【あの人 あの頃 あの話】C
北京放送元副編集長 李順然
背の低い人は長寿?

王宇都宮徳馬さん(右)と筆者。宇都宮さん宅で

 20世紀も余すところ、10年といったころのことだ。北京放送の東京支局長をしていた私は、何回か宇都宮徳馬さんとお話しする機会があった。日中友好協会の会長をしておられたので、中国人のわたしとの間の話題は、いつも中日友好だった。

 宇都宮さんは「私にとって日中友好は、どういう世紀を次の世代に遺していくかということと繋がる問題なんですよ。日中友好の、平和な明るい21世紀を次の世代に遺していきたいですね。私が軍縮に興味を持っているのも同じ理由からですけど……」と話し、傍らの筆を執って書いてくださったのが、このページに掲げた言葉である。

 この言葉は、参議院議員、日中友好協会会長、宇都宮軍縮研究室の主宰者などの要職にある政治家としての宇都宮さんの信条を端的に示すものだろう。宇都宮さんは、その著『軍拡無用』のまえがきで、次のように書いている。

 「われわれ20世紀人は、現在の若者たちに明るい幸福な21世紀を遺すために、これからの十数年間、懸命に努力しなければならない」

 宇都宮さんは、こう語り、こう書き、これを懸命に実行するなかで、21世紀を目前にした2000年7月1日に亡くなられた。享年94歳、無私無欲、ひたすら明るい幸福な21世紀を若者たちに遺すために奮闘された晩年だった。

 議員会館の宇都宮さんの事務所で最後にお会いしたときのことだ。宇都宮さんは「李さん、私も足が弱くなった。そろそろ引退かな」と話され、健康・長寿問答が始まった。宇都宮さんは「中国の人から聞いたのだが、背の低い人は長生きするっていうんだ。私も背が低いから、ひょっとすると長生きするかも……」と語った。

宇都宮徳馬さんからいただいた言葉――本文参照

 これを受けて私は「そうですね。オヒ小平氏も背が低いです。でも85歳(当時)のご高齢のいまも、とてもお元気ですよ。背が低い人でも五臓六腑は背の高い人とあまり変わらない。そこで気が十分に全身に伝わり、元気だという話は、私も漢方医から聞いたことがあります。宇都宮先生はきっと元気で長生きされますよ」と答えた。

 宇都宮さんは破顔一笑、「君は嬉しいことを言ってくれる。元気がでてきた。今晩一緒に食事をしよう」ということになった。残念ながら先約があったので、私たちの健康・長寿問答はここでピリオドとなった。ちなみに、1997年に亡くなったオヒ小平氏も享年93歳、ご長寿だった。

 やはりこの日のことだ。宇都宮さんは「実は、私の家内は中国の大連で生まれたんですよ。でも忙しさにかこつけて、まだ一度も家内を大連に連れていっていない。済まないとは思っているんだけど……。身体が悪いので、もう無理かもしれない。この点からいうと、私の日中友好協会会長は落第ですね」と静かに話された。

 宇都宮さんは私の目を避けるように窓のそとに目をやったが、その誠実さにあふれる横顔を見ながら、私は思った。真に平和友好を願い、軍縮を求める人は、優しい心の持ち主なのだろう。こうした優しい心こそが、平和な明るい21世紀を若者たちに遺そうという宇都宮さんの信条の原点なのだろうと。2005年4月号より



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