【お祭り賛歌】


雲南省モウ海県のプーラン族
子どもから大人へのハードル

             写真 文・楊 傑


一列に並んで座り、村人から祝福される出家する少年たち
 プーラン族は、ミャンマーと国境を接する雲南省モウ海県の山中に暮らしている。古くから原始宗教を信じ、自然現象を崇め、万物に神霊が宿ると考えてきた。このような信仰が、彼らの思想を支配し、あらゆる生活に影響を与えていた。

 二百年以上前、同県からそれほど遠くないシーサンパンナのダイ族の首領は、プーラン族に対する政治的、経済的な統治力を強めるため、高僧を派遣して、日本では小乗仏教と呼ばれる上座部の教えを広めようと努めた。仏教は、徐々にプーラン族の生活区に浸透していったが、初期には、原始宗教信仰者の抵抗に遭い、解決できない問題も多かった。それでも高僧が何度も同地を訪れ、奇病を駆逐したことで、プーラン族の信仰を勝ち取っていった。

 仏教の普及は、人びとの原始宗教信仰の重要度を下げ、仏教と原始宗教の地位は逆転し、ほとんどの祈祷師も仏教を信じるようになった。これにより、同地には、原始宗教と仏教が共存するようになった。

家族は、出家する少年を背負い、清めの儀式を行う

 そして、プーラン族の僧侶や高僧も現れた。プーラン族には、言語はあっても文字はなかったため、タイ語の経典を学んだ僧侶たちは、初めての知識人となった。

 時は流れ、いまのプーラン族には、こんな習慣がある。

 少年は、14、5歳になると出家し、短くて1、2年、長い場合には5、6年、仏寺で修行し、18〜20歳になって、再び還俗する。プーラン族の村では、出家経験のある若者だけが入れ墨を入れることを許され、妻をめとる資格を得る。出家中には、教養を身につけることができ、社会的地位も上がる。その上、仏寺での身分が高ければ、還俗してからも高い身分が保証される。

出家する少年を祝福しようと、清めの水を手に、少年たちが寺から出てくるのを待つ女性たち
水をかけて祝福する

 一方で、出家経験のない人は、「半人前」と白い目で見られる。村の各種活動に参加できないだけでなく、見くだされ、生活基盤を失ってしまう。

 出家の宗教儀式は「昇和尚」と呼ばれ、「俗人が和尚に昇格する」という意味がある。この儀式は、非常に重視されている。なぜなら、少年の出家はとても名誉なことで、本人や家族だけではなく、村全体の吉事だと考えられているからだ。

 儀式は村ごとに年一回、通常、三日間行われる。

 一日目、出家する少年は、体を清め、剃髪し、新しい衣装を身につけ、友人・親戚からの祝福を受ける。

親たちは、寺に手織り木綿で包んだ線香やロウソクやお金を寄贈する
出家を祝って酒宴が張られる

 二日目には仏寺に入り、戒律を受ける。その間、村人は村の広場(穀物干し場)で出家する少年が出てくるのを待つ。一方女性たちは、年齢に関係なく、誰もが少年を清める儀式で使う水を入れた器を手に待機する。

 午後4時前後、少年たちは、上半身裸になって寺から出てきた。彼らは、人だかりの向かいにある長腰掛けに座り、事前に敷かれていた竹むしろの上に足を置いた。「清めの儀式」が始まった。男たちは、ワァーと声を上げて前進し、われ先にと自分の息子を背負って外に向かって駆け出し、女性たちは、清めの水を少年たちにかけ、祝福した。

 家族の一人が少年を背負ったまま自宅に戻ると、もう一度、少年の体の隅々まで清め直す。仏教の教えでは、この日には、出家する少年は自分で自分を清めることはできないため、家族が彼の体をきれいに洗う。この間も、家族一の力持ちが少年を背負い、他の男性が少年を清める。清めるには、まず頭から水をかけ、頭から順に体、足と洗っていく決まりがある。その間、少年は地に足を付けることはできない。

プーラン族の村

 夜は、気楽に少年の門出を祝う。出家する子どものいる家では、必ず盛大な酒宴を設け、客人を招待する。客人は、酒を飲みながら笛を吹いたり、手織りの木綿で作った扇子で顔を隠してプーラン族特有の歌を歌ったりしながら、主人の接待に感謝し、少年を祝福する。酒宴は夜中まで続く。

跪いて袈裟を授かる
家族は、出家する少年のために荷物を運ぶ。

 この晩、少年は頭に新しいタオルを巻きつけ、彼らの中で最年長の少年の家に集合し、今後も一緒に生活し、学び、年長者は年少者の面倒を見、年少者は年長者を尊敬することを誓い合う。

「袈裟を授かる儀式」が終わると、出家生活が始まる
出家する少年たちは、タオルを頭に巻きつけ、一緒に出家する仲間内で最年長の少年の家に集まる

 三日目の朝、村には耳をつんざくような爆竹の音が響いた。これは、少年が出発する合図である。出家する子どものいる家では、一家総出で荷物を寺に運ぶのを手伝い、見送りをする。

 寺に入った後にも、様々な決まりがある。まず、「普段着を脱ぎ捨てる儀式」が行われ、一連の「昇和尚」の儀式の中で最も重要な「袈裟を授かる儀式」が行われる。それが終わると、少年と両親は寺で一晩を過ごし、念仏を唱えながら出家を祝う。「袈裟を授かる儀式」には、少年本人と両親しか参加できず、他の人は、寺の外からのぞき見るほかない。

 儀式が始まった。まず、少年の両親が手に持ったロウソクに火をつけ、高僧に向かって跪き、息子を僧侶として迎え入れてくれることに感謝を示す。続いて、少年は仏像の前で跪き、高僧に頭を下げる。この儀式中には、各過程で念仏を唱え、三度跪き、三度礼をした。

 これにより、少年は出家して僧侶となり、「俗人」ではなくなった。(2002年12月号より)