雲南省紅河ハニ族イ族自治州金平県
  男人節 華やかに勇者を称える


写真・文 劉世昭 

 

 

 ザミ村は、雲南省紅河ハニ族イ族自治州の南端、金平県にあるダイ族の山村で、この地は、中国とベトナムの辺境にあたる。村の「男人節」に参加するため、私は昆明から汽車に乗り、700キロ先の目的地に向かった。険しい山をのぼり、渓谷を越え、丸々一日半を費やして、ダイ族の山村にようやくたどりついた。

 それにしても男性の祭りとはあまり聞きなれないものだ。村についたその夜、私は今年60歳になるダイ族の老人、李金貴さんを訪ね、その由来を語ってもらった。


ダイ族の盛装に身をつ
つんだザミ村の娘たち



来賓を迎える礼砲が大空に響く

 はるか昔の年の暮れ、村が外敵に脅かされ、男たちは一丸となって立ち上がった。敵を倒し勝利を得て村に戻ると、時はすでに春節も終わるころとなっていた。村を守っていた女性たちは、夫や兄弟の勝利を祝い、ブタやニワトリを屠って酒を準備し、彼らのためにもう一度春節を盛大におこなうことにし、それは8日間にもなった。この祝いが今日まで続き、男人節となったという。李さんはまた、毎年旧暦1月29日から2月6日にかけて、村を流れる川の流域のダイ族とチワン族の村でも、みなこの祭りを開催すると教えてくれた。

 到着して二日目は、ちょうど旧暦1月29日だった。朝早く、盛装を身にまとった村人たちが村の入り口に並び、客の到来を迎える。李老人も彼らの中に立ち、ダイ族独特の弦楽器で、ゆったりとした旋律の曲を奏でている。彼の話では、弦楽器は自分で作ったもので、「葫蘆琴」と呼ばれる名前の通り、原材料は自然に実るヒョウタンだという。大きなものは1メートル以上もある。これはダイ族の男性の楽器であり、踊る時、または恋を語る時、奏でるのだという。隊列のなかの娘たちは、目にも鮮やかな民族衣装をまとい、手には酒杯をかかげて来賓にすすめ、それから五彩のスカーフを訪れた人の頭に結ぶ。一列になった男たちは手に自家製の猟銃を持ち、空に向かって撃つ。銃声は渓谷に響き渡り、その耳をつんざくような音はまさに男性の祭りの始まりを思わせる。


男たちはまず酒を犠牲者に捧げる

女性たちは夫を川辺の
水浴びに連れて行く

 午後1時、祭りの序幕が切って落とされた。この時、黒い服に身を包んだ屈強な男たちは、村の外に集まっている。銃声が響くと、当時の凱旋戦士を象徴する男たちは、刀と銃を背負い、手には旗を掲げて田の間の小道を村にむかって進む。村の長老は女性たちを率いて、手に酒を捧げ、彼らを歓迎する。戦士たちは村の入り口で跪き、隊を率いるリーダーは、長老が捧げる二杯の酒を厳粛な様子でおしいただき、それを地に注ぐ。これは村を守るために犠牲となった尊い兄弟たちに捧げるものだという。彼が三杯めを飲み干すと、女性たちは次に酒を自分の夫に捧げる。酒を飲み終わると、男たちは村の入り口の広場で手に刀を持って舞を始める。これは戦場での勇敢な戦いと同時に、彼等の勝利の歓びを表す。男性たちの舞が終わると、鮮やかに染めた絹を持った女性たちの伝統の舞が始まる。周囲の村からもたくさんの見物人が訪れ、彼らは、吊り橋、山の中腹、木陰などに陣取り、催しを見物する。土地の人たちに教わって私も女性たちの服装から、チワン族、ハニ族、ミャオ族、ヤオ族が見分けられるようになった。つまり、今では男人節は周囲の村の人々の大集会になっているのだ。


琴を奏でる李さん
 舞踏が終わると、妻たちは夫を村の近くの川まで連れて行き、戦いで汚れた土埃をおとすようにすすめる。この時、ふだんは静かな川がたちまちにぎやかになり、石の上に座わらされた男たちは、妻によって髪の毛を洗われる。  対岸では、人々が石を積み上げて炉を築き、柴で火をおこし、竹串にさしたトリ肉をあぶりはじめる。子供たちも川のなかで盛んにはしゃぎまわる。

 男人節では、多くの男性むけの娯楽が行われる。特に三階建ての高さくらいはあると思われる竹竿にのぼる競技は最も人目をひく。二本の竹の先には赤い糸で葫蘆琴が結ばれ、選手は両手だけを使って竹をよじ登る。竹のてっぺんにたどり着いた者は勝利の印に琴を鳴らす。

 このような催しは、参加者の腕とともに強さを示すことができるため、男たちは競って競技に参加したがる。勝利者はまた下りてから2元から10元くらいのお金が包まれた「紅包」を受け取り、形ばかりの励ましを受ける。包みを開く男たちの周りでは笑い声や歓声がこだまする。


選手たちの力量を競う竹竿のぼり

伝統の弓を射って遊ぶ男たち

 川岸はさらにたいへんな盛り上がりになっている。村人たちは橋の下に、竹や木、石で臨時の堤防を築き、水をせきとめて小さな池をつくる。この池では二競技が行われる。一つは男性が水に潜り、腕輪を探す。主催者は、女性用の腕輪を象徴する金属の輪を水に投げ入れ、男性たちがそれを潜って探す。金属の輪は直径約七センチ、紅絹で包まれている。潜るのは一度だけ、という決まりのため、男たちはまず深く息を吸い、水に入っていく。10秒、20秒、1分、2分……ついにまず一人、耐え切れなくなった者が苦笑しつつ顔をだす。そのあと「ホラ!」という声が聞こえ、手に高く腕輪を掲げた勝者が顔を出す。見物人のうち一番喜んでいるのは、もちろん彼の妻だ。そしてまた金属の輪が投げ入れられ、男たちが潜り始める。

 池の端では、二つのいかだが浮かべられ、競争が始まる。もともと山の民である彼らは棹の使い方には慣れていない。棹はいうことを聞かない玩具のようであり、いかだはその場で回転するばかりだ。時にはかんしゃくをおこして力いっぱい棹をこぎ、かえって水中に投げ出され、見物人の爆笑を誘う者もいる。

 黄昏が近くなると、村の通りには多くの食卓が並べられ、延々と500メートルにも及ぶ。食卓の上にはダイ族独特の料理が並ぶ。盛装をまとった娘たちが席を回って酒をすすめ、宴はおおいに盛り上がる。私は撮影を理由に、なんとか白酒を逃れていたが、最後には十数杯もの白酒を飲まされることになり、アルコール度50度以上もあるその強烈な液体に、頭がくらくらしてしまった。


楽しいいかだ競争

かがり火のまわりで
夜通しの踊りが続く
 天はだんだん暗くなり、宴に集まった人々は、村の中央へ向かう。そこにはかがり火がたかれ、祝祭日にしか使わない、ダイ族の言葉で「公竜」と呼ばれる太鼓が鳴らされる。かがり火のまわりで人々は輪になり、太鼓の音と音楽にあわせて踊り続ける。踊る人が増えるにつれて、その輪は二重にも三重にもなり、夜がふけても、村はいつまでも歓びに包まれているようだ。(2001年10月号より)