のようにきめが細かく、弾力があった。

アジア最大のトラバーチンの坂、彩る豊かな「翡翠金坡」

 さらに登ると、地質専門家からアジア最大だと称されている、トラバーチンの斜面に着いた。この斜面は「翡翠金坡」という美しい名前がつけられ、カ竜溝のトラバーチン地形の中ではとてもすばらしい所である。

 長さ150メートル、幅70メートルの斜面を仰ぎ見ると、様々な色のトラバーチンは、まるで画家が地面に思いのままに描いた油彩画のようで、黒、白、グレー、黄色、オレンジ色、茶色のトラバーチンの傍らを緑の苔が覆う情景は、まるで自然が作ったすばらしい絵画に思えた。

 斜面の波形の堆積したトラバーチンは、まるで人の肌のようで、山水に洗われ、より一層きめ細かくなめらかになり、海抜4000メートルの頂上にあるごつごつした石林と比べてとても対照的だった。

トラバーチンの博物館

黒水のほとりにあるチベット族の村落セルグ村

 「翡翠金坡」の上には、トラバーチンの澄みきった「彩池」があり、ヒョウタン形の池の周りは、苔が一面に生えている。この池は、仙女たちが入浴や化粧する場所だと言い伝えられてきたことから、「仙女池」と呼ばれている。

セルグ村の建物は、すべて石を積み上げれ作られている。かつて、普段は民居で戦争の時は砦になった

 また地元のチベット族の人々は「仙女池」を、「神水の聖地」と見なしている。毎年チベット暦の新年になると、近くに住む人たちが盛装をし、ここで「神水」を飲んで新しい一年を迎えるそうだ。

 カ竜溝には、自然にできた大小様々なトラバーチンの池が1000以上もあるといわれる。カ竜溝に来る前、この地はトラバーチンの博物館だと聞いていたが、確かにその通りだった。

 夢のような世界を思わせるカ竜溝を後にし、古い砦が見られるチベット族の村セルグ(色爾古)に向かった。(2006年7月号より)

 


 

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